コロナ禍の対応を模索する企業。長野県のサンクゼールは、食品へのこだわりは以前と同じだが、この2年ほどで大きな変化を遂げている。その舞台裏と経営戦略を取材した。
各地からおいしいものを集め…147店展開

ご飯のお供に産地直送の珍味、素材にこだわったお菓子の数々。全国の名品を集めた食のセレクトショップ「久世福商店」。

テレビ番組やSNSでも取り上げられ、厚い支持を得ている。
客:
何を食べてもおいしい。厳選されたものを使っているという感じがします
客:
ちょっと高級感があって、たまに来てお土産にしたりするのにいい

飯綱町に本社を置く「サンクゼール」は、自社生産のワインやジャムを扱う店舗と「久世福商店」を全国に147店展開している。
今年度は客足が戻り客単価もアップしているが、やはり昨年度は…。

サンクゼール・久世良太社長:
寝られなかったですよ。霧の中を本当に前進しているか後退しているのか、わからなかったですね
2代目の久世良太社長。2018年の就任から間もなく新型コロナの影響を受けた。苦境をチャンスに変えようと奮闘中だ。
好立地の店を閉め、オンラインショップ強化

サンクゼールの原点。それは久世社長の両親、現在の会長夫妻がペンションを営んでいた頃に売り出した手作りジャムだ。

一時は苦しかったものの、自然志向の高まりでヒット商品に。店を全国展開し、アメリカ進出も果たすまでになった。

しかし、新型コロナで暗雲が立ち込める。緊急事態宣言が出された2020年春は、104店舗で一斉休業。売り上げは4割以上減った。

大量の在庫は大幅に値引きしてドライブスルー方式で販売。取り組みは好評で、社員の士気を高めることもできた。しかし、コストが経営を圧迫。都会や観光地など好立地に出店していた分、固定費がかさんだのだ。そこで…。
サンクゼール・久世良太社長:
事業の中身を大きく変えていかなければいけないと思いました。体質改善、利益を出しやすい、アフターコロナに向けての体質をつくることができたんじゃないかと思います

社長は好立地の20店舗を早期に閉め、この2年の間に郊外店を増やした。そしてオンラインショップの強化に乗り出す。

サンクゼール・久世良太社長:
先回りして自分たちをつくり変えることは、逆にチャンスでもあると思っています

全国へ商品を発送する配送センターは人員を倍に増やし、注文が一目でわかるシステムや新たな包装機器を導入。売り上げをコロナ禍前の2.5倍に増やした。
オンライン商店街を設立 養殖魚生産者のもとへ

そして、チャンスと捉えて始めたのが「旅する久世福e商店」通称“たびふく”だ。

サイトに出店者を募り客の注文を受けて、それぞれが産地直送する「オンライン上の商店街」だ。

“たびふく”の支配人・軣(とどろき)真央さん。年末、車で木曽路を走っていた。
“たびふく”支配人・軣真央さん:
これから新規の生産者さんとの商談へ。まさか全国をこんなに旅することになるとは思っていなかったですけど

軣さんは全国を飛び回り、生産者に“たびふく”への出店を打診してきた。
“たびふく”支配人・軣真央さん:
想像していた以上に生産者さんの苦労、コロナで売り先がなくなってこの先どうしよう、どこに売っていったらいいんだ、というリアルな悩みが見える場でもありました

この日、訪れたのはイワナや信州サーモンを養殖している南木曽町の「高橋渓流」。

高橋渓流・高橋俊吾さん:
シーズン中はここでつかみ取りをしてもらったり、上で釣りとかをしていただく形です
コロナ禍で観光客は減少し、商品の販売も半減。販路の開拓が課題となっていた中、商工会を通じてサンクゼールを紹介された。

高橋渓流・高橋俊吾さん:
小さな会社ですので、なかなかECサイトの構築やホームページのリニューアルに時間を割けないというのがあるので、こういう話はありがたい
こちらは、まだ市場に出していない信州サーモンの「とば」。
高橋渓流・高橋俊吾さん:
乾燥させただけ、塩とサーモンだけのシンプルなもの
“たびふく”支配人・軣真央さん:
色がきれい、おいしい。上品ですね、すごく上品

高橋渓流・高橋俊吾さん:
信州サーモンの大トロの部分ですね。それを炙り焼きにした
他にも、解凍して家庭で楽しめる「炙り焼き」や「唐揚げ」も開発中だ。

“たびふく”支配人・軣真央さん:
うん、おいしい!味付けがいい。どれも塩味が上手。オンラインでは「おうち居酒屋」というキーワードも強いですし、面白いなって。セットで送料込み3000~4000円で動きがすごくいいので、可能性を感じます
新型コロナにあえぐ生産者に光を当てるオンライン商店街は、久世福商店のブランド力があってこそ。初期費用はなく、売り上げの15%を手数料とするだけにして出店しやすくしている。

高橋渓流・高橋俊吾さん:
(コロナ禍のうちに)ご家庭で食べて、それをきっかけにいずれ木曽に来てもらえれば
“たびふく”支配人・軣真央さん:
地域で知ってもらうためのアイテムということですね。どうですか、“たびふく”への参加は?
高橋渓流・高橋俊吾さん:
ぜひ
“たびふく”支配人・軣真央さん:
ありがとうございます
いつもお客さんの目線で…原点を忘れず

別の日、信濃町の「サンクゼール信濃町センター」では。
スタッフ:
ちょっと切り口、見せて。おおー、おいしそう!

軣さんたちが熱心に撮影していたのは、脂の乗った徳島産の「すだちぶり」。売り上げアップを狙う作戦だ。

“たびふく”に掲載している「食べてみた」のコーナー。実際に商品がどう届き、スタッフがどう食べたかを詳しくリポートする。
ここでの掲載後、「牡蠣キムチ」など売り上げを60倍に増やした商品もある。

“たびふく”支配人・軣真央さん:
どんな状態で届くのか、どう食べたらいいのか、お客さんの目線で考えたときに足りていないというのがありまして。試行錯誤の毎日で、どんなことでもやってみて、チャレンジを続ける中での一つのヒットコンテンツになっています

“たびふく”の出店はすでに300社以上。コロナ禍の需要とマッチし、売り上げも上々だ。
こだわりの食品を届けるサンクゼール。久世社長はオンラインの割合が増えても原点は忘れずに、コロナ禍を乗り切りたいと考えている。

サンクゼール・久世良太社長:
できるだけ相手にとって喜んでもらえるような、どうしたらいいか考えながら先回りして、できるだけ提供させていただくという姿勢であれば、どんな時代でも乗り越えていける。喜んでもらえる存在になるんじゃないかなと。それは原点の「ペンション久世」のおもてなしというかね。そういったことがお客さまの信頼、信用を高めていくことにつながると思います
(長野放送)