日本の新型コロナウイルスの一日の新規感染者が6万人を超えた。全世界からの外国人の入国は原則禁止が続き、岸田首相は2月末までその措置を延長する方針を発表した。

多くの外国人が日本への入国を待ち続けている中で、海外から青年を日本に招き、全国の小・中学校や高校で、国際交流と外国語教育に携わる目的の「JETプログラム(語学指導等を行う外国青年招致事業)」が今、窮地に立たされている。家も車も全て売り、スーツケースにあらゆる夢を詰め込んで、日本行きをめざしていたある青年。しかし、飛行機に乗る直前にその願いは絶たれた。「日本に行くことが私の夢」と語るアメリカ人青年は「大好きな日本に行くのを諦めない」と困難な状況でも懸命に出発の時を待ち続けている。

“学校にいる外国人の先生” 世界から7万人以上が日本に

JETプログラムは、1987年に海外の青年を日本に招致し、地方自治体や全国の小・中・高校で、国際交流と外国語の教育に携わることにより、地域レベルでの草の根の国際化を推進することを目的としてスタートした。応募要件は、大学の学士以上の学位取得者などに限られる。

当初はアメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランの4カ国から848人が参加し、今では57カ国に拡大。1年間で約6000人の外国人の青年がこのプログラムを使って日本を訪れている。これまでに75カ国、7万人以上が参加し、45都道府県の約1000の地方公共団体等が参加者を受け入れている巨大なプロジェクトだ。

特に北米からの参加者は4万5000人以上で、日米の青年による文化交流の懸け橋として位置づけられてきた。1月22日までアメリカの駐日臨時代理大使を務めた、レイモンド・グリーン氏もJETプログラムのOBだ。

JETプログラムのOB 駐日米国臨時代理大使を務めたレイモンド・F・グリーン氏
(在日米国大使館HPより※現在は首席公使)
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参加者は「外国語指導助手(ALT)」、「国際交流員(CIR)」、「スポーツ国際交流員(SEA)」の3つの職種に分けられる。学生時代に母校に来た、ALTの先生を思い出す人もいるかもしれない。その伝統的な国際交流のプロジェクトが今、コロナ禍で危機的な状況に陥っているという。

日本全国で活動する参加者達(JETプログラムHPより)

「国境はまた開かれるのか、閉ざされたままなのか」

JETプログラムのアメリカ同窓会組織「US JETAA」の専務理事を務めている、バヒア・サーモンズレインさんは、群馬県の女子校でのALTや、教育委員会でALTのアドバイザーとして勤務した経歴を持つ。

インタビューに応じてくれたアメリカのJET同窓会組織「USJETAA」のバヒア・サーモンズレイン専務理事

彼女は「日本での体験は本当に素晴らしいものだった」と振り返る。都会とは違った日本の地方独特の文化や、美味しい食事、ウィンタースポーツなどの魅力を語ってくれた。そして何よりも、学校での授業で、「生徒が話す機会を持つことで、どれだけ英語が上達するか実感した」と、その意義も熱く話してくれた。

バヒアさん:
「新型コロナウイルスの拡大との長期化が、JETプログラムに影響を与えています」

バヒアさんによると、多くのJET参加者が日本への入国停止により、厳しい状態に置かれているという。

バヒアさん:
「日本の国境はまた開かれるのでしょうか?それともずっと閉ざされたままなのか?日本での仕事に就けるかわからないから、アメリカで別の仕事を探した方がいいのではないか、と考えるJETもいます」

さらにバヒアさんは、2019年に来日する予定だった人が未だに待機を強いられている現状や、日本に行くことを諦めるかどうか検討せざるを得ない人が出ているなど、苦しい現状を明らかにしてくれた。しかし、一方で、次のようにも語る。

バヒアさん:
「日本への渡航を待ち望んでいる人たちの熱い思いは、まだたくさん残っています。彼らは本当に日本に行きたいと願っているのです。彼らは、日本人の生徒たちの英語学習に貢献し、母国の文化を共に分かち合うことができることに、本当に興奮しているのです。たとえそれがどんなに困難なことであってもです」

私が直面する最大の問題は「不確実な未来」

大学で国際ビジネスとマーケティングを学んだ、ブラッドリー・シュフォードさんは、2019年に大分県別府市に短期間留学した。その時の経験を「日本人は驚くほどフレンドリーだった。どれだけ歓迎されていると感じたか、とても日本人を尊敬しています。日本はとても美しい国で、経験することがたくさんありました」と語る。

日本の文化をさらに学び、アメリカの文化を日本に伝え、そして日米双方の懸け橋に将来はなりたいと、2020年に日本のJETプログラム参加を決めた。しかし、2021年9月に審査を通過した後に待っていたのは、2021年に11月30日から始まった、オミクロン株の感染拡大による外国からの入国の一時停止だった。2021年中には日本に行く予定だった、ブラッドリーさんの入国は宙に浮いたままだ。

ブラッドリーさん​:
「私が直面する最大の問題は不確実な未来です」と語ったブラッドリーさん。

日本政府の入国制限について聞くと、「なぜ外国人が締め出されているのか理解できません。なぜなら、入国制限の目的は終了しており、もう目的は残っていないからです」と、ぽつりと漏らした。確かに当初の目的だった、オミクロン株はすでに日本国内で流行し、「オミクロン株の入国を水際で止める」という目的は意味をなさなくなっている。アメリカでは、すでに入国規制を撤廃している状況から考えれば、日本政府の方針に違和感があるのだろう。しかし、一方で、ブラッドリーさんはこうも語る。

ブラッドリーさん:
「決して日本のことを悪く言いたくない。私たちアメリカ人もコロナを恐れているし、日本人はもっと恐れているのかもしれない」

「日本が大好き」と語るブラッドリー・シュフォードさん
留学先の大分県別府市のお祭りに参加したブラッドリーさん(2019年7月)

「私の未来は日本にある…だから諦めない」家も車も失った仲間も

ブラッドリーさんは、同じような境遇に置かれている約100人の仲間と、オンライングループを作り毎日、不安な状況に置かれている中でも将来について話し合っているという。

ブラッドリーさん:
「私の友達は、家がない。仕事がない。多くの人が仕事を持っていない。日本に行くために、いつ辞めるか分からない中で、会社に就職はできないのです。だから、毎日を安定した気持ちで過ごすのは難しいのです」

さらに、南アフリカの友人は飛行機に搭乗する直前に、出発が中止となったという。
「飛行機に乗る直前で、フライトが欠航になり、家も車も売ってしまったのです。人生全部がスーツケースに入った状態で、『自分でなんとかしてくれ』という状況に追い込まれました」

ブラッドリーさん自身も今の心の支えは「友人と家族」と語る一方で、大学を卒業した妻は、ブラッドリーさんの訪日に同行する予定のため、アメリカで就職できない状況にある。すでに一緒に日本に行くことを志した仲間のうち、何人かは夢だった日本行きを諦めたという。しかし、私がブラッドリーさんに、「この状態でいつまで待てるのか?」と聞いたところ、彼は力強くこう答えた。

ブラッドリーさん:
「諦めない。諦めない。JETプログラムで日本に行くことは私の夢だから、諦めないです」

ブラッドリーさん夫妻 2人が出会った場所も留学先の大分県別府

「入国制限はNHKで知った」情報提供も不足する現状

前述した、JETの同窓会組織に勤めるバヒアさんは、日本の入国制限について一定の理解を示した上で、このように述べた。

バヒアさん:
「日本は入国制限が非常に厳しいと思います。オミクロンの前も入国規制は非常に厳しく、日本人の安全を守ってきたと思います。ですから、日本にはすでに非常に安全な規制があるのだと考えてほしいです。日本政府が国境規制を検討する際に、JETプログラムのようなプログラムの重要性を考えてほしいです。日本政府には、(JET参加者が)日本に来て、日本の英語(学習)にとって非常に重要な仕事に就くことができるように、いくつかの例外を設けてほしい」

また、ブラッドリーさんからは情報提供の重要性も指摘された。

ブラッドリーさん:
「2021年中に出発すると言われたあと、日本政府は11月30日に外国人の入国を一時停止した。それはJETの事務局からは何も聞いていません。NHKのニュースで知りました」

入国制限の決定が、JET側から伝えられたのは、およそ1週間後の12月6日だったという。

こうした中で、浮き彫りになってきたのは、日本政府を主体とするJETプログラム側のアフターケアの不足である。日本に行くために待機している参加者は、1カ月に1回ほど、現地のJETプログラムの担当者と話をする機会が設けられているというが、「何も話すことがない」「東京からの情報を待っている」ということだけで、終わってしまうこともあるという。政府として、水際対策の方針に変更がない中で、軽々に発言ができないのは分かるが、不安な状況にありながら、日本に「それでも行きたい」と思ってくれる外国人に対して、もう少し丁寧なケアができないものなのかとも考える。

もちろん、日本の国民もコロナ禍で、生活に不安を覚える人、長期間にわたり苦しい状況に置かれている人が多くいる。ただ、長い年月をかけて培ってきた日本と世界の絆が失われようとしている状況も見過ごせない。

日本の教育現場からも、JETプログラムの早期再開を求める声が根強くあるという。日本が入国制限を解除した時に、日本に行きたいと思う海外の優秀な人材がいなくなる、または二の足を踏むようなことがないように、日本政府はきめ細かな対策を講じる必要性があると感じる。

ブラッドリーさんが「心の支え」と語る家族

【執筆:FNNワシントン支局 中西孝介】

中西孝介
中西孝介

フジテレビ 報道局 政治部 与党担当キャップ・ニュース制作部を経て、現在FNNワシントン支局

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