静岡県熱海市で発生した土石流で母親を亡くした男性が2021年12月、被害者の会の会長として初めて講演をした。災害関連死を含み死者・行方不明28人となった今回の悲劇を二度と繰り返さないために。涙ながらに訴えた男性の思いに迫る。

母の姿にぼう然 父も後を追うように…

「熱海盛り土流出事故被害者の会」の会長、瀬下雄史さん(53)。

土石流の発生から5カ月が過ぎた12月5日、瀬下さんは神奈川県小田原市の喫茶店で打ち合わせに臨んでいた。

瀬下さんの初めての講演会
この記事の画像(11枚)

瀬下雄史さん:
(講演会は)やったことないので、どのくらいの長さにになるかわからないんですよ

講演会担当者:
初めて機会をつくってくださったのですね

千葉県に暮らす瀬下さんが小田原市を訪れた理由は、被害者の会の会長として初めて講演を行うためだ。会場には100人以上が集まった。

盛り土業者の事務所がある小田原市で開催

瀬下雄史さん(講演会にて):
母の遺体は惨状を極めておりました。本当に母なのかと、ぼう然としました

瀬下さんの母・陽子さん(享年77)は、2021年7月3日に熱海市伊豆山の自宅で土石流に巻き込まれ亡くなった。

「熱海盛り土流出事故被害者の会」会長・瀬下さんの母・陽子さんと父・敦雄さん

瀬下雄史さん:
(母の死を)最終的に受け入れたというところまでは、まだ行っていない。慌ただしくしている中で時間が過ぎたし、母の四十九日が終わって次の日に父が息を引き取ったので

パーキンソン病を患い入院していた父・敦雄さん(享年80)は意思疎通が難しく、陽子さんが亡くなったことは最期まで伝えなかった。

母の四十九日の翌日に父も亡くなった

瀬下雄史さん:
「おふくろも応援してるからがんばれ」と言った時に、すごく目を見開いて反応してましたね。四十九日が終わって母がいなくなったので、あわてて父も逝ったんだろうと。どこまで仲がいいんだって

被害者の会をけん引 異例の早さで強制捜査が実現

この悲しみは誰にも味わってほしくないと、約70人いる被害者の会のメンバーの先頭に立ち、活動を続けてきた。

母の遺影と会見に臨む瀬下さん(前列右端)

土石流の起点となった盛り土を造成した不動産会社の元社長と、盛り土の現在の所有者に対して民事訴訟や刑事告訴に踏み切ると、2021年10月に警察は異例のスピードで強制捜査に着手した。

告訴から2カ月半で強制捜査

瀬下雄史さん:
本当に大きな前進になったと思います

「自然災害ではなく人災だ」。業者と行政、それぞれに対する怒りが今の瀬下さんを突き動かしている。

少女の最期に涙 業者と行政を糾弾

瀬下雄史さん(講演会にて):
遺族のある方の事例です。17歳の高校生のお嬢さんが土石流に巻き込まれ亡くなったのですが、巻き込まれた直後にインスタグラムに「生き埋めになりました」「なりまひた」と書いてありました。助けを求めたんですけども、将来のある命を亡くされたと。(涙ぐんで)すいません。こういう実態があったんですが、これも本当に一例です

少女の最期を伝え涙を流す瀬下さん

そして、瀬下さんはこう続けた。

瀬下雄史さん(講演会にて):
一番悪いのは加害者です。熱海市の要請や指導に一切従うことなく、どう喝を含めて「殺人盛土」を造成した。また熱海市は悪徳業者に対して常に弱腰で、必要な対応をとらず放置し続けた。不作為ではなく明らかな過失であると考えています

「殺人盛り土」造成に関する市の文書

母への報告は判決を勝ち取ってから

こうした人災を二度と繰り返さないために。大切なのは住民の団結と毅然とした対応だと瀬下さんは言う。

瀬下雄史さん(講演会にて):
団結して数の力で毅然とした対応をして、メディアを含む仲間づくりをして、情報収集をして、関心を持って声をあげ続けること。最終的に、声を上げ続けていくことを皆様が考えて頂ければ(今回のような被害を)未然に防げるようになるのではと思っています

講演をきいた小田原市民:
(盛り土は)小田原でも切実な問題。対処法も含めてこれから考えて行きたい

聴講者:(盛り土は)小田原でも切実な問題

被害者の会メンバー:
本当に心強い、ありがたい。俺たちの気持ちを代弁してくれて

瀬下雄史さん:
起きてしまったら悲惨なので、絶対に起こさないことに注意や関心を持って頂ければいいと思う。まだ(母親には)最終的な報告はできない。しっかり判決が出たところで、我々の希望する結果が出たところで胸を張って報告ができると思っています

瀬下さん:母への報告は勝訴の後で

世の中を変える。その強い決意を胸に、瀬下さんは声を上げ続ける。

(テレビ静岡)

記事 599 テレビ静岡

静岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。