イラン核合意の再建に向けた協議が、2021年12月17日ウィーンで再開された。再開されたからいいではないか、という話では全くない。議長役を務める欧州連合(EU)欧州対外活動庁のモラ事務局次長が「我々にはあまり時間がなく、明らかに緊急性を感じている」と述べたことが、事態の深刻さを象徴している。

ウィーンで再開されたイラン核合意協議(12月17日)
ウィーンで再開されたイラン核合意協議(12月17日)
この記事の画像(6枚)

2015年イラン核合意の瑕疵

イラン核合意はイランに核兵器を保有させないことを目的に2015年、締結されたはずだった。しかし2018年、米トランプ政権はこの合意には明らかに瑕疵があるとしてここから離脱した。

核合意には核を搭載することのできる弾道ミサイル開発についての制限がないこと、イランが国境を越えてテロ組織を支援することに対しても制限がないこと、核合意に盛り込まれたウラン濃縮などの制限は期限付きであり2031年以降はイランが核兵器保有することを何ら禁じるものではないことなどが挙げられた。

3週間で核兵器1個分の兵器級ウランを製造可能

その後イランは急ピッチで合意に違反する核開発を進め、遠心分離機を回してウランを高濃度に濃縮している。国際原子力機関(IAEA)が発表したイランの核活動に関する報告書を分析した科学国際安全保障研究所(ISIS)は2021年11月、「イランは20%および60%に近い濃縮度の六フッ化ウラン(UF6)を保有しており、わずか3週間で核兵器1個分の兵器級ウランを製造することが可能である」と報告した。

要するにイラン政権は、現在既に核爆弾1個に必要な兵器級ウランを3週間で製造できるだけの濃縮ウランを保有しているのである。核爆弾1個に必要な量の兵器級ウランを製造するために必要とされる時間をブレイクアウト・タイムと言うが、ISISはこれが「危険なほど短縮されている」と警告する。

さらにISISは、イランは濃縮度2~5パーセントのウランを大量に保有しているため、2カ月強で2個目の、3カ月半で3個目の核爆弾に必要な量の兵器級ウランを追加製造できるとしている。

金属ウランの製造も開始

IAEAはイランが核兵器を作るのに欠かせない金属ウランの製造を開始したとも報告している。イラン政府はこれについて「研究用原子炉の燃料開発などの民生目的」だと主張しているが、2021年6月には英仏独3カ国が共同声明で「イランには、核兵器開発の重要なステップである金属ウランの研究開発および製造に対する信頼できる民生上の必要性はない」と断言した。民生上の必要がないにも関わらず金属ウランを製造しウランの濃縮を加速化させているイランは、核兵器保有への道を直走っていると結論せざるをえない。

イラン政府は12月15日には、首都テヘランの北西カラジにある核関連施設に監視カメラを再設置することで国際原子力機関(IAEA)と合意したと発表したが、そのすぐ後には監視カメラの映像はIAEAには見せないと発表した。IAEAのグロッシ事務局長も、イラン核合意が再建されるまでIAEAは映像を見られないことを受け入れたと明らかにした。

監視カメラについてコメントするIAEAのグロッシ事務局長
監視カメラについてコメントするIAEAのグロッシ事務局長

核合意再建のためには、イランが核開発の制限を遵守することが必須だと要求している米国に対し、制限を遵守しているかどうかを確かめるカメラの映像は核合意再建までは見せないと主張するイランは、米国を嘲笑っているかのようである。

各国がイラン政策へ懸念表明

米国はイランと12月27日に核合意再建のための間接協議を再開したものの、翌日には国務省のプライス報道官が「米国はまだイラン側から十分な緊迫感が示されるのを確認していない」と述べた。

一方のイランは30日、ロケットを打ち上げたと発表、ロケットの技術は弾道ミサイルに利用できるなど軍事転用可能であることから米独仏などがイランを非難した。

イランは12月30日、ロケットを打ち上げたと発表
イランは12月30日、ロケットを打ち上げたと発表

サウジアラビアのサルマン国王も12月30日、イランが核開発や弾道ミサイル計画に関して国際社会への協力を怠っていることへの懸念を表明し、「我々は、宗派を超えた武装民兵の建設や支援、他国での軍事力の宣伝など、地域の安全と安定を不安定にしているイラン政府の政策に懸念を抱いている」と述べた。サウジはこうしたイラン政策により直接的な被害を受けている国のひとつである。

一方で、イラン外務省報道官は「核合意協議では進展があった」と会見(2022年1月)
一方で、イラン外務省報道官は「核合意協議では進展があった」と会見(2022年1月)

「機能不全」のバイデン外交

米国で昨年(2021年)就任したバイデン大統領は、多国間主義、多国間外交を掲げてトランプ政権との違いを強調し、その一環としてトランプ政権が離脱した核合意への復帰を目指してきた。その一方で、アフガニスタンにおけるタリバン復権を許したことは、バイデン流外交の「機能不全」あるいは失敗を印象づけた。

「機能不全」を印象づけたバイデン流外交
「機能不全」を印象づけたバイデン流外交

2022年も深刻な国際問題は山積みである。このままではバイデン政権はイランに核兵器保有を許し、ロシアにウクライナ占領を許し、中国に台湾占領を許すことになるかもしれない。

【執筆:イスラム思想研究者 飯山陽】

飯山陽
飯山陽

麗澤大学客員教授。イスラム思想研究者。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。著書に『イスラム教の論理』(新潮新書)、『イスラム教再考』『中東問題再考』(ともに扶桑社新書)、『エジプトの空の下』(晶文社)などがある。FNNオンラインの他、産経新聞、「ニューズウィーク日本版」、「経済界」などでもコラムを連載中。