エルサレム旧市街で11月21日朝、42歳のパレスチナ人の男が自動小銃を発砲しユダヤ人1人を殺害、4人を負傷させる事件が発生した。現場近くにいた女性警官が直ちに対応して男を射殺、その間、わずか30秒程度だったとされる。
イスラエル当局はテロ事件だと発表、米国務省や仏当局も卑劣なテロ事件として非難する声明を出した。
この記事の画像(5枚)テロ組織ハマスの「有名人」
加害者の男、ファーディー・アブーシュハイダムはパレスチナ人にも、そしてイスラエル当局にもよく知られた「有名人」だった。
アブーシュハイダムはイスラム過激派テロ組織ハマスのメンバーだった。
ハマスは日本の公安調査庁の国際テロリズム要覧2021にも記載されており、日本政府もハマスについて「国連安保理決議1373に基づいて、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく資産凍結措置の対象としています」と明言している。
犯行後、ハマスはアブーシュハイダムの「作戦」を称賛し、彼の「殉教」を賛美する声明を出した。この中でハマスは彼のことを「我々の息子」にして「シュアファート・キャンプにおける我々のリーダー」と呼んでいる。
加害者は5人の子を持つ教師
アブーシュハイダムは国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の運営するシュアファート・キャンプで生まれ育ち、イスラム法を学んで学位を取得し、エルサレムにある男子校でイスラム教を教える教師をしつつ、アクサー・モスクで毎日のように説教をしていた。5人の子を持ち、息子の1人はトルコに留学、自らもトルコに不動産を所有するなどかなり裕福な生活を送っていた。
2020年9月にFacebookにアップロードされた説教では、「異端の主」であるユダヤ人とキリスト教徒が、「悪いイスラム法学者」や「慎みや名誉を棄てた女たち」と一緒になって「神の法」に宣戦布告しているのだと訴え、悪魔に導かれ「UAEのベドウィンの汚れたカネ」から資金提供されている彼らこそ「我々の時代のあらゆる不正の源」だと断罪した。
あからさまなヘイトスピーチである。
遺書に綴られた言葉
彼は手書きで4枚にわたる遺書を残しており、そこには「私は初めて歩いたときから殉教者として神に会うことを夢見ていた」といった「殉教」への憧憬と「長年にわたり攻撃の準備をしてきたことの他、「我々は自分の血で船を操縦し、ジハードの道の実践的な手本とならなければならない」「私がこの道を選んだのは、神を喜ばせるため、そして天国に到達するためであることを知るがいい。神のために命を犠牲にすることができる者は、勝利者である」など、彼の後に続きジハードを敢行するよう促す言葉が綴られていた。
ハマスの幹部ウサーマ・ハムダーンは11月22日、ハマスのメンバーにして教師でもあったアブーシュハイダムは、ジハードを実行し「殉教」を求めることにおいても生徒たちの手本になりたいと考えていた、と語った。
アブーシュハイダムは殺害した26歳のユダヤ人青年に対して個人的恨みがあったわけではない。彼はユダヤ人を殺すというジハードと「殉教」こそが神を喜ばせ、天国へと至る道なのだという宗教的信念に突き動かされ、彼がユダヤ人であるという理由だけで彼を殺害したのだ。
ハマスの主張する「イスラエルの占領に対する抵抗運動」の実態とは何か、そしてなぜユダヤ人を標的としたジハードが止むことなく続くのか。ジハードを実行し「殉教」したハマスのメンバー自身の言葉と人生が、こうした問いかけに対するひとつの回答である。