イギリスで急拡大するオミクロン株

南アフリカ政府がその存在を確認し、2021年11月26日にWHOにより最も警戒すべき「懸念される変異種」に指定されたオミクロン株。1カ月に満たないうちに世界各地で急速に広がり、12月23日時点でWHOは106カ国でオミクロン株への感染を確認した。欧州ではイギリスでオミクロン株の市中感染が急速に拡大している。特に首都ロンドンの状況は深刻で、簡易的な解析では12月20日時点で感染例の89.8%がオミクロン株によるものとみられる。

日本でも、大阪と京都で市中感染とみられる例が確認され、感染拡大が懸念されている。東京大学医科学研究所の特任教授で、現在はイギリスのレスター大学附属病院に勤務し、実際に医師として新型コロナウイルス患者の治療にあたってきた鈴木亨教授にオミクロン株の特性と日本の取るべき対策について話を聞いた。

現在は入院急増は見られず。しかし「最悪のシナリオを想定して準備」

鈴木教授によると、現在レスター大学には新型コロナウイルスの患者100人が入院している。1月にアルファ株が流行した時には500人ほどが入院していたので、その時に比べると落ち着いている状況だという。しかし、入院患者の数は感染から遅れて増えるため12月末に入院患者の更なる増加、さらに遅れて1月上旬から中旬にかけ死者数が増加する可能性を指摘する。

直近の研究では重症化リスクはデルタ株と比べて低いとの結果も出ているが、感染力が強いため多くの感染者が出て、それに応じて、入院患者や死亡者が増えることが懸念されている。鈴木教授は「NHS(イギリスの国営医療サービス)は現在、最悪のシナリオに備えて厳戒態勢をしいて年末にむけて準備している。」と話す。楽観できるムードはない。

鈴木教授:
「かかりやすいか、については間違いなくこれまでのどの株よりかかりやすというのはわかっています。入院患者は大体ピークをすぎて2週間おくれくらいに増えてくるものですから、おそらく年末ごろにもし増えるなら、その時に入院患者の第一波がピークを迎えるだろうと考えています。さらに遅れるのが残念ながらお亡くなりになるような方であり、さらに遅れて1月の上旬、中旬ごろになる(増える)かと思います」

ーー感染力が強い分弱毒化しているとの見方もあるが?

鈴木教授:
「そういうことはないです。今のところは、オミクロン株が風邪のような症状でおわるというのがベストシナリオでありますが、イギリスの公的医療制度、NHSとしては今、最悪のシナリオに備えて厳戒態勢を敷いて、年末にむけて準備している状況です」

水際対策以前に日本にオミクロン流入の可能性も

また、日本で市中感染が確認されたことについて鈴木教授は、オミクロン株の存在が判明してからの水際対策は徹底していたが、それ以前に国内に流入していた可能性を指摘する。

イギリスでは、事後の解析で11月末の1週間ほど前にすでにオミクロン株が存在していたことが判明している。鈴木教授は「イギリスは南アとの交流が盛んで日本とは異なるが、同じアジア圏の香港でもオミクロン株は早い段階から見つかっている。最悪の事態としては今回の水際対策を敷く前からすでに(オミクロン株が)入っていた可能性がないとはいえない。」と指摘。

日本でもオミクロン株による感染急増があるかという質問に対しては、変異株の感染発覚から爆発的増加までは一定の時間がかかるので、現時点では何とも言えない」とのこと。

今後の対策については「日本はこれまで大変うまくいっている」としたうえで、これからは水際対策だけではなく、今回の市中感染の発覚を受けて、国内のサーベイランスとモニタリングを強化しなければいけない状況になると指摘する。

また日本のようにデルタ株の大規模な流行がみられなかった地域では、ほぼ全てがオミクロン株になる可能性があるという。
 

鈴木教授:
「イギリスのようなことはあってほしくないですが、最悪の事態としては今回の水際対策を敷く前からすでに入っていた可能性がないとはいえない。日本としても水際だけではなく、国内のサーベイランスとモニタリングも強化しなければいけない状況になってくるということが、もし、国内での市中感染があったのであれば、そこに対し注力しなければならないと思います。」

ジョンソン首相「クリスマス前の制限は無し」休暇明けの状況を警戒

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2021年1月のアルファ株による感染爆発の際も現場で治療にあたってきた鈴木教授は、新型コロナウイルスの症例について重症化するときの展開の速さが怖い、と話す。「重症化しても症状があまり現れないのがコロナの特徴で、酸素飽和メーターが93をきると普通は息切れがし入院を考えるのだが、コロナの患者さんは平気で歩いている。症状があまりきつく出ないんです。それが突然人工呼吸器をつけないといけないような事態に急変する怖さがある」と話す。

オミクロン株の流入以後、イギリスでは感染者数が急増し、1日10万人規模に上る。今のところ、オミクロン株による入院者数はイングランドで195人、死者は18人で、急激ではないが徐々に増加している。ジョンソン首相はクリスマス前の行動制限や規制強化を行う考えはないと断言しているが、多くの人々が交流する休暇明けの状況を注目する必要がある。

【執筆:FNNロンドン支局長 立石修】

立石修
立石修

テレビ局に務める私たちは「視聴者」という言葉をよく使います。告白しますが僕はこの言葉が好きではありません。
視聴者という人間は存在しないからです。僭越ですが、読んでくれる、見てくれる人の心と知的好奇心のどこかを刺激する、そんなコンテンツ作りを目指します。
フジテレビ取材センター室長、フジテレビ系列「イット!」コーナーキャスター。
鹿児島県出身。早稲田大学政治経済学部卒業。
政治部、社会部などで記者を務めた後、報道番組制作にあたる。
その後、海外特派員として欧州に赴任。ロシアによるクリミア編入、ウクライナ戦争などを現地取材。