みんなが食べている給食を、食べられない子供たちがいる。持ってきた弁当をそっと開く。
そんな子供たちのために、静岡市は誰もが食べられる「スマイル給食」を考案。生まれて初めての給食を食べた子もいて、教室は笑顔であふれた。
なぜ給食が食べられない？
給食を食べることができない理由の多くは、食物アレルギーだ。静岡市内の小中学生約1000人が何らかの食物アレルギーを抱え、うち約150人がアレルギー対応給食を選択しているが、重度のアレルギーで全く食べられない子供もいる。
またイスラム教の子供たちは、禁じられているアルコールや豚肉を食べることができない。菜食主義の家庭の子供や、肉が苦手な子供もいる。市によると、給食の代わりに弁当を持参している子供は2021年度で44人いる。
栄養士の瀬戸有紗さんが担当する清水区内の小中学校でも、給食を食べたことがない子供たちがいる。
両河内学校給食センターの栄養士・瀬戸有紗さん：
食べられない子供がいるとわかっていても、制限がさまざまで全てに対応できていませんでした。お弁当を食べている姿を見ると、一緒に給食を食べられたらと思っていました
「スマイル給食」はこうして生まれた
そんな時、静岡市教育委員会から瀬戸さんたち栄養士たちで作る献立研究部会に、誰もが食べられる給食を考えてほしいと依頼が来た。田辺信宏市長は2019年12月、宗教的な配慮をした給食導入の方針を示していた。
食物アレルギー表示対象の28品目（エビ、小麦、豚肉など）に加え、イスラム教の子供たちは料理酒やアルコールの入ったみりんなど、日本食に欠かせない調味料が使えない。
栄養士・瀬戸有紗さん：
誰もが食べられるよう、みんなに人気のカレーを作ることになり、既に提供を始めていた茨城県常総市のレシピを参考にしました
カレーのとろみは小麦ではなく“でんぷん”に。肉はツナとひよこ豆に変更。コンソメは野菜ベースに変え、ソースもりんご不使用のものに変えた。
ところが試食してみると…
栄養士・瀬戸有紗さん：
普段のカレーと比べてスパイスの風味も足りず、あまりおいしくありませんでした…カレーは子供たちの期待値が高く、普段と同じか超えるものを作らないと。「給食が食べられない子のせいでカレーがまずかった」となるわけにいかないので
瀬戸さんたちは材料や調理法を変えて試食を繰り返し、とうとう１年後に納得がいくカレーを完成させた。
試しにある学校で提供してみると、生まれて初めて給食を食べた子供が「おいしい」と笑顔になり、それを見た友達にも笑顔が広がったことから「スマイル給食」と名付けた。
おかわりする子が続々…栄養士も手応え
こうして完成したスマイル給食は、2021年10月に静岡市立の全ての小中学校128校に提供された。
～メニュー～
麦ご飯・スマイルカレー・ブドウジュース・野菜サラダ・レモンゼリー
この日はカレーをおかわりする子供が多く、普段より給食の残りはとても少なかったそうだ。
児童：
カレーにあまり入っていない「ひよこ豆」と「トウモロコシ」が入っているから楽しい
栄養士・瀬戸さん：
給食を初めて食べる子供から、「きょうがずっと楽しみだった」と言われました。クラスの子供たちと同じものを食べている姿を見て、うれしかった
食について授業を行った学校もある。子供たちは「食物アレルギー」は知っていたが、食文化や信条によって食べられない子供もいることを知り、驚いた様子だったという。
弁当を持参しているムスリムの子供たち
静岡市に住むアサディさん一家。モロッコ人の父と日本人の母、高校生から小学生まで4人の子供たちはイスラム教徒＝ムスリムだ。母のみわさんが見せてくれた給食の献立表には、ピンクのマーカーがひかれていた。
母・アサディみわさん：
酢豚、春雨スープ、ポテトスープ、ポークカレー。食べられないものに印をしています。できるだけ給食と同じ献立のお弁当を毎朝作っていますが、小学校と中学校でメニューも違うので大変です
給食費も全額払い、食べられる献立は食べているが、弁当を持っていかなくてもいい日は月に1、2度だ。中学1年生の長女は、友達に弁当を持って来る理由を詳しく話していない。
中学1年長女：
聞かれたら、とりあえず「アレルギーだから」って。全員が全員わかってくれるわけじゃないから
そんな子供たちも、今回みんなと一緒の給食を食べることができた。
母・アサディみわさん：
献立表に「スマイル給食」と書いてあったので、なんだろうと思っていたら、だれでも食べられる給食と書いてあって、子供たちに「きょうは食べていいよ」と言って送り出すことができました
中学3年次男：
普通においしかった
中学3年生の次男も、この日はクラスメイトと同じ給食を食べることができた。
母・アサディみわさん：
学校で温かい、みんなで同じものを食べられる体験をしてほしいと思っていました。ここまでのプロセスは長く大変だったと思うけれど、1年に1回のスマイルでなくて、月に何回も子供たちのスマイルを増やしてほしい
“スマイル”を続けるための課題
ただ、スマイル給食を継続して提供するめどはたっていない。
普段と違う調味料を購入する必要があるが、瀬戸さんたち栄養士の工夫で給食費は通常と同じ1食280円以内。課題は新たな献立のレパートリーと、栄養価だ。アレルギー表示対象28品目を除くと、どうしてもタンパク質などが不足してしまう。
スマイル給食はカルシウムが足りていないので、頻繁に献立に加えることはできない。新たなメニュー考案にも時間が必要だ。
とはいえ、静岡市が踏み出した一歩は貴重で、周辺の自治体にもスマイルが広がって行くことが期待される。
（テレビ静岡）
