12月23日から始まる全日本フィギュア選手権(~26日、さいたまスーパーアリーナ)。

この大会は2022年2月に行われる北京オリンピックの代表最終選考会でもあり、男女ともに3枠しかない椅子をかけて、激戦が繰り広げられる。

代表選考において重要な大会のひとつであった12月のグランプリファイナルがコロナの影響で中止となったこともあり、この全日本フィギュア選手権の結果が、代表選考に占める比重は必然的に高まっている。

この舞台の結果いかんでは、波乱が起こりうる状況だ。

佐藤駿
佐藤駿
この記事の画像(11枚)

シーズン初演技のぶっつけ本番となる絶対王者・羽生結弦。今季ベストスコア日本人1位の五輪銀メダリスト宇野昌磨。

3月の世界選手権で2位に入った鍵山優真らが有力視されているが、その一角を切り崩す可能性を秘めた第4の存在こそ、“天才ジャンパー”と評される佐藤駿(17)だ。

今回の記事では、その魅力と可能性を探って行く。

幼い頃から“天才ジャンパー”として注目を集める逸材

佐藤は、全日本ノービス選手権で史上4人目となる4連覇を達成。幼いころから“天才ジャンパー”として注目されてきた。

13歳で初出場した2017年の全日本選手権ではトリプルアクセルのコンビネーションジャンプを成功。さらに翌年には4回転ジャンプも構成に組み込み、全日本ジュニアで2位となった。

さらなる飛躍のきっかけとなったのは2019年、8月の合宿で4回転ルッツの習得に着手した時だ。

4回転への思いを語る佐藤(2019年)
4回転への思いを語る佐藤(2019年)

「世界を見たら4回転は絶対持ってないと勝てないと思うし、自分よりうまい人なんて山ほどいるので…やっぱ勝っていくためには4回転は絶対必要になってくるので、4回転はとても大事だと思います」

当時そう語った佐藤。

それまで一切練習してこなかったジャンプだったが、なんとこの難易度の高いジャンプを2度目の挑戦で見事に着氷させてみせた。

これには指導する日下匡力コーチも「2発目で降りるとは思わなかったです。本当に。4回転ルッツをやるための3ルッツの準備はしていたんです。でも、(回転を締めたのは今日が)初めて。2回締めたら降りたんですよ。すごいですね」と驚きを隠せなかった。

2019年、佐藤は合宿中に4回転ルッツに挑戦し着氷
2019年、佐藤は合宿中に4回転ルッツに挑戦し着氷

佐藤も「降りられると思っていなかったので(体を)締めたら降りられたのでビックリしました。1回目で感じをつかめたので、2回目はイケるかなと思って」とその手応えを語った。

さらにその合宿中にはループ、サルコウ、トゥループと4種類の4回転を着氷。“天才ジャンパー”の素質をまざまざと見せつけることとなった。

そして、わずか3カ月後には試合の場で実践投入。すると、12月のジュニアGPファイナルで4回転ルッツを含む、3本の4回転を成功させ、日本人4人目となるジュニアGPファイナルの頂点に輝いた。

最高難度の4回転ルッツから始まるジャンプ構成

2020年、満を持してシニアデビューを果たした佐藤だが、シーズン中に股関節を負傷。その影響で思うようなシーズンを送ることができなかった。

2020年の全日本に出場した佐藤
2020年の全日本に出場した佐藤

「ジャンプが1番痛くて、ずっとジャンプやりたい、やりたいって感じだったんですけど、それでもできなくて。とても悔しい思いをしたんですけど、今やっと完治して思いっきりジャンプが跳べているので、今年はどんどん4回転跳んでいって、頑張らないとなって思ってます」

悔しい思いを胸に挑むオリンピックシーズン。10月のジャパンオープンで、その思いをいきなりぶつける。

新たなフリー演技「オペラ座の怪人」に挑むと、ルッツ、フリップ、トゥループ2本の4回転3種4本を着氷。果敢なチャレンジで高難度の構成をやり遂げた。

さらに11月のグランプリシリーズ・フランス杯フリーでは、日本人としては史上初めて、ISU公認の国際大会で4回転ルッツと4回転フリップに成功。

佐藤駿
佐藤駿

かつてジュニアGPファイナルで世界を制した時の総合得点を2年ぶりに更新し、鍵山に次ぐ2位表彰台に上がった。

このフランス杯フリーでは、佐藤の躍進を支える4回転ルッツを、美しい空中姿勢から着氷も決めGOEで3.78を獲得。

続く4回転フリップは、踏み切りでアテンション(エッジがやや不明瞭)減点を取られたもののしっかりと着氷。その後の4回転トゥループではミスが出たが、計4本の4回転ジャンプを着氷して見せた。

「ルッツとフリップを揃えるのに、結構自分でも時間がかかるかなと思っていたんですけど、フランス大会でしっかりと降りることができたので、すごい自分の中で自信がついたかなと思います」

練習に励む佐藤
練習に励む佐藤

その手応えは確かなものとなっている。

最新の世界ランキングでは、今季グランプリシリーズ2連勝の鍵山優真が1位。

今季まだ試合出場がない羽生結弦は5位。NHK杯で優勝した宇野昌磨が8位。

この佐藤駿は16位で日本人4番手の状況だが、佐藤にしかできない4回転ルッツ&4回転フリップの2つのジャンプを構成に組み込み逆転を狙っている。

逆転を狙う全日本。挑む演技は

その佐藤に、全日本選手権での戦いを前に話を聞くことが出来た。

佐藤駿
佐藤駿

――フランス大会ではメダルを獲得し、フリーではルッツ、フリップ、両方立って手応えはありましたか?

決められたことはすごく嬉しいことですが、練習からルッツの調子が良い時はフリップの調子が悪かったりとか、日によって結構変わってしまっているので、そこをちょっと直して、毎日両方調子が良い日が続けられるようにしたいなと思っています。

――その2つを跳ぶことで、筋力的な部分とか、スタミナ的なところとか影響があったりしますか?

正直、ルッツとフリップ終わった時点で、『この後トゥ跳ぶのか』って、『跳びたくない』っていつも言っているんです(笑)。

――心の中で?

心の中では、はい。降りても、『ああー、この後トゥ2本とアクセル2本跳ばなきゃいけないんだ』という感じで、結構(笑)。ルッツとフリップかなり力も使うので、少し体力が持っていかれるかなという感じです。

佐藤駿
佐藤駿

天才ジャンパーの意外な本音がこぼれる。
それでも成長の手応えは、本人の中にも明確な感触となって生まれ始めている。

――ジャンプ全体を見ると、キレや流れというのは昨シーズンと比べても、夏場の頃と比べても増しているように感じますがご自身の感覚は?

そうですね。今シーズン最初に比べたら、だいぶ確率も上がってきていますし、ルッツもしっかりと毎日跳ぶようにしているので、かなり調子も最初に比べたら上がってきているかなと思っています。全日本までに、もうちょっと確率を上げられるように頑張りたいと思っています。

――ではジャンプの構成は、フランス大会から変える予定は?

いや、もうそのまま行きます。変わらないです。

伸び盛りの17歳は、まっすぐに未来を見つめながらこう語る。

昨年の全日本選手権では5位入賞。最高難度の4回転ルッツから始まるジャンプ構成を武器に今年は大一番でどんな躍進を見せるのだろう。

偉大なる壁との代表争い

佐藤が挑む北京五輪の代表争い。選考レースを語る上で、あらためてその選考基準についておさらいしておこう。 これは7月に日本スケート連盟から発表された選考基準だ。

男女シングルの代表とも1人目はこの全日本選手権で優勝した選手が内定。

2人目については全日本選手権の2位および3位の選手、世界トップの選手が出場するグランプリファイナルの上位2人、国際スケート連盟が公認するシーズンベストスコアの上位3人の、いずれかを満たす選手の中から総合的に判断される。(※12月のグランプリファイナルは中止)

3人目については、2人目の選考から漏れた選手や国際スケート連盟が定めるランキングの上位3人などの中から総合的に判断される。

この基準に照らし合わした時、果たしてこの3人に選ばれるのは一体だれか?

17歳の佐藤の前には、スケート大国・ニッポンだけの、世界一し烈な代表争いが待ち受ける。

佐藤駿
佐藤駿

――日本の男子は世界の中で見てもトップ。その中に挑むのは、非常に過酷で、すごい高い壁であると思いますが、ご自身の中では今回の全日本選手権どういう気持ちで臨むでしょうか?

それこそ全日本はもう本当に、世界のトップの選手たちがたくさんいて、すごい大きな試合だと思うので、もうその空気感というか飲み込まれないように、まずは自分の精一杯をやり切るだけかなと思っています。

――オリンピックは小さい頃からの夢だったと思いますが、ガンガン意識するのか、それとも自分のことに集中するのか。どうでしょうか?

そこまでオリンピック、オリンピックとならないように、もう自分の演技に集中するだけなので、自分の全てを出し切って、悔いの残らないようにしたいです。まずはショート、フリー両方揃える。そこからかなと思っています。

佐藤駿
佐藤駿

――最後に、これだけは全日本で達成したい。これだけは絶対にやり遂げたい事があったら教えてください。

最後のポーズをとったときに、『やり切った』と、悔いの残らない、自分の中で満足するような感じで終われるようにしたいです。

――その時はやはり、ガッツポーズですか?

そうですね。ここ最近ガッツポーズをしていないので(笑)。ガッツポーズができるように頑張りたいです。正直、緊張もしているんですけど、早く試合をしたいというのが正直な気持ちです。

羽生、宇野、鍵山を追う第4の存在、佐藤駿17歳。

新たな可能性に満ちたその名前を、五輪代表のメンバーリストの中に見つける時は訪れるのか?

北京五輪代表の発表は、この全日本の戦いを経た12月26日に待ち受ける。

北京五輪代表最終選考会
全日本フィギュアスケート選手権2021

フジテレビ系列で12月23日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/

フィギュアスケート取材班
フィギュアスケート取材班