女子シングルは、北京五輪出場をかけた争いがまさに混沌としている。

3人の代表候補には全日本2連覇の女王で、ケガによりこの大会がシーズン初演技のぶっつけ本番となる紀平梨花。平昌五輪出場の実力者・坂本花織、宮原知子。

さらには三原舞依、樋口新葉、松生理乃など国内はもちろん国際大会での実績を持つメンバーの名前がズラリと並ぶ。

そんな大混戦の争いの中に、17歳の少女の名前が急浮上した。

河辺愛菜
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河辺愛菜。11月のグランプリシリーズNHK杯で2位に入賞。一躍世界に名前を轟かせた伸び盛りのトリプルアクセルジャンパーだ。

その個性はまさに無欲。

今回の取材で、五輪代表候補としてマスコミに取り上げられている現状を尋ねると、

「うーん…言っていただけるのは嬉しいですけど、まだまだ(坂本)花織ちゃんとか(樋口)新葉ちゃんとか、上の選手は遠いなと思っているので、戦えるような位置になれてきたのはすごく嬉しいですけど、全然勝てる自信はないので、そこは自信が付けられるように頑張りたいです」と語る。

驚くほど控えめで謙虚な17歳。
この記事ではその躍進を支えるトリプルアクセル、そして内に秘められた勝負強さに迫る。

紀平の欠場から発揮された真価。そして強運

練習中に笑顔を見せる河辺愛菜

シンデレラストーリーの始まりは突然だった。

今季、右足首痛で欠場した紀平に代わって急きょ代役で出場したNHK杯。

河辺はショートプログラムでトリプルアクセルを着氷し、自己ベストを更新。73.88は今季グランプリシリーズに出場した日本女子の中で2番目の高得点だ。総合2位に入り自身初のGPシリーズ表彰台に立った。

巡ってきた運を見事にものにした。

フリーでは冒頭のトリプルアクセルで転倒し、2日連続の成功はならなかったが、その後のジャンプ、さらには曲調をとらえたステップでカバー。

得点が1.1倍になる後半の3連続ジャンプも決めると、最後までスピードの落ちないスケーティングで会場に大拍手を呼んだ。

酸いも甘いも味わったジュニア時代

浅田真央さんに憧れ、5歳で始めたフィギュアスケート。

10歳の時に全日本ノービスBで2位に入ると、3年連続で入賞を果たし、早くから世代をリードする存在となった。

2018年、中学2年生の時には地元愛知県から母、弟と3人で関西へ転居し、宮原、紀平らを育てた濱田美栄コーチに指導を仰いだ。父とは離ればなれの生活の中、さらなる成長を目指していた。

河辺愛菜

だが、全日本ジュニアの予選である、西日本選手権で予期せぬことが起こる。

河辺はショートプログラムで、3本中2本のジャンプでミスすると上位24名が進めるフリーにも進めず、まさかの28位。全日本ノービス2位の実績からは、想像のつかない成績に沈んだ。

するとその翌年、河辺に転機が訪れる。

濱田コーチの指導の下、トリプルアクセルの習得に着手。4月にはアメリカ・コロラド州で合宿に入り、標高1800mの高地でトリプルアクセル習得に励んだ。

当時の河辺は、酸素が薄い高地でのトレーニングについて「思っていたよりも、曲をかけた時の体力が最後までできないくらいしんどくて、でもジャンプは浮くのでやりやすいです」と話した。

アメリカでの合宿中はハーネスを着けてトレーニング

――ハーネスでの練習はやってみてどうですか?

アクセルでハーネスをつけてやった時に、自分で普通にやっている時とは感覚が違ったので、タイミングや跳ぶときどうすればいいかが、ちょっとわかったような感じがしたのでよかったと思います。

この合宿で手応えを掴んだ河辺は、前年に苦い思いをした西日本選手権のショートプラグラムでノーミスの演技を見せ1位に立つ。

フリーではトリプルアクセルに挑戦し、惜しくも転倒に終わるが優勝を飾った。

さらに11月の全日本ジュニア選手権では、ついに実戦で初めてトリプルアクセルを成功させ全日本ジュニアの女王に。快進撃が始まった。

「昨シーズンとかは1個失敗したら焦って次も失敗しちゃうとかあったんですけど、今シーズンは1個失敗しても焦らず次にいけたので、精神的な面で成長できたかなって思います」

トリプルアクセルをきっかけに精神的な成長を手にし始めた。

練習に励む河辺

濱田コーチは当時、その長所をこう語っている。

「スピードがあって“気っ風が良い”ところがすごく良いところで、アクセルもまだコンスタントではないんですけど、セカンドジャンプがしっかり上がれるので、ちゃんとハマった時にはキレイなジャンプが跳べるというのがすごく良い面だと思います。

思いっきり(笑)、思いっきりミスすることもあるんですけど、アスリートとしてスカッとあっさりしたところが良いところです」

「バネもすごくありますので、4回転ということにも取り組める選手だと思うので、まだまだ伸びしろはたくさんあると思います」とメンタル面の強さと、その将来性を見据えていた。

2020年の全日本

そして昨年、16歳で出場した全日本選手権では、目標としていた200点の壁を初めて超え、自己ベストの6位入賞。

今年はグランプリシリーズNHK杯でパーソナルベストを更新し、ついに世界の舞台で2位表彰台。才能を一気に開花させている。

どこまでも自然体での五輪代表争い

そのトリプルアクセルの完成度が試される舞台となる全日本。

大舞台に立つ直前の心境を聞いた。

――メディアでは北京オリンピック候補と言われていますが、自身ではどう感じていますか?

うーん…言っていただけるのは嬉しいけど、まだまだ(坂本)花織ちゃんとか(樋口)新葉ちゃんとか、上の選手はまだまだ遠いなと思っているので、戦えるような位置になれてきたのはすごく嬉しいですけど、全然勝てる自信はないので、そこは自信が付けられるように頑張りたいです。

インタビューに応じる河辺愛菜

――今回は3枠ありますが、自分の中ではつかみたい気持ちどれぐらいありますか?

前のオリンピックの時に試合を見て、2枠だとすごくみんな緊張が強くて、試合を見ていて緊張感が伝わってきたんですけど、でも可能性はその時より大きいのかなと思うので、1枠増えた分、自分は2枠だったら絶対無理だなと思っていたんですけど…。

3枠目があるので、全日本に出るからには、しっかり目指して出たいという、オリンピックを目指そうという気持ちが、うーん…オリンピックに出たいから全日本頑張るという気持ちが…うーん、出てきたかなぁ…と思います(笑)。

10月に行われた近畿選手権

17歳はどこまでも自然体だ。

実際、今年6月にオリンピックイヤー開幕を前にインタビューした際、オリンピックへの思いを聞かれるとこう答えた。

「オリンピックもあるけど小さいときはトリプルアクセルを跳ぶ。真央ちゃんを見て始めたので“アクセルを跳ぶ”っていうのが一番やりたかったこと。その次に“オリンピックに出たい”と思っていたので、アクセルが跳べたからオリンピック頑張ります」

12月に出場した京都府民大会

この無欲さこそが彼女の武器となるかも知れない。

しかし戦いの場では、ミスを犯したものからその舞台から転げ落ちる。

河辺にとっては、ショート、フリーの両方でトリプルアクセルを決める事が代表入りへ最初のカギとなる。オリンピックへの切符を掴むために、今何が必要か聞いてみた。

「ミスは絶対…ノーミスでも勝てるか分からないので、絶対にミスをしてはいけないなと思いますけど、ジャンプ以外の細かいスピンのレベルの取りこぼしとかで、いつも点数がどんどん下がってしまうので、そこは完璧にしないといけないと思っています」

河辺愛菜

――全日本、改めてどういう気持ちで臨みますか?

あまり代表とか、そういうのは気にせずに、“自分の一番良い演技をする”ということだけを考えて、一番は大きな会場なので、たくさんの観客の前で滑ることを楽しんでやりたいです。

――改めて、河辺選手の夢を教えてください。

トリプルアクセルを決めて、ノーミスを大きい舞台でするというのは、小さい頃から夢だったので、それを全日本で達成したいのと、あとはオリンピックに出るのが夢です。

これまで河辺は、2日連続でパーフェクトを揃えることの難しさを味わって来た。その経験を糧にショート、フリーでトリプルアクセルを決めたとき、夢への扉が開かれることになるだろう。

無欲の17歳・河辺愛菜。

そのハツラツとした演技を、万来の拍手が包み込む瞬間が待ち遠しい。

北京五輪代表最終選考会
全日本フィギュアスケート選手権2021

フジテレビ系列で12月23日(木)から4夜連続生中継(一部地域を除く)
https://www.fujitv.co.jp/sports/skate/japan/