今月23日に開幕する全日本フィギュアスケート選手権。
北京オリンピックの代表選考レースが大きな注目を集める今大会だが、この大会にはシードや予選免除のスケーターたちの他に、地方ブロック、東・西日本選手権と予選を勝ち抜いた選手たちが出場する。
全国各地から狭き門をくぐり抜け、全日本選手権に出場する選手の中で注目すべき選手は誰なのか?
今回は西日本選手権を勝ち上がった選手の中から、本郷理華さんに注目のスケーターを挙げてもらった。

さいたまスーパーアリーナはめったに滑れない
本郷さんはこれまで全日本選手権に8回出場。今回の会場となる、さいたまスーパーアリーナで演技を披露した経験もある。
フィギュアスケーターの中でも憧れの舞台となる大舞台を本郷さんはこう振り返る。

「上の方が見えないです。先生に『すごく大きいから緊張するよ』と言われていて、練習から上まで意識する演技をしていましたが、想像以上に会場が大きかったです。
せっかく出場できる全日本でこうした会場に当たるのはすごくラッキーなので、のびのびやってほしいですね。めったに滑れないので。ただ予選会は無観客でしたし、大きな会場は経験してないからビックリしちゃうかもしれないです」
女子選手の魅力あふれる演技に注目!
先日、12月17日からスイスで開催される予定だったユニバーシアードの中止が決定。
ユニバーシアード出場選手は帰国後の隔離措置により全日本選手権には出場できないとされていたが、中止が決定したことにより出場が可能に。よって今年の全日本選手権は例年よりもそれぞれ2名多い、男女32名ずつ出場することになった。
西日本選手権からは12名の女子選手が出場する。

西日本選手権で優勝した荒木菜那は、3年ぶり3回目の全日本選手権出場を決めた。過去、ジュニアでは2度出場経験があるが、シニアでは初めてとなる。
そんな荒木の西日本選手権での演技を見た本郷さんは「もっと自分のものにできると思います。フリーは冒頭にミスがありましたが、それを引きずらず、演技後に『ミスあったっけ?』と思わせるような表現力がありました。
全体的にスピードと流れがあって、荒木選手の良さが生かされて、ジャンプも高さと幅がありました。全日本までにどれだけ修正するかで変わると思うので、この期間が大事です」と話した。

「いろんなところを見てほしい」と本郷さんが推すのは、白岩優奈。2年連続6回目の出場となる。
「個性的な振付で彼女の新しい一面が見られます。ショートのダブルアクセルの後、着氷した足でターンをしたりするフリが私は好き。
“ジャンプを絶対に跳ぶ”という意志がないとフリまで崩れてしまうので、見ている以上に難しいものです。ジャンプだけでなく、スケーティング技術も高く、今年は大人っぽい演技をしているので、いろいろなところを見てほしいです」

緊張との付き合い方が上手いと評価するのは、山下真瑚。5年連続5回目の出場を決めた。
本郷さんは「本番に自分が今できることを出す力があります。会場が大きかったりするとワクワクしたり、そういう気持ち良さをいい緊張に変えて演技ができているのだと思います」と明かす。
また、「(西日本選手権では)コンビネーションジャンプのセカンドジャンプに高さがあった」とジャンプも評価しつつ、彼女の最大の魅力を「スピード感、1歩1歩のスケートの伸びが彼女の良さ。足をしっかり使って、リンクいっぱいに滑っているから、いつもリンクが小さく感じる滑りをします」と話した。

籠谷歩未は3年ぶり2回目の出場。
坂本花織、三原舞依の幼なじみである彼女は、幼い頃から2人と練習を共にしてきたため、本郷さんも「刺激を受けているのではないか」と成長を評価。

2年ぶり3回目の出場を決めた三宅咲綺のジャンプの高さを本郷さんは称賛。
「ショートの3-3の1つ目のジャンプに高さがありました。その場合、セカンドジャンプが詰まったり、難しくなるのですが、しっかり跳べていてすごいです。彼女はスピードが一定というよりはどんどん加速している。後半になるにつれて元気が出ちゃう印象です」と笑った。

浦松千聖は3年連続3回目の出場。本郷さんは「天然で、リンクで逆立ちしている」と彼女の素顔を明かす。
「西日本を見て、自分がやりたい演技ができている感じが見ている人にも伝わりました。ショートも曲についていくというよりも、曲と一緒に踊れていて、こういった部分は練習すればするだけ上手くなる部分なので、次はもっと良くなると期待しています。どんどん調子が上がっていていると思います」
ラストシーズンを迎える選手へエール
大庭雅は2年ぶり10回目の出場を決めた。
ジュニア時代から大庭を知っているという本郷さんは、「“雅ちゃん”は世界ジュニアに出ていたりして、私と実力差があった時から、気さくに話し掛けてくれる方でした。先輩なのに私は“雅ちゃん”と呼んでいて、“本郷さん”って言われています」と笑う。

「年々スケートが好きな気持ちが高まっていて、ジャンプが得意な印象が強かったのですが、1つ1つのフリを丁寧に、コロナを経て感じた“スケートができる幸せ”や“うれしさ”が演技に出ていて、西日本を見ていても一番うれしそうに滑っていました。
“さいたまスーパーアリーナで滑りたい”という思いで今シーズンかけていると思うので、今の良さをすべて出して、全日本をのびのびと滑ってほしい」

今シーズンで現役引退を表明している野口望々花は、最初で最後の全日本選手権出場をつかんだ。
本郷さんは「最初で最後の舞台がさいたまスーパーアリーナなのは思い出深い。最後まで頑張って、いい思い出にしてほしい」とエールを送った。

新田谷凜は8年連続9回目の出場。彼女もまた、今シーズンでの引退を表明している。
本郷さんとは邦和スポーツランド時代からの長い付き合いだ。
「ジャンプでミスがあっても後半でリカバリーする能力があるので、ミスがあっても点数をどう取っていこうかの判断ができている。そこは強みで、調子さえ良ければ昨年のような高い目標を掲げられるはずです」
新田谷は昨シーズンに引退宣言をしたが、その後撤回したという経験がある。
本郷さんはそのことに触れて、「“ラストシーズン”を経験した人っていないと思います。『引退します』と宣言して終わりですから。昨シーズンは調子が良くていい演技が出来ているのを知っているからこそ、今シーズンはプレッシャーになっている気もします。
“良い演技をして終わりたい”という気持ちもわかりますし、過去にできた自分もいるという難しさはありますが、そこを自信に変えて、全日本に今までやってきたことすべてを出し切ってください」とメッセージを送った。

6年連続6回目の出場となる竹野比奈。
彼女も「現役引退」を掲げているため、全日本選手権への思いは強い。拠点としていたリンクが閉鎖危機にあるため、本郷さんは「練習環境が大変な中、全日本を決めたのはすごいです」と称賛した。

妹の竹野仁奈は2年ぶり2回目の出場。
本郷さんとも親交があるようで、「大人になっていてビックリです。比奈選手とは正反対なタイプで元気で騒ぐタイプなのですが、姉妹で演技が似てきました」とはにかみ、「20歳ということに驚きです」と話した。

4年ぶりの出場を決めた森下実咲に、本郷さんは「プログラムも自分のものになってきていて、自分が表現したいものを出せていると思います。全日本のショートが盛り上がると思っています」と語った。
男子の初出場選手も注目!
西日本選手権からは10名の男子選手が全日本選手権へ出場する。

森口澄士は2年連続2回目となる。
本郷さんは森口の「高さのあるジャンプ」を絶賛。「ループの後の音に合わせるフリが好きです」と話した。

3年連続の出場を決めたのは須本光希。
「少しずつ調子が上がってきています。彼はジャンプが入ることでなめらかな滑りとスピード感、氷に吸い付くような滑りが生えます。その流れでジャンプに持ってくるので、ジャンプに無駄な力が入らないところが彼の上手さです」

木科雄登は6年連続6回目の出場。
怪我の影響もあったが、本郷さんは「いい感じに調整できている様子」と話す。
「まだジャンプの軸の細さや回転の速さは戻っていないので、全日本に向けて調整してほしいですね。スピンの速さもポジションもきれいで、深いエッジで滑れています」

2年連続2回目の出場を決めた杉山匠海を、本郷さんは「姿勢がいい!」と称賛する。
「手を挙げるジャンプを3-3で1回目に手を挙げて、次の3回転トゥループも高さ・幅があって、それはジャンプに自信がないと難しいもの。キャメルスピンもとてもきれいでした。男子とは思えない体の柔らかさ、ポジションのきれいさ、つま先まで伸びていました」

櫛田一樹は5年連続5回目の出場。
本郷さんは櫛田が西日本選手権で4回転トゥループに挑戦し、ショートで1位になったことを評価。
ただ、「4回転以外はバタついてしまった様子。4回転入れてどんな感じかが西日本で試せたと思います。全日本までに詰めていってほしいですね」と話した。

古家龍磨は2年連続2回目の出場へ。昨年の全日本選手権ではショート落ちという悔しい思いをしている。
本郷さんは「ジャンプの軸がまっすぐ安定していて質の良いジャンプをします。ショートは大きい動きが印象的で、フリーのグレイテスト・ショーマン(映画『グレイテスト・ショーマン』より)で曲の雰囲気が変わるので、両方見られたらいいなと思います」と期待を寄せる。
初出場の鈴木零偉、辻村岳也、和田龍京、早川晃太郎の4選手も本郷さんは注目。




彼らの西日本選手権の演技を見て、「まだまだ全日本に向けて改善の余地がある。大舞台に向けての残りの期間を全力で練習してほしい」と語った。
アイスダンスやペアも目が離せない
最後に、北京オリンピックに向けて代表争いが激しいアイスダンスやペアにも言及。
アイスダンスでは、小松原美里・尊組、村元哉中・髙橋大輔組ら、ペアでは三浦璃来・木原龍一組らが出場予定。
「全部が濃い。アイスダンスも接戦で、2組ともオリンピックへかける思いがあるので、良いプログラムを持ってきていて見応えがあります。1枠しかないので、見ている方もハラハラです。
ペアは三浦・木原組が海外でも評価され、急成長している中、日本で演技を見られるのが楽しみです。2人とも昨年出られなかったということもあって、久しぶりの全日本ですし、お客さんたちの前で演技できるのを楽しみにしていると思います」
北京オリンピックへの挑戦、現役最後の晴れ舞台、初めての大舞台など、選手たちそれぞれが、それぞれの思いを抱いて挑む全日本選手権。全力でぶつかる選手たちから目が離せない。
本郷理華 25歳
2015・2016四大陸選手権銅メダル。昨シーズン限りで現役を引退。現在はアイスショーの出演や後進の育成、解説業など、幅広く活動を行う。