岐阜県下呂市といえば「下呂温泉」。日本有数の温泉地だが、ここでのある決定が話題となっている。地域の名物だった無料の温泉「噴泉池」が12月1日から、足湯専用となったのだ。
噴泉池は1983年に下呂市が設置したもので、大きさは約15×約12メートル。温泉街を流れる飛騨川の河川敷にあり、大自然に囲まれて温泉を楽しめる場所として観光名所にもなっていた。

それがなぜ、足湯専用になったのか。背景には利用者のマナー違反やトラブルがあるという。入浴できる環境が復活することはもうないのだろうか。
実は周囲から丸見え…コロナ禍も影響
噴泉池のマナーと今後について、下呂市の担当者に聞いてみた。
ーー噴泉池の無料開放はどんな経緯で始まった?
川のせせらぎを堪能し、自然を感じながら、多くの方に温泉を親しんでいただきたいという思いから設けられました。温泉は天然資源のためタンクに源泉を貯めているのですが、事業者様のご理解をいただき、そこから引かせてもらっています。
噴泉池とあるように、構造物としては露天風呂ではなく池として設置したものです。入浴に限らずに足湯や手湯などを含めて、下呂温泉を手軽に楽しんでいただくためのものでした。

ーー足湯専用とする決断に至った理由は?
一部の利用者にルールを守らない方がみえ、観光関係者や観光客、市民の一部から苦情をいただいておりました。ご家族、カップル、ご年配などいろいろな方が訪れ、温泉の楽しみ方も違います。利用方法の違いなどでトラブルもみられました。
噴泉池には常駐の監視員を配置する余裕がなく、プライバシーを考えると防犯カメラを置くこともできません。コロナ禍では、マスク着用などの感染防止対策もお願いしていますが、守らない方への指導もできない状況でした。
ーーこれまではルールなどは定められていた?
1983年の設置時は規制をしていませんでしたが、2010年からは入浴の際は水着を着用していただくルールを設けていました。噴泉池は四方八方から見えてしまう場所にあるためです。
全裸で飲酒や騒音…マナー違反の実態
ーー実際はどんなマナー違反がみられた?
夜間になると水着を着用せず入浴する。入浴方法を巡るお客様同士のトラブル。お酒を飲んで騒ぐなど近隣への騒音トラブル。観光客が写真撮影を行う際の入浴者とのトラブル。このような出来事が起きていました。
噴泉池は脱衣所がなく、照明もないので夜は暗くなります。全裸で入浴されたり、お酒が入って開放的になるなど、防犯や治安面の問題もありました。入浴している方がいることで、小さなお子さんを連れたご家族が近寄りがたいという声もありました。

ーー足湯専用の決定に反応は寄せられている?
観光客も地元の方からも非常に残念という反応をいただいています。下呂市のシンボル的な場所でもありますので、制限をするのは本意ではありませんが、やむえない措置です。旅館などでも内湯を楽しめますので、ご理解をいただければと願います。
ーー入浴する人は出てこない?対策はある?
看板設置などで周知はしてきましたが、対策としては市の職員や温泉愛好家たちの定期的な見回りになると思います。噴泉池の近くには、下呂温泉の総合案内所があり職員もいます。問い合わせも受け付けていますので、何かあれば注意に行きます。

実は足湯の利用が多い…施設改修も検討
ーー入浴できるように戻る可能性はある?
実はもともと、最近の利用者の大半は足湯での利用でした。半月ほど前から告知期間を設けて、私たちも現地を訪れたのですが、ほとんどが手湯や足湯で楽しまれていました。肩まで入浴できるような形に戻すことは、現時点では考えていません。
ーー改修などは考えている?
現在の形を壊したくありませんが、検討しなくてはいけないと思っています。噴泉池は現在、約60センチの深さがあるので肩までつかれますが、これを足がつく程度の約20センチにすることも考えられます。足湯を楽しみながら座れるような場所の整備もですね。お客様のご意見と現場の状況をみながら、来春ごろまでに検討をしたいと思います。

ーー利用者へのメッセージがあれば聞かせて。
温泉の楽しみ方はそれぞれですが、噴泉池は気軽に多くの人に楽しんでもらうためのものです。残念という気持ちはよくわかりますし、我々も苦渋の決断です。ただ、足湯でも大自然の景観は変わりませんので、安全安心な温泉地として、下呂温泉を楽しんでいただければと思います。
現時点では、入浴できる状態に戻すことは考えていないという。自然に囲まれると入浴したくなる気持ちも分かるが、無料で楽しめるからこそ、周囲への配慮も大切にするべきかもしれない。