事実婚や週末婚など、夫婦が選ぶ結婚のカタチは様々だ。しかし、望むスタイルを選ぶ以前に、もとより愛し合う2人なのに「結婚」を選べない人々がいる。法律上の性別が「同性」同士のカップルだ。

今の日本では、同性同士の婚姻「同性婚」は認められていない。現在、同性カップルの関係を公的に認める「パートナーシップ制度」はあるが、結婚との隔たりは大きい。

これら2つはどのような点で異なるのか、また同性婚をめぐる状況は今後どう変わっていくのか、NPO法人東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さんに話を聞いた。

NPO法人東京レインボープライド共同代表理事の杉山文野さん
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性のあり方は「男」と「女」だけじゃない

杉山さんは、性的マイノリティ当事者、トランスジェンダー男性だ。生まれたときに割り当てられた性別は「女性」だったが、幼少期からそれに違和感を持ち、現在は男性として、女性のパートナーと2人の子どもとともに暮らしている。

性的マイノリティを指す言葉としてよく使われるのが「LGBTQ」だ。たびたび目にするものの、実はそれぞれのアルファベットが何を指すかをよく分かっていない、という人もいるかもしれない。

簡単におさらいすると、LGBTQとは、Lesbian(レズビアン、女性同性愛者)、Gay(ゲイ、男性同性愛者)、Bisexual(バイセクシュアル、両性愛者)、Transgender(トランスジェンダー、性自認[自分の性別をどのように認識しているか]が出生時に割り当てられた性別とは異なる人)、QueerやQuestioning(クイアやクエスチョニング)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティを表す総称のひとつとしても使われる。

性別や性のあり方は、単純に男女に二分されるわけではない。例えば次の4つの要素に分けることができる。

1)法律上の性別
生まれた時に性器の形などから判断され、役所に届けることで法律上の「女性」か「男性」に割り当てられる

2)性自認
自分の性別をどのように認識しているか、という要素。男性だと認識している人、女性だと認識している人、中性だという人、決めたくないという人など、様々

3)性的指向
自分の恋愛や性愛の感情が、どの性別に向くか/向かないか、という要素。 異性、同性、もしくはどちらの性も好きになる、性別で好きになる人を決めたくない、特定の誰かを好きにならないなど、様々

4)性表現
社会的にどのように性別を表現するか、振舞うかを表す要素。 俺・僕・私といった一人称や、スカート、パンツスタイルなど服装の好みなど様々

例えば、トランスジェンダー男性である杉山さんの場合は法律上の性別は女性だが、性自認は男性、性的指向は女性、性表現は男性だ。

多くの人が想像する「男性」、つまり「性別が性自認と一致した、異性愛者の男性」は、法律上の性別と性自認が男性、性的指向は女性、性表現は男性となる。

そしてゲイやレズビアンにあたる「同性愛者」は、性自認と性的指向がともに同じ性別となるということだ。この時、法律上の性と性表現はその個人により様々だ。

上記はあくまで一例で、〇の位置も十人十色。両端だけではなくグラデーションの中間に位置するケースもある、と杉山さんは言う。

自身をLGBTQには該当しないと認識する人であっても、スカートよりパンツスタイルが好きな女性やメイクをする男性など特に性表現に関して自分の性別側に振り切っていないと感じる人もいるはずだ。性のあり方はすべての人にとってグラデーションだと言える。

パートナーシップ制度と同性婚の違い

2015年に日本で先駆けて渋谷区でパートナーシップ制度が開始してから6年が経つ。それ以降、制度を導入した全国の自治体の数は今や130を超えた。

杉山さんは渋谷区での制度成立のキーパーソンの一人としても知られる。しかし、この制度については「すごく大事なものではありますが、やはり法律上の結婚とは違います」と強調する。

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法的保障がないことでの弊害は様々に起こる。まず、法律婚の夫婦のような税制の控除を受けられない、パートナーが亡くなった際に遺言がない場合は相続ができない等の経済的な弊害。

そして、パートナーが命に関わる病気や怪我で意識不明になった場合は、医師から詳しい話を聞けなかったり、集中治療室に入れなかったりするケースも多い。パートナーが産んだ子どもの親権者になれず、子どもと法律上の親子になることができないという事実もある。

「自治体が発行したパートナーシップ証明書によって病院での付き添いを許可されたり、会社によっては証明書を見せることで法律上の夫婦と同じサービスを使用できる場合もありますが、現状はできたりできなかったりと、まちまちです」と杉山さん。やはり、結婚を望む当事者が求めるのは法律上の結婚だ。

「婚姻の平等」をすべての人に

2019年より、同性婚が認められないことは憲法違反として同性カップルらが国を訴えた裁判、同性婚訴訟(「結婚の自由をすべての人に」裁判)が全国5地裁で始まっている。

今年3月には札幌地裁が「同性婚を認めないことは、法の下の平等を定めた憲法14条に違反する」として、日本で初めての違憲判決を出した。

杉山さんは、今年10月に東京地裁で開かれた同性婚訴訟の本人尋問の場面を振り返る。そこで裁判官は当事者であるゲイの男性に「パートナーシップ制度ではだめなのか」という主旨の質問をしたという。

それに対して男性は、それはダメだとはっきりと述べた。「なぜならば、それは『二級市民』だと言っているのと同じだからです、と彼は言いました」。

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憲法14条第1項には、「すべて国民は、法の下に平等」だと記されている。「それにもかかわらず、結婚できる人とできない人がいるわけです。これは裏を返せば『すべての国民』という言葉にLGBTQの人は含まれないと言っているのと同じです」と杉山さんは語る。

「性的マイノリティは『すべての国民』に含まれない『二級市民』であるから不当な扱いを受けても仕方ない、我慢をするべき、というメッセージに繋がっている。これが根強い差別と偏見に繋がっています。同性婚、つまり婚姻の平等に関して僕たちが声を上げるのは結婚制度のことだけでなく、人としての尊厳の話が大きいのです」

同性婚への根強い反対意見

同性婚の話題が上がった際に、たびたび反対意見として目にするのが「伝統的な家族観が壊れる」というものだ。それに対して、杉山さんはこう語る。

「よく同性婚は伝統的な家族観を否定している、と言われますが、むしろ、今のこの時代に婚姻制度を求めるというのは、ある意味『伝統的な家族観』の中で暮らしたいということ。だから、実は対立する話ではないと思っています」

「伝統的な家族観」とは何か。杉山さんは、「家族を大切に思う気持ちや、絆を大切にすることではないでしょうか」と言う。その気持ちに、同性も異性も関係ない。

「むしろ制度がないことによって、大切にしたくてもできない人がいる。そこに目を向けてほしいなと思いますね」

「生殖」や「少子化」の観点から、「いわゆる婚姻制度は子どもを安定して育てるためのものだから」と、子どもができない同性カップルの結婚を反対する人々もいる。そういった意見に対しても、杉山さんはこう切り返す。

「LGBTQの当事者だから子どもを諦めたり、子どもを産み育てることを放棄しているわけでは、決してありません。むしろ現代は、いろいろな手段を使えば、子どもを持つことができる。それにもかかわらず、残念ながら子どもを諦めざるをえないような社会のシステムになっています」

杉山さんとゲイの親友・松中権さん(提供:杉山文野さん)

事実、杉山さんは女性パートナーとゲイの親友・松中権さんと3人で子どもを育てている。2019年に松中さんから精子提供を受け、女性パートナーが出産。そして今年、第2子も誕生した。

杉山さんと2人の子どもたちには血のつながりはない。また、女性パートナーとは法律上の結婚ができない現状では、2人の子どもと法的なつながりもない。

同性婚に対する根強い反対意見。それに対し、杉山さんは「受け入れなくていいので、受け止めてほしい」という。

今年、第2子も誕生(杉山文野さんのInstagramより)

「絶対に分かり合えるはず、とか、分かり合うべき、という考え方は苦しいですよね。こうあるべきの押し付け合いじゃなくて、こうありたい、とお互いに応援できるような関係性がいいなと思います。 よく、『多様性を受け入れない、という多様性』は、なぜ認めないんだという議論がありますが、別に受け入れなくていいんですよ。ただ、受け止めてください、と。

私はカレーが好きで、だからあなたもカレーが好きでしょ、じゃなくて、私はカレーが好き。あなたはラーメンが好き。お互いに『いいですね』って。さらに俺は寿司が好きなんだ、っていう人もいて。いろんな人がいていい。実はそんなシンプルな話なんじゃないかなと思います」

家族は、一番身近で大切な他人

相手も自分も尊重できる関係性。それは、杉山さん自身が、パートナーの女性や親友の松中さん、そして子どもたちとの関わりにおいて日々大切にしていることでもある。「僕は、家族は一番身近で、大切な『他人』だと思っているので」と杉山さんは言う。

「身近で大切だからこそ、『言わなくても分かるでしょう』とか『やってもらうのが当たり前』になっちゃうのが、一番よくなくて。大事な他人だからこそ、丁寧に言葉で説明をしたり、『ありがとう』『ごめんね』という言葉を端折らずに伝えたり、言いづらいことも伝えて向き合ったり、 そうやってコミュニケーションをとる。

今、うちの子どもたちとは血のつながりも法的なつながりも無いかもしれないけども、そういう日々を積み重ねることで、家族として過ごしている。これが大事なのだと思います」

子どもたちと遊ぶ杉山さん(杉山文野さんのInstagramより)

子どもたちと3人の親たちとの関係性についても、隠すことなく日常生活のなかで伝えていこうと考えているという。 

「子どもの誕生日に、うちの両親と彼女の両親、そしてゴンちゃん(松中さん)のパパママも地元から来て、ジジババ6人勢ぞろいで誕生日会をしたことがありました。ごんちゃんのパパママも僕や彼女の両親も、みんな『じぃじ』『ばぁば』。呼び方が大変なんですけど(笑)。

今は子どもたちもそのことに何の疑いも持たないけど、そのうち、『あれ、みんなのじぃじとばぁばは4人なのに、なんでうちは6人なの?』って気づくでしょう。そこで聞かれたら『こうなんだよ』って伝えようと考えています」

未来の子どもたちに胸を張れる社会に

杉山さんいわく日本には、LGBTQに該当する人が5〜8%いると言われる。ちょうど、左利きやAB型の人と同じくらいの数だ。

自分の周りにはLGBTQの当事者がいない、という人たちも、左利きやAB型の人なら、何人か浮かぶのではないだろうか。

「個人の『性のあり方』は非常に目に見えづらい。だから、当事者に会ったことがないという人も、気付かなかっただけではないかと思います。当事者が周囲に『いない』のではなくて『言えない』という現実があることを知ってもらいたいと思います」

子どもたちと過ごす杉山さん(杉山文野さんのInstagramより)

とはいえ、人々の意識は確実に変わってきている。以前は、自分の子どもが当事者だったとしたら受け入れられない、と語る親が多かったという。しかし、最近では「うちの子が当事者でも、楽しく生きてくれればそれでいい」と語る人が増えている。その実感が、杉山さんにはある。

「そういう人が増えてきたことは本当にうれしいことです。だからこそあえて聞いてみるのですが、『もし自分の子どもに、なんでみんな結婚できるのに私だけ結婚できないの?って聞かれたら親として何と答えますか?』と。

『性的マイノリティであるから仕方ない、我慢して』と子どもに伝えるのではなくて、将来その子どもが結婚を考えた時に、『どんな人も平等に幸せになる機会があるんだよ。そういう国を、ちゃんと準備しといたからね』って言える親でいたいですよね。このことが、私たち大人に問われているのではないでしょうか」

杉山文野
1981年東京都生まれ。フェンシング元女子日本代表。トランスジェンダー。早稲田大学大学院教育学研究科修士課程修了。2年間のバックパッカー生活で世界約50カ国+南極を巡り、 現地で様々な社会問題と向き合う。 日本最大のLGBTプライドパレードであるNPO法人東京レインボープライド共同代表理事や、 日本初となる渋谷区・同性パートナーシップ制度の制定に関わり、渋谷区男女平等・多様性社会推進会議委員も務める。 2021年6月から公益社団法人 日本フェンシング協会理事、日本オリンピック委員会(JOC)理事に就任。現在は父として子育てにも奮闘中。

取材・文=高木さおり(sand)
図解イラスト=さいとうひさし