「相手を怒らせてしまうと思ってびくびくしてしまい何も言えなくなる」。精神的DVの被害者が抱える苦しみは、目に見えないがゆえに深刻だ。長崎県内でも、この「見えない暴力」の相談件数が増加傾向にある。被害者の多くは女性だが、その背景には根強い性別役割分担意識や経済格差が存在する。

増加する精神的DV相談

長崎県内のDV被害者支援団体「DV防止ながさき」には、年間約400件の電話相談が寄せられている。

DV防止ながさき 中田慶子理事長
DV防止ながさき 中田慶子理事長
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県内で20年以上DV防止のための啓発や被害者の声に耳を傾けてきた中田慶子理事長は、精神的DVの特徴を次のように説明する。

「お前なんか生きていてもしょうがないと言ったり、言い返そうと思っても今まで散々10〜20倍言い返されてきているので想像するだけでめげてしまう。それによって追い詰められてしまう、それは想像以上にきつい」

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精神的DVは身体的暴力とは異なり、無視や人格否定、暴言、威圧的な態度などでメンタルを追い詰めるのが特徴だ。

内閣府の調査によると、全国の配偶者からの暴力への相談件数は12万件を超え、そのうち約6割が「精神的DV」だという。被害者から聞かれるのは「誰にも、どこにも相談できなかった」という言葉だ。

被害者が声を上げられない理由

中田理事長は、被害者が相談できない理由について「女性は我慢して当たり前、夫・男性に従うのは当然でそれができない私が悪い、周囲もそう言う。我慢した方がいいんじゃないと割と説得されがち。私が変わればいいのかなと思ってしまう人が多い」と話す。

また、子どもがいる場合は「この子からお父さんを奪うのではないか」という不安や、経済的な理由から離婚に踏み切れないケースも多いという。

一つでも当てはまると精神的DVを受けている可能性が…
一つでも当てはまると精神的DVを受けている可能性が…

また、精神的DVは被害者が暴力を自覚するまでに時間がかかることも傾向の一つとしていて、「自身が受けている行為がハラスメントと認識できていないケースが多い」と中田さんは指摘する。以下は、精神的DVを受けているかどうかのチェックリストだ。ごく一部だが、一つでも当てはまると精神的DVを受けている可能性がある。

◆馬鹿にされる、ののしられる 
◆髪型・服装・体型などをけなされる 
◆怒鳴られたり、物を壊すなどして怖がらせたりする 
◆暴力の原因を「お前のせいだ」などと責任転嫁される

「精神的」がゆえの立証の難しさ

精神的DVの相談が増えていることを受けて、国は2024年に「DV防止法」を改正した。これまで加害者への接近禁止命令は身体的暴力の被害者に限られていたが、対象が精神的暴力にも拡大され、罰則も強化された。

法改正が行われるも「立証」への障壁も
法改正が行われるも「立証」への障壁も

ただ「精神的DV」は被害の証明が難しく、法律の適用はハードルが高いといわれている。また、DV防止法が改正されたのと同時に「困難な問題を抱える女性への支援に関する新たな法律」も施行され、国はDV以外にも女性の性被害や生活困窮などへの支援も行っていくとしている。

「困難な問題を抱える女性への支援に関する新たな法律」の施行で策定された長崎県の基本計画
「困難な問題を抱える女性への支援に関する新たな法律」の施行で策定された長崎県の基本計画

これを受けて2025年3月には長崎県も独自の計画を策定した。早期の相談につなげるための啓発や経済的な自立に向けた切れ間のない支援などに取り組んでいる。DV被害者の支援が進む中でも、課題の一つにあげられているのが「加害者更生の場の確保」だ。元加害者で現在は加害者支援の活動を行う男性に話を聞いた。(後編に続く

(テレビ長崎)

テレビ長崎
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