2024年、1年間で生まれた日本人の赤ちゃんの数が初めて70万人を下回った

子どもが生まれることが当たり前ではなくなった今、少子化対策には、経済的支援だけでなく、誰もが安心して子どもを産み・育てられる環境づくりが欠かせない。

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そうした社会を目指すうえで注目されているのが、“共育て”という考え方だ。

「妊婦体験ジャケット」リアルな胎動に感じる“命の重み”          

6月、大阪・関西万博の会場で一般のお客さんが体験していたのは、世界でひとつしかない「妊婦体験ジャケット」

従来の“重いだけ“の妊婦体験ジャケットとは異なり、妊娠の喜びや 「命の重み」を体験できるのが特徴だ。

“胎動”を体験する男性
“胎動”を体験する男性

妊婦ジャケットに内蔵された水袋に、ホースを使って羊水の温度に近いお湯が送り込まれ、徐々に大きくなるお腹の重みを疑似体験できる。

特徴的なのは妊娠6カ月目。46個のバルーンを使い“胎動”がリアルに再現されている。

妊婦体験システム「MommyTummy(マミータミー)」
妊婦体験システム「MommyTummy(マミータミー)」

出産経験のある記者も体験したが、脇腹あたりを蹴られる胎動のリアルさに、妊娠中の記憶がよみがえり、懐かしい気持ちになった。

取材中、実際に体験した人達は、驚きと気付きを口にしていた。

「数分だけでもこんなに大変。これが何カ月も続くなんて妻は大変だっただろうな」
「見かけたら席を譲ろうという気持ちになった」

「中に赤ちゃんがいるなと感じられて、『大切にしたい』という気持ちになる」
「今25歳で周りでも産んでいる子が多いので、私もいずれ出産できたらいいな」

妊娠8カ月の妻に連れられて訪れた男性は「重たくて大変だと実感した」という。

妊娠8カ月の女性と夫
妊娠8カ月の女性と夫

妻(妊娠8カ月)
大変さを知ってもらいたいっていうのもあるんですけど、より子どもへの愛情を感じて欲しくて来ました

共感の始まりは“体験”から…開発者の思い

この妊婦体験ジャケットを開発した東海大学の小坂崇之准教授は、開発のきっかけについてこう話す。

開発した東海大学 小坂崇之准教授
開発した東海大学 小坂崇之准教授

東海大学 小坂崇之准教授
妊婦の大変さが社会でなぜ理解されにくいのかと考えた時に、“体験したことがない”というのが大きい。だったら体験できる仕組みを作れば、もっと理解が進むのではと思ったんです。

体験を通じて、妊婦の大変さや命の重みを“自分ごと”として感じられる、そんな社会づくりの一歩となる取り組み。体験者一人一人の表情の変化がとても印象的だった。

この妊婦体験ジャケットは、自治体の父親向け講座などでの活用も検討されているという。

「育児は2人で」産後ケア施設が支える“共育て”

東京・港区にある「愛育産後ケア子育てステーション」では、希望すれば夫婦での滞在が可能だ。

5月に第一子・梨瑚ちゃんが誕生した大原光里さん(33)と夫の健広さん(38)夫婦。

一緒に滞在できることなどに魅力を感じ、出産した病院を退院した後にこちらの産後ケア施設を利用した。

健広さんは1年間の育児休暇を取得予定で、初めての育児を夫婦で協力しながら取り組んでいる。

大原健広さんと妻・光里さん
大原健広さんと妻・光里さん

大原健広さん
産後ケア施設ではママの体調に応じて赤ちゃんを預けることができるので、妻も“すごく寝られた”と喜んでいました。夫婦の会話の時間も取れるのでとても良いです

大原光里さん
入院中は自分の体のケアは後回しで、赤ちゃんのことばかり考えていたので、一人で考えるより夫と二人の方が安心できます

愛育産後ケア子育てステーションの石川紀子看護部長は、「子どもを育てるというのは、もちろんお母さんだけの問題ではない。父親も含めた“家族で育てる”という考え方が大切」と話す。

夫が家事・育児に関わるほど出生割合高い傾向

厚生労働省の調査(2021年)では、夫が家事や育児に関わる時間が長いほど、第二子以降の出生割合が高い傾向があることがわかっている。

一方で、こども家庭庁の調査(2023年度)では、家庭内で、男女ともに仕事や家事、子育てに関わる「『共働き・共育て』が「社会において推進されている」と感じている人は約3割(34.5%)に留まっている。

政府は、この「共働き・共育て」を定着させていくための第一歩として、男性育休の取得を促進している。

男性も「産後うつ」共育ての後押しに必要な支援

男性の育児参加が進むにつれ知られてきたのは「男性の産後うつ」だ。

国立成育医療研究センター研究所の調査(2020年)では、産後1年間に「産後うつ」の可能性が高いと判断された男性は11%と母親の10.8%とほぼ同程度で、男性も女性と同じように「産後うつ」になるリスクがあることが明らかになっている。

育休を取得する男性が増える一方で、育児への不安や孤独感を抱えるケースも少なくない。

助産師による沐浴指導の様子
助産師による沐浴指導の様子

「愛育産後ケア子育てステーション」では、助産師とマンツーマンの沐浴指導(有料)などの“パパ学級”のほか、父親向けの講座や心理相談を行うなど、母子だけでなく「共育て」を後押しする仕組みが整っている。

“共育て”で子どもを迎えることに希望を持てる未来に

石川看護部長はこう話す。

愛育産後ケア子育てステーション・石川紀子看護部長
産んで終わりじゃなくて、産後こそ社会が支えるべき時。母子とその家族をどれだけサポートできるかが大事。

“共育て”が当たり前の社会とは、誰もが安心して命を迎え、育てられる社会のことだ。それは家庭の努力だけで実現できない。職場や地域、行政を含めた社会全体が、本気で支える仕組みを築くことが求められている。

(執筆:フジテレビ社会部 松川沙紀)

松川沙紀
松川沙紀

フジテレビ社会部・省庁キャップ こども家庭庁担当