「なんだこれ?」COP売店を独占する地元名物の炭酸飲料
イギリス・グラスゴーで開かれたCOP26は6年ぶりの首脳級会合開催に加え、グレタ・トゥンベリさんらが周辺で大規模デモを行うなど、現場は危機感と切迫感につつまれた。
約200カ国、2万人近くが参加する巨大会議。そんなCOPに集まった関係者の喉を潤した“謎の炭酸飲料”があった。巨大な会場を歩き回るのに疲れ、「コーラでも買うか」と会場内の食堂を訪れると、そこにはずらりと見慣れないオレンジ色の缶が並んでいた。コーラは無い。
イギリス人の同僚ライアン君に「これ何?」と聞いてみると、「知らないんですか?スコットランド名物『IRN-BRU(アイアン・ブルー)』ですよ!」
【動画】COP26を陰で支えた?スコットランド名物『アイアン・ブルー』
この記事の画像(5枚)『アイアン・ブルー』は、地元グラスゴーのメーカーが作る炭酸飲料だ。スコットランドの人にとってはウイスキーと同様に「国民的飲料」と呼ばれ、二日酔いの特効薬ともされる。缶には「レシピは秘密」と書かれている。1901年に作られ、30以上の香料が使われているという。造船所や製鉄所で働く人々の滋養強壮のため作られたといわれる。炭酸が強めのオレンジジュース系の味で、確かに元気が出そうな気がする。
地元メディアによるとペプシやコカ・コーラといった大手企業を抑え、スコットランドで一番売れているソフトドリンクとのこと。COP26でも、製造元が会場を運営する会社と契約を結んだため、大手を締め出し会場でほぼ独占状態で販売された。
米人気議員も絶賛 COPサイドネタで欧米メディア注目
アメリカの若手議員のホープ、アレクサンドリア・オカシオコルテスさんも、『アイアン・ブルー』を初体験した一人だ。早速、インスタグラムに“飲リポ”をアップ。ヒスパニック系アメリカ人のオカシオコルテスさんは、ゴクリと飲んだ後、「これはラテンの味よ!プエルトリコのソーダの味よ!大好き!オーマイゴッド!」と興奮気味に語った(あくまでもスコットランド産です)。この投稿は191万回再生され注目を集めた。
スコットランド独立を掲げる自治政府のスタージョン首相も、オカシオコルテスさんと「ふるさとの名産品」アイアン・ブルーをもって誇らしげに2ショット。欧米のメディアが大きく取り上げていた。
🇺🇸🏴 Amidst all the serious business at #COP26 today, I’m pleased to also report that @AOC now has a supply of Irn Bru pic.twitter.com/3yhisZ9PiN
— Nicola Sturgeon (@NicolaSturgeon) November 10, 2021
環境相も一人食堂で…宣伝効果は「計算できない」
会場を見渡してみても、各国代表団、メディア、NPOの活動家、いろんな人が『アイアン・ブルー』を飲んでいる。「脱石炭」の表記をめぐり最終局面で交渉が難航していた11月12日、食堂に入ってみるとパプア・ニューギニアのモリ環境・気候変動担当相がたった一人で『アイアン・ブルー』を飲みながら、熱心に資料を読んでいた。大勢の官僚や警備に囲まれる先進国の大臣とは全然違う感じだ。
途上国や先進国、政府関係者やNGOといった立場の違いを超えて多くの人々が味わっていた。
取材をしていると、警備の地元男性が「これは世界最高のソフトドリンクですよ!」と声をかけてきた。アメリカのトランプ前大統領がスコットランドに所有するホテルで『アイアン・ブルー』を販売しないと決め、地元民の総スカンを食らったこともあるそうだ。グラスゴーで鉄鋼労働者の渇きを癒すために生まれた伝統の炭酸飲料は、誕生から100年以上の時を経て脱炭素を話し合う世界中の人々の喉を潤していた。
イギリスの大手全国紙「ガーディアン」は、『アイアン・ブルー』はCOP26を通じ、計算できないくらい大きな広告効果を得たと論評している。COP26の期間中はグラスゴーのホテルも高騰し、30倍近くになったケースもあるという。我々取材班もホテルをあきらめ民泊に宿泊した。コロナ禍で打撃を受けたイギリス経済に今回のCOPは大きな刺激になったとみられる。
(取材:立石修/ライアン・キーブル)
(執筆:立石修)