「脱石炭」めぐり激論 土壇場変更に議長が声を詰まらせる
イギリス・グラスゴーで開催されていた地球温暖化対策を話し合う国連の会議・COP26は石炭火力発電の扱いが焦点となり、議論は11月12日までの会期を一日延長して続いた。
議長国イギリスが成果文書案として提示した「石炭火力の段階的廃止を加速する」との文言をめぐり土壇場でインドのヤダフ環境担当相が強く反論したため、石炭火力の「段階的廃止」という表現を「段階的削減」に修正し、採択にこぎつけた。イギリスのシャーマ議長はこの展開について「申し訳ない」と謝罪。「深い失望を理解するが、この合意を守るために必要だった」と声を詰まらせた。
この記事の画像(9枚)この修正についてスイスなど複数の国から強い失望感が示された。一方、EU特使のティメルマン氏は「落胆した」としながらも、「今回の合意が石炭の廃止に進むことにつながるだろう」と今後に向けた期待感を示した。欧州を中心に「脱石炭」の流れは急激に強まっており、2022年エジプトで行われるCOP27でも焦点となるだろう。
「温暖化対策45位 日本に脱石炭の圧力も」
原発の問題やエネルギー安全保障の観点から、今後も石炭火力発電に頼る日本は、石炭にアンモニアを混ぜるなど高い技術を用い排出量の削減に取り組む。しかし、ドイツのNGO「ジャーマンウオッチ」はCOP26 で発表した温暖化対策ランキングで、日本を64カ国中45位とした。削減目標の引き上げは評価しているが「目標実現の具体策がない」、「石炭火力を廃止する国際的努力に逆行している」と指摘する。日本の石炭利用について国際的な理解や賛同を得ているとは言い難い状況だ。
また成果文書とは別に、今回のCOP26で議長国イギリスは「排出対策をなされていない石炭火力発電を2040年までに廃止」することなどを盛り込んだ声明を発表。ベトナム、チリといった途上国に加え、韓国やポーランドなど初めて石炭廃止を表明した23カ国を含む、あわせて40カ国以上が賛成した。ただ、アメリカ、中国、インドなど主要な石炭消費国は不参加で、賛同を見送った日本に対しても圧力が高まる可能性がある。
COPでは日本の20代リーダーたちも 「世界とのギャップ埋める必要性」
2週間の期間中は、日本の若いリーダーが活躍する姿を見る機会も多々あった。11月2日にはイギリス王室のウィリアム王子が主催する環境賞「アースショット」の関連イベントが行われ、環境問題への貢献によりノミネートされた企業や自治体、個人が招待された。
日本から唯一招かれたのが東京のスタートアップ企業「WOTA」だ。WOTAは独自の技術で排水の98%を再利用できる持ち運び可能な小型浄水装置を開発。大型の浄水場を建造することなくきれいな水を利用できる。気候変動で干ばつに苦しむアフリカの途上国などにも役立つ技術が高い評価を受けた。
WOTAの前田瑶介CEOは現在29歳。下水道の普及率が47都道府県で最も低い徳島県で生まれ育ち、幼少時から水と人間の関係を考えてきた。東京大学大学院で水の浄化について研究し、WOTAを立ち上げた。
前田氏は今回のCOP26を通じ「我々の技術が世界の人々の役に立つということがわかり、それをプレゼンテーション出来たといういことが非常に大きかった。」と話す
同時に「日本でも環境問題の解決に向けた機運は高まっているが、取り組むプレイヤーがまだ少ない」と指摘する。
グラスゴーの現場での様々な交流から、世界で環境問題への対応が加速化していることを実感したとして、「COP26に参加している人以外の一般市民も環境問題への高い関心や意識を持っている。我が国の同世代が国際社会に対しておいていかれないように、積極的に海外とのコミュニケーションをとっていくことが大事だ」と話す。
10代や20代の声を環境問題に反映させるべき
「海外であれば環境問題に関する情報がありあまるほどあるが、日本語で検索すると、とたんに少なくなる」と指摘するのは、若い世代の声を環境問題に反映させる非営利団体「SWiTCH」代表の佐座槙苗(さざ・まな)さん。26歳。
コロナ禍でCOP26が延期となった2020年、危機感を抱いた世界140カ国の同世代の若者たちと「MOCK-COP26」というグループを立ち上げ、各国政府に政策提言を行ってきた。
今回のCOP26ではグラスゴーの会場に足を運び、日本に向けて現地で得た情報をSNSで発信。各国の仲間と共に、コロンビアやガーナといった途上国の首脳にも直接意見を聞くなど積極的な活動を行った。
佐座さんは環境問題へ若い世代の声を更に反映させるべきと訴える。「気候変動の主な影響を受けてこれからの人生を歩まなければいけないのは若い世代。10代、20代の意見がちゃんと聞こえないというのはおかしい。問題解決に向けて若者と大人の双方の対話が必要」と話す。
「21世紀の産業革命」世界の潮流をにらみ対応を
イギリス政府はEV(電気自動車)の普及などにむけ、14兆円の民間投資を呼び込むための具体的プランを11月に発表。ヨーロッパでは温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするネットゼロの実現に向けて、21世紀の産業革命的な様相を呈している。今後もこの波は加速し、長期的には大きな産業構造の転換も考えられる。
COP26の最終協議の場でインドのヤダフ環境相が主張したように、国の状況によりネットゼロ実現への道筋は違うし、日本も水素自動車の開発やヒートポンプなど高い技術があり、途上国支援を通じて環境問題に貢献している。
しかし、ロイター通信が「かつて気候変動対策のリーダーだった日本は石炭利用のため窮地に立たされている」とのタイトルで記事を掲載するなど、国際社会の理解を得られているとは言い難い。そういう中で、前田氏や佐座氏といった20代の日本人が、環境問題への関与と途上国も含めてのコミュニケーションの大切さを訴えている姿を見るのは、心強い思いがした。
温暖化の抑止は国際社会の最重要課題になった。「緑の産業革命」から取り残されないためにも日本は官民一体となり、更なるアピールやキャッチアップが必要と痛感する今回のCOP26だった。
【執筆:FNNロンドン支局長 立石修】