地元の哲学者・谷川哲三が寄贈した書籍も閉架に…

愛知県の常滑市立図書館が9月で閉館した。老朽化による建て直しのためで“復活”が望まれているが、財政難などから先行きは不透明だ。

電子書籍の普及などで本離れが進み、今の時代に図書館そのものは必要なのか…。閉館前に取材をすると“まちの図書館”のあり方について様々な意見があった。

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9月、閉館間近の常滑市立図書館のカウンターには、大量に本を借りていく人たちの姿があった。

女性A:
予約の本を受け取りにきました。ちょっと寂しい気持ちになりますね

男性A:
閉鎖しちゃうもんで。その分の本を借りに来たんです。20冊くらい

閉館を前に駆け込みでの貸し出しが増えているようだ。

年間約200~300冊は本を読むという80歳の鈴木智さんは、施設が出来て50年間ずっと通い続けてきた“常連”だ。覗いているのは「除籍図書」と書かれたコーナー。

鈴木智さん:
どうせ処分されるんだったら、もらっていこうかなと。これもいっぺん読んだ本なんですけど、好きな本ですから

情報が古くなっていたり劣化が目立ったりするような本は、リサイクルとして利用者に配られている。バックヤードではスタッフがその除籍図書の選定作業に追われていた。

図書館のスタッフ:
本当に悲しいけど。わが子の首を絞める感じですかね。何か悲しいですよね

館内には、鈴木さんがお気に入りだったという「谷川文庫」もある。地元出身の哲学者・谷川哲三が寄贈した約1万2000冊の書籍。誰でも自由に閲覧できたが、今後は非公開の閉架となる。

鈴木智さん:
申請すれば、借りられるのは借りられるんですけどね。それが十何年か先に新館ができた時にどうなるかはちょっとね。(自分は)生きてないね、もう90になっちゃいますからね

一時は全国1位の貸し出し数 建物の老朽化もあり半世紀の歴史に幕

1970年に建てられた常滑市立図書館は多くの市民に利用され、一時は全国1位の貸し出し数を誇った時期もあった。今回の閉館で、図書館そのものの機能が失われるわけではないと市は説明する。

常滑市教育委員会の担当者:
本館の建物がなくなりますが、本館機能としては分館に持っていきます。耐震性がないことが分かりましたので、閉じるということが一番の原因です

老朽化による建て直しが長年の課題になっていた市立図書館は、遅くとも15年後には新館を建設したいとしている。

それまでの間は、市内の青海公民館、南陵公民館、常滑市役所子ども図書室の3カ所に本を移動させ、“図書室”として引き続き借りることができる。しかし、利用者は…。

女性B:
ちょっと困ります。近くに図書館がなくなっちゃうんで、どこに行こうかなと…。違う所だと遠くなっちゃうんで

男性B:
当分ちょっと不便でしょう。次のところを早く作ってほしいなと思う

本が移される3つの図書室のうち、2カ所は市の中心部から離れた場所に。近くにバス停や電車の駅もなく、車を持たない高齢者などにとっては不便だ。さらに、当初予定していた建て替えについても、暗雲が立ち込めていた。

常滑市教育委員会の担当者:
財政状況がコロナで大きく変わっていますので、計画通りには難しいかなという風に思っています

中部国際空港の利用がコロナで大きく落ち込んだことで、常滑市の年間税収は10憶円以上減少。担当者によると、10~15年後の完成を見越していた新館建設への具体的な見通しは立っていないという。

「電子書籍やオンラインで買える」時代の流れの中で揺れる“まちの図書館”

“まちの図書館”が直面する存続の危機。常滑市民はどう考えているのか。

女性(60代):
孫が来た時とかも行ったりしていましたから、図書館はあるほうがいいじゃないですか?

女性(10代):
ここら辺の図書館があそこしかないし、ちょっと寂しいです

男性(70代):
図書館はいるよね

閉館を惜しむ声が上がる一方で、図書館そのものの必要性を疑問視する声もあった。

男性(30代):
図書館には普段行かないです。閉館自体もあんまり知らなかったので

女性(20代):
活字って本以外でも触れられるようになったので…。今は電子書籍とかオンラインで買えたりもするので

男性(20代):
本をあまり借りに行かなくなった。(図書館の必要性は)今は無いかな…

電子書籍の普及などにより“紙の本離れ”が進み、この数年、図書館を利用したことがないという人もたくさんいた。

財政難により公共施設の統廃合進む…専門家が訴える図書館の必要性

“まちの図書館”はどうなっていくのだろうか。『公共図書館が消滅する日』という本を執筆した、金城学院大学で図書館情報学を教える薬師院はるみ教授は、縮小傾向は常滑だけに限らないと話す。

金城学院大学 薬師院はるみ教授:
財政的な問題といいますか、国が推し進めている地方創生という名の地方縮減です。全国で公共文化施設の統廃合をしないといけないという状況になっているので、その流れの中で(縮小が)進んでいく可能性はあるだろうなと

効率化を図るための統廃合や、人件費削減を目的とした民間への管理委託など、多くの自治体でその運営の見直しが行われつつあるという。それでも、地域に図書館がなくなる事態は避けるべきだと、薬師院教授は訴える。

金城学院大学 薬師院はるみ教授:
必要な知識とか情報とか、読書の機会とかを保証する。地域で残すべき資料をきっちりと残す。何か調べたいなと思った時に、図書館が頼れるなと思えるかどうか…

「図書館の利用者が多い地域は文化的にレベルも高くなり良い街になる」。薬師院教授は図書館の必要性を訴える。

工夫された本の展示に飲食もOK 画期的な取り組みで人気の図書館

街の“頼れる図書館”に…。そのヒントとなる施設が同じ愛知県にあった。2017年に複合施設「アンフォーレ」の中にオープンした安城市立図書情報館だ。

男性(30代):
見たい本も取り置きしてもらえたりとか。子供の目線に本がいっぱい置いてあるので、自由に手にとって読める感じ

女性(10代):
自分の読みたい本がたくさんあったりとか、興味のある本とかいっぱいあって…

年間貸し出し数約200万冊は、全国の同規模の自治体の中で1位。来館者数も4年連続で100万人を超えるなど、異例の人気となっている。

入口には、2カ月ごとにテーマを変えた特設展示コーナーが。手に取りやすいようオススメの本を平面に並べるなどの工夫が凝らされている。さらに…。

安城市立図書情報館の館長:
そこまで制限する必要はないんじゃないかと。自宅で読む時も飲みながらとか、おやつをつまみながらということがありますよね

館内での飲食もOKとした。他にも、階ごとに年齢層を分けた空間作りや、学生向けの自習室に特化したスペースの設置。

さらにスタッフを通さず本を借りられる貸出機など、これまでの図書館のイメージを覆すユニークな取り組みをした結果、家族連れや中高生の来館が増加した。中にはこんな親子も…。

女性(40代):
今は名古屋なんですけど元々、安城に住んでいて。ここの図書館がすごく蔵書が豊富で、子供と通っています。引っ越ししてからも2週間おきに

金城学院大学 薬師院はるみ教授:
図書館は人が集まりやすいところではあるので、図書館を核にしながら地域の人が活動することはこれからもできるだろうし、そういう可能性を持っている

遠くからも通いたくなる、そんな“人の集まる図書館作り”が求められているのかもしれない。

(東海テレビ)

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