2019年の第25回参議院議員選挙での全体の投票票率は49%、2017年の第48回衆議院選挙では54%だった。2016年から2019年の期間を対象にしたOECDの調査では、OECD諸国の比較で日本の投票率は下から5番目に位置しており、日本は投票率の最も低い国の中の一つと言える。少子高齢化が進む中、これからの日本を支える若者や現役世代の意思を政治に反映させるために投票率を上げることが非常に重要だ。

出典:OECD How’s Life? 2020 : Measuring Well-being
出典:OECD How’s Life? 2020 : Measuring Well-being
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そもそも若者や現役世代はどんな政策に関心を持っているのだろうか。どのようにすれば若者が政治に参加するようになるのだろうか。

投票率75%を目指して活動している「目指せ!投票率75%!プロジェクト」が行ったアンケート調査から見えた、若者や現役世代が関心を持っている政策について取材した。

投票率75%プロジェクトのメンバー
投票率75%プロジェクトのメンバー

若者や現役世代の暮らしに直結する選挙の争点

2021年8月に子どもの貧困問題に取り組むNPO法人など複数の団体代表者や大学生らが、日本の投票率を75%にあげることを目的として「目指せ!投票率 75%!プロジェクト」を立ち上げ、若者や現役世代が重視している政策についてのネットアンケートを行った。

9月には厚生労働省でアンケート結果の報告の記者会見が開かれた。アンケートでは44,629件の回答が集まった。アンケートでは個別政策の重要性を「とてもそう思う」から「全く思わない」まで評価をつけて、上位の項目で近い趣旨のものをグルーピングした「争点10+」が発表された。

10の争点は「ハラスメント禁止」「投票しやすいシステム整備」「労働環境の男女格差解消」「あらゆる差別の撤廃」「教育費の負担軽減」「コロナで苦しむ方への支援」「LGBTQの人権保障」「選択的夫婦別姓」「子育て支援「防災や被災地支援」とまとめられた。さらにプラスとして、「消費税含む税制改革」「女性議員比率の適正化」「難民・外国人への人権配慮と支援強化」が加えられた。

※調査概要
・調査項目は、「l2021 年衆院選での投票予定、2021 年衆院選で投票する/しない理由 」「2021 年衆院選で重視する政策分野 」「新しい社会課題に対応した個別政策についての考え方 」「 投票経験や期日前投票の活用状況等 」「投票制度の改善要望」など。
・回答者数44,629件、うち女性35,438名、男性5,455名と女性が約8割。
・回答者の年齢は19歳以下3.8%、20代40.3%、30代35.2%、40代13.8%、50代4.7%、60代1.8%、70歳以上が0.5%

目指せ!投票率75%プロジェクトが発表した「争点10+」
目指せ!投票率75%プロジェクトが発表した「争点10+」

プロジェクトを立ち上げた8月と、アンケート結果の発表をした9月に行われた記者会見では、プロジェクトを立ち上げた団体の代表者から、それぞれの団体が取り組んでいる課題からの視点で、なぜ投票率を上げることが重要なのか、アンケート結果で注目する点について語られた。

記者会見の出席者:上段左から 渡辺由美子氏 藤沢烈氏 大西連氏 林大介氏 室橋佑貴氏下段左から 井田奈穂氏 細谷柊太氏 尾上瑠菜氏 荻上チキ氏 宮本聖二氏
記者会見の出席者:上段左から 渡辺由美子氏 藤沢烈氏 大西連氏 林大介氏 室橋佑貴氏
下段左から 井田奈穂氏 細谷柊太氏 尾上瑠菜氏 荻上チキ氏 宮本聖二氏

コロナで生活に困っている人、小さき者弱き者への政策を求める声

アンケート結果から、生活困窮者やマイノリティに対する支援や、人権の問題に注目したコメントが、記者会見で多く聞かれた。

NPO法人キッズドア 渡辺由美子氏:
「身近な問題に関する評価が高く、憲法改正やイノベーションなど生活から遠い政策の評価が低いという特徴が見られました。コロナによるしわよせを受けて生きづらさを感じている女性、若者は、より身近な生活の苦しさを何とかしてほしい、と思っているのではないでしょうか。」

選択的夫婦別姓・全国陳情アクション事務局長 井田奈穂氏:
「男女の賃金格差が22.5%とOECDでワースト3位の日本で、女性や弱き者のための政策が求められていることがアンケート結果に表れています。ジェンダー平等が問い直される選挙ですが、選択的夫婦別姓はそのリトマス試験紙のようなものだと思います。」

OECD諸国の男女間賃金格差ランキング 日本はワースト3位出典 :OECD HP Gender wage gap Employees Percentage 2020 or latest availableSource: Earnings: Gross earnings: decile ratios 
OECD諸国の男女間賃金格差ランキング 日本はワースト3位
出典 :OECD HP Gender wage gap Employees Percentage 2020 or latest available
Source: Earnings: Gross earnings: decile ratios 

NPO 法人ドットジェイピー 尾上瑠菜氏:
「アンケートでは、女性、障がい者、LGBTQなどのマイノリティの待遇を改善すべきだという意見が多かったことについて、SDGsの教育を受けているSDGネイティブたちが、その考えを表明していいんだ、と認識できる社会の空気になってきていることを感じました。選挙がそのソリューションになることを広めていきたいです。」

認定 NPO 法人自立生活サポートセンター・もやい理事長 大西連氏:
「我々の団体に生活困窮の相談に来る方の年齢が下がっています。非正規雇用者はよりコロナの影響を受けており、苦しい人への視点を改めて問い直す選挙にしたいです。」

日本若者協議会代表理事 室橋佑貴氏:
「30代の年収平均が下がっており、働く世代の改善が重要。生活が大変な人は投票に行かない傾向にあります。」「若者の投票率が上がれば、政治家が若い世代に働きかける重要度が高くなり、若者への税金の予算配分、例えば教育への公的支出がOECD諸国の中で低いレベルにあるという状況に変化があるはずです。」

OECD諸国のGDPにおける公財政教育支出割合ランキング出典:OECD HP Public spending on education Primary to post-secondary non-tertiary  % of GDP 2015 Source: Education at a glance: Educational finance indicators
OECD諸国のGDPにおける公財政教育支出割合ランキング
出典:OECD HP Public spending on education Primary to post-secondary non-tertiary
  % of GDP 2015 Source: Education at a glance: Educational finance indicators

公益財団法人RCF代表理事 藤沢烈氏:
「災害復興支援の現場ではコロナの影響でボランティア、寄付が激減していますが、今回のアンケートからは防災・復興政策に広い層が関心を持っていることがわかりました。」

政治への無関心、不信やメディアの伝え方

アンケート結果からは、若者や現役世代の政治への関心の低さや不信感が大きな課題として浮き彫りになった。また、メディアの政治報道の頻度やファクトチェックのあり方についても言及された。

日本若者協議会代表理事 室橋佑貴氏:
「8月の時点で、『2021年秋に衆院選が予定されていることを知っていましたか?』というアンケートの質問に全体で21%の方が知らなかったと答えました。選挙の報道が少ないことが影響しているのではないでしょうか。」「アンケートの自由記述で、政治家への不信に関するものが目立ちました。メディアで報じられる不祥事やスキャンダルを全政治家像に当てはめてしまう一方で、政策で変わった良いことが伝わっていないように感じています。」「アンケートでは環境問題への評価が低い結果でした。メディアには、人々に関心を持たれていなくても重要な課題について、とりあげてほしいと思います。」

NPO 法人ドットジェイピー 細谷柊太氏:
「日本の若者は、政治や制度に違和感を持っていることが、アンケートで明らかになったと感じています。ただ、日々活動している中で、実際に変化を起こすためには、変化のリスクに対応する知識や信念が必要になると感じています。単純な違和感だけでなく、なぜ実際変えていくことが難しいかについて若者が知る努力が必要で、その架け橋になる活動をしていきたいです。」

模擬選挙推進ネットワーク代表・事務局長 林大介氏:
「アンケートでは、選挙に行かない理由について、『選挙や政治がよくわからないから』『投票しても変わらないと思うから』が上位に入りました。政党が主張する政策の差をわかりやすく伝えることが必要です。また、近年低調だった若年層の投票率が上がれば、若者の票は十分大きな影響力を持ちます。」「2016年に行われた総務省の18歳選挙権に関する意識調査によれば、子どもの頃に親が行く投票についていった人の方がそうでない人よりも投票に行く傾向にあります。子どもを民主主義の担い手として育てることも大切です。」

政治学者、立教大学大学院特任教授 Yahoo!ニュース プロデューサー宮本聖二氏:
「2016年の米国大統領選以来、選挙でのフェイクニュースが増えてきています。デマ報道がきっかけで投票に行くケースがあるという調査結果があり、メディアでのファクトチェックが益々重要になっています。」

投票しやすいシステムの整備が求められている

投票行動を促すための仕組みについても提案があった。

一般社団法人社会調査支援機構チキラボ代表 荻上チキ氏:
「アンケートで投票に行こうと思う制度やきっかけについて質問したところ、インターネット、コンビニ、駅、職場、学校での投票を求める声が上位に入りました。仕事や子育てで忙しい方、生活が苦しい方ほど投票に行けない傾向にあるので、投票しやすいシステムの整備が求められています。」

若者や現役世代の重要課題を争点に

プロジェクト発起人のNPO法人キッズドアの渡辺由美子氏によれば、今後、政党や候補者に「争点10+」を送付し、意見や考え方を聴取して公開することや、セミナーを開いたりする予定だということである。

2021年10月31日に行われる第49回衆議院議員選挙では、より身近な生活に関わること、困っている人の力になることなど、若者や現役世代の関心が高い政策が選挙の争点として注目され、投票につながることが期待される。各政党や候補者が75%プロジェクトが問いかける若者や現役世代の重要課題にどう答えるか、注目したい。

【執筆:フジテレビ メディアソリューション 岸田花子】

岸田花子
岸田花子

フジテレビ ニュース総局メディア・ソリューション部。1995年フジテレビ入社。技術局でカメラ、マスター、システムなどを経て現職。注目する分野は、テクノロジー、働き方、SDGs、教育。