もしも自分の子どもに障害があったら、あなたは今の仕事をそのまま続けられるだろうか。子育てと仕事の両立に悩む親は少なくないが、障害児は成長してもひとりで外出や留守番ができるようになるとは限らない。また、子どもが学校を卒業すると、福祉・医療サービスの中にはそれまで通りには利用しにくくなったり利用できなくなるものもある。
障害児の親が仕事を続けるためのハードルやそもそも仕事を続けることがなぜ重要なのか。「障がい児および医療的ケア児を育てる親の会」(以下「親の会」)と「朝日新聞厚生文化事業団」が7月1日に開いたセミナーで上がった、当事者や専門家の声を3回に分けてお伝えする。
この記事の画像(7枚)第1回では、障害児を育てながら働く親の「綱渡りの毎日」を紹介する。
「声を上げる時間もない」働く障害児の親の悲痛な叫び
セミナーでは、障害児を育てながら仕事をしている当事者から、時間的・労力的に厳しい現状についての具体的な報告が多数聞かれた。
工藤さほさん (新聞社勤務、高1の自閉症の娘の母):毎日の学校や放課後等デイサービスや自宅の送迎費が大変。移動支援は人手が足りず、放課後等デイサービスも満室で毎日通えない。福祉のサービスで補えない部分は、民間業者や友人や親戚、あらゆる知り合いにお願いして、まさに綱渡りの日々。送迎費は学費の倍はかかる。こうした方々との毎日のやりとりや、毎月の申請書類の提出にと、時間や神経を相当使う。
池田知世さん (通信社勤務、小3のダウン症の息子の母):息子には見守りが必要だが、自治体の学童は対応時間が短く、お泊まり保育は利用枠が少ない。公共福祉では、幼児のベビーシッター補助が年々充実してきている一方で、就学児は小3までの病児保育などと限定的で補助が足りていない。経済的な負担を感じず、息子が安心できる保育を安定的に確保することに大きな不安がある。また、必要な情報を得ることが非常に難しく、常に情報収集と環境整備に追われている。
深澤友紀さん (出版社勤務、小3の脳性まひの息子の母):登下校の付き添い加え、理学療法士や作業療法士による療育や通院の付き添いが多いときには年間130回程度もあった。そのほか福祉を受けるための申請手続きの多さなどもあり、仕事との両立の難しさを感じている。運動会の練習など、行事等のときに学校で付き添いが必要だったり、待機したりということも多くあり、学校の片隅でPCを開いて仕事をすることもある。毎日の歩行練習のリハビリは自分の父が担当している。医療やリハビリ、障害があっても受け入れてくれる習い事などの情報収集や、通っている小学校にエレベーターの設置を求めるための自治体への交渉などにも労力を割かれている。
障害児の親には、日々の暮らしと仕事でいっぱいいっぱいで、声をあげる余力すら残っていない人も少なくないという。
障害児のいる家庭は母親の就労継続が難しく世帯収入も低い傾向
工藤さほさん:昭和女子大学現代ビジネス研究所の美浦幸子氏による調査 では、回答した都立特別支援学校に通う家族の年間世帯収入は、子育て世帯全体の収入より約250万円低い550万円未満が半数以上を占めた。
また、佛教大学・田中智子氏による京都市の重度知的障害児・者の家族を中心とした調査では、約6割が「生活にゆとりがない」と回答し、母親の半数以上が働くことができておらず、世帯収入が低い要因になっていると思われる。
小林正幸さん (「全国医療的ケア児者支援協議会」親の部会長、20歳の医療的ケアが必要な息子の父):全国医療的ケア児支援協議会が医療的ケア児のいる親を対象に行なった調査によれば、主な介護(医療的ケア)者は94%が母であり、母の正社員率は約16%で、一般の21%を大きく下回っていること、子の年齢が高くなるに従って正社員率が下がっていることがわかった。
佛教大学・田中智子教授:障害児の親・家族は、介助者、コーディネーター、代弁者など、「親」以上の役割が課せられており、社会から無償の含み資産と位置づけられてしまっていることが課題。
例えば学校が対応できないときに親の付き添いを求めるなど、親はいつでも無料で呼び出せるという社会の枠組みを変えていくためにも、みなさんの経験が語られることが大切。
セミナーでは、障害児のいる家庭の世帯収入の低さ、母親の就労率の低さや正社員率の低さの実態について報告があった。
障害児を育てる母親は、昨今の女性活躍促進や両立支援の動きからこぼれおちてしまっているのかもしれない。