真夜中に霞が関に連なる客待ちタクシーの列の報道がある度に、「民間企業では労働基準法によって残業の上限が厳しく管理されているのに、官僚が頻繁に夜中にタクシーで帰宅するのはなぜなのか」常々疑問に思っていた。調べてみると、官僚の残業勤務にかかる費用は年間102億円、そのうちタクシー代は22億円にのぼるという。(※)

(※:慶應義塾大学大学院経営管理研究科の岩本隆特任教授による2018年のレポート)

官僚の労働時間に関する法律はどうなっているのだろうか。

2021年6月7日に行われた、国会改革をめざす超党派の議員による「衆議院改革実現会議総会」で、講師を務めたワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長にインタビューし、3回に分けてお伝えする。第2回は、官僚の長時間労働と残業代不払いの課題について述べる。

官僚の時間外労働に上限規定はあるが、例外規定があり罰則がない

労働基準法の上限を超えた官僚の長時間労働が、度々報道されている。2021年3月12日の厚労省の発表で厚生労働省の職員398人の残業が1月に月80時間の過労死ラインを超えたことが、また3月5日に政府が出した答弁書によれば内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室の1月の残業時間が平均124時間に上ったことが明らかになった。

労働基準法では「時間外労働時間の上限が、原則で1か月45時間、1年360時間。労使で協定を結ぶことによって、年間6カ月まで1カ月で100時間未満の時間外労働が可能。(ただし、年間720時間の枠内、2~6カ月の平均で80時間以内)」と定められているが、官僚の労働時間の実績が労働基準法で定められた上限を超えているのは、法的に問題ないのだろうか。小室氏に聞いた。

ワーク・ライフバランス社の小室淑恵社長
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――官僚が月80時間の過労死ラインを超えた残業をしているのは、労働基準法に違反しているのではないのでしょうか?

小室氏:
官僚には労働基準法が適用されません。代わりに国家公務員法や人事院規則に労働環境が定められています。

――国家公務員法や人事院規則では、官僚の残業の上限は定められていないのでしょうか?

小室氏:
人事院規則にも労働基準法と同じ労働時間の上限の記載がありますが、大規模災害への対処、重要な政策に関する法律の立案、他国又は国際機関との重要な交渉などについては上限規定を適用しない、といった例外規定があり、実質的に上限規制は機能していません。また、上限を破った場合の罰則規定もありません。

官僚は労働基準法の適用外で、労働時間の上限規制の例外業務が多いということに、筆者は非常に驚いた。実質的に上限なく働いている官僚の命と健康が危ぶまれる。

すぐにでも勤務時間インターバル規制導入を

――官僚の長時間労働を減らすためには、まず何をすべきでしょうか。

小室氏:
まずはすぐにでも、勤務終了から勤務開始までの最低限の時間を定めた勤務時間インターバル制度を導入する必要があります。本来必要なインターバルは11時間ですが、9時間からでも始めるべきです。各省庁を22時から翌朝5時に完全閉庁するという対策も、もちろんある程度有効です。

根本的な解決は、国家公務員法に労働基準法と同じように労働時間の上限の規定を入れること。官僚も労働者として保護されなければいけません。

残業代が正しく支払われていない部署がある

2020年12月に河野国家公務員制度担当大臣が、同年10月11月に20代官僚の3人に1人の在庁時間が月80時間の過労死ラインを超えていたという調査結果を発表し、「サービス残業がないということは、およそ考えられない」と述べ、官僚のサービス残業があることを示唆した。さらに2021年1月、官僚の超過勤務手当に関して「残業時間はテレワークを含めて厳密に全部付け、残業手当を全額支払う」と宣言した。

――大臣の発言の後、官僚の残業代は正しく支払われているのでしょうか?

小室氏:
株式会社ワーク・ライフバランスが2021年4月に官僚316名を対象に行った調査によれば、「働いた全ての時間に対して支払われたか」という問いに対して、回答者の3割が残業代を正しく支払われていないと回答しました

出典:株式会社ワーク・ライフバランスHP 2021年4月発表「コロナ禍における中央省庁の残業代支払い実態調査」のプレスリリース

「超過勤務」予算は各省庁で上限がある

――なぜ官僚の残業代不払いが起きるのでしょうか。

小室:
超勤予算には各省庁で上限があり、働いた全ての時間に対して支払われないことがあるようです。

2021年4月発表の弊社の調査結果では、「働いた全ての時間に対して支払われたか」という問いに、官僚から「年度末で超勤予算が枯渇し支払えないと言われた。」「超過勤務した分を申し出たが支払うことはできないと言われた。」「テレワークは国際会議等の理由があれば残業がつくが、基本的に認められないと言われた。実際の勤務時間で残業申請したものの、認められなかった。」という回答がありました。

――残業代不払いを防ぐには何が必要でしょうか?

小室氏:
勤務管理をシステム化して、残業の実態を把握し、働いた全ての時間に対して残業代を支払う必要があります。現在、中央省庁では省庁や部署ごとにそれぞれのやり方で勤務管理をしており、弊社アンケート結果によれば、回答があった308名の内76.6%が、出勤簿は専用のシステムがなく、記録方法はエクセル、紙、記録していない、のいずれかという回答でした。

深刻な官僚のメンタル疾患と人材流出

官僚の長時間労働は、深刻なメンタル疾患と人材流出を招いている。

人事院の調査によれば、2019年度には6名の官僚が過労死した。2020年11月の河野国家公務員制度担当大臣のブログによれば、2019年の官僚の採用試験申し込み者数はピーク時の1996年と比べて半減しており、若手の離職率は6年前の4倍となっている。 2019年8月に、厚生労働省改革若手チームが発表した緊急提言にあった「厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」というコメントは社会に大きな衝撃を与えた。官僚はどのような思いで働いているのだろうか。離職者、家族はどのような思いでいるのだろうか。

2019年6月に現役官僚・元官僚・官僚家族など約1,000人にアンケートを実施した「官僚の働き方改革を求める国民の会」の代表、廣田達宣さんにお話を聞くことができた。

出典:官僚の働き方改革を求める国民の会HP

――アンケートで寄せられた生の声にはどんなものがありましたか?

廣田:
 2019年6月の調査では、回答者の68.5%が1か月あたりの残業時間が100時間超えという調査結果が出ました。アンケートには「激務で体を壊し、精神を病んでいく同僚を見て、明日は我が身と思い退職した。」「主人は、土日を問わずタクシー帰りは当たり前、むしろ帰れたらラッキーという生活を送っている」「昼を食べる時間もなく、健康で文化的な最低限の生活を送れていないというのが実態」「不毛な国会待機に嫌気がさし、働き甲斐のあった職場を退職した」といった、悲痛な声が多数寄せられました。

――家族や子どもに関する悩みも多かったとお聞きしました。

廣田:
「平日は子供とご飯を食べたりお風呂に入ったりできない」「妻から子供はあきらめるが、あなたが倒れたら私が頑張るから無理しないでと言われた」「現在の激務状態ではまともに子どもも産めないし産んでも育てられるかわからない」など、子育てをしている職員、これから子どもが欲しいと思う職員の深刻な声がありました。

――離職する官僚も少なくない中、官僚はどのような気持ちで仕事をしているのでしょうか。

廣田:
志高く国のためになる仕事をしたいと入省入庁した方からは、人材流出による行政機能の低下を心配する声が聞かれました。「辞めて外資に行ける能力のある人から離職し、残った人たちで質を落としながら政策立案している。」「労働基準法を適用すれば到底許されない働き方が常態化しているが、それでもこの仕事を選び、続けているのは、国民がより幸せに生きていける社会を形成する一助となりたいという思いがあるから」といった回答がありました。

廣田さんのお話では、官僚が過酷な労働時間の中でも国のために頑張っている姿、省庁の未来を心配する姿が印象的だった。

社会や暮らしの様々な課題を解決する上で、官僚が果たす役割はこの上なく大きい。このまま何も手を打たなければ、優秀な人が官僚を目指さない、官僚になっても辞めてしまうことで、行政機能が崩壊してしまうのではないだろうか。官僚の長時間労働解消には、早急に具体的な対策が必要だと感じた。

次回第3回は、官僚の働き方が少子化、民間企業の生産性低下とどう関係しているのかについて述べる。

【執筆:フジテレビ 岸田花子】