女性が自分で自分の人生を決めるためには、妊娠・出産に関して自分で決められることが重要だ。事情があって人工妊娠中絶(以下、中絶)をする際に、妊娠初期において現在日本では手術という選択しかないが、厚労省で飲む中絶薬である「経口中絶薬」の承認が検討されている。

そんな中、産婦人科医を中心とした有志団体のSafe Abortion Japan Project(SAJP)は、経口中絶薬の承認を含む、安全な中絶・流産の選択肢を増やすことを求める署名を6万筆以上集め、要望書と共に2月21日に厚生労働省 子ども家庭局、医薬・生活衛生局に提出した。中絶や流産に関する医療的、社会的な課題は何なのだろうか?厚労省で開催された記者会見を取材した。

SAJPが集めた68,362筆の署名と要望書が厚生労働省 子ども家庭局、医薬・生活衛生局に提出された。
SAJPが集めた68,362筆の署名と要望書が厚生労働省 子ども家庭局、医薬・生活衛生局に提出された。
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近く承認される見通しの「経口中絶薬」とは

今年1月に厚生労働省の専門部会は、イギリスの製薬会社「ラインファーマ」の経口中絶薬「メフィーゴパック」の製造販売について、国内で初めて承認することを了承した。2種類の薬の服用により、妊娠の継続を止める作用があり、妊娠9週までの妊娠初期の妊婦が対象となる。厚労省では2月にパブリックコメントを募集しており、早ければ3月に上部組織の薬事分科会で正式承認される見通しだ。

海外から30年以上遅れての承認への動き

SAJPの代表の遠見才希子医師と、署名の呼びかけ人の一人である女性医療ネットワークの対馬ルリ子医師によれば、これまで日本での経口中絶薬の承認をめぐる動きは、長い年月がかかったそうだ。

対馬医師:「海外では1988年から、経口中絶薬が安全な中絶の方法として使われてきた実績がありますが、日本では30年以上遅れてようやく申請が提出されて、承認の見込みまで来ました。」

遠見医師:「今回の薬は2021年に承認申請が提出され、2023年1月に厚労省の専門部会が承認の了承をしました。通常専門部会の了承ですぐに正式承認となることが多いのですが、社会的関心が高いとのことでパブリックコメントを経て上部組織で正式承認する流れなっており、これは異例の対応です。」

左:女性医療ネットワーク 対馬ルリ子氏 右:SAJPの代表 遠見才希子氏
左:女性医療ネットワーク 対馬ルリ子氏 右:SAJPの代表 遠見才希子氏

金属製の器具で子宮内をかき出す「掻爬法」による中絶・流産手術の課題

会見では、経口中絶薬が求められる理由の一つとして、日本での中絶・流産手術の方法の課題が指摘された。

遠見医師:「日本では金属製の器具で子宮内をかき出す「掻爬法」での中絶手術が少なくありませんが、極めてまれに子宮穿孔や不妊症などを生じるため、WHOでは「真空吸引法」や「経口中絶薬」が推奨されており、「掻爬法」は「行うべきではない」と勧告しています。

「掻爬法」は手術が必要なけい留流産にも用いられますが、WHOでは中絶だけでなくけい留流産においても、経口中絶薬の使用を推奨しており、要望書では流産の場合にも経口中絶薬を選択できるように求めています。」

必要なケアへのアクセスを容易にするには

今春に経口中絶薬が承認されたとしても、運用には特に注意が必要だという。

対馬医師:「世界から39年遅れて1999年にようやく日本で避妊薬として低用量ピルを女性が選択できる時代になってからも、低用量ピルに対する偏見、無知、恐怖感、価格、入手までの手間の多さから、手に入れにくさがずっと続いています。経口中絶薬はそうならないようにしてほしい。」

遠見医師:「当事者にわかりやすく、経口中絶薬に関する適切な情報がパンフレットや動画などで提供されて、女性自身が自己決定できるようになることを求めています。副作用や合併症の説明はもちろん重要ですが、情報の偏りや乏しさによって無用に不安をあおることなく、経口中絶薬が多くの国で安全な中絶として使用されていることなどを踏まえた情報提供をして、国際的な推奨や科学的根拠に基づく運用、管理をしてほしいです。」

また、日本では、母体保護法によって、中絶には配偶者の同意が必要とされており、都道府県医師会によって指定された母体保護法指定医師しか中絶に対応できない。要望書の中では、刑法堕胎罪、母体保護法を見直すことで、安全な中絶へのアクセスを阻む法律的な制限の撤廃が求められた。

中絶を負のレッテルにしない

会見では、中絶に対するスティグマの課題についても語られた。

遠見医師:「汚名を着せる、負のレッテル貼るという意味があるスティグマの問題も非常に根深いと思っています。中絶に対して一方的なジャッジをしない、 支援や医療、教育について社会全体で考えていけるといいなと思います。国際産婦人科連合(FIG0)も、ノンジャッジメンタルでスティグマを与えない中絶後ケアを提供することの重要性を提言しています。」

対馬氏:「中絶したくて妊娠する女性はいません。アクシデントや性暴力による望まない妊娠をして窮している女性が、自分の子宮や身体や心を傷つけず、その人の価値も下がらずに前に進める選択肢として、医療のサポートのもとに経口中絶薬が使われるようになればいいと思っています。」

性と生殖に関する健康と権利は「個人の権利」。

会見で「経口中絶薬の承認により、中絶が簡単にできるようになって少子化を促進するのではないか、という意見についてどう答えるか」という質問に、遠見氏が力強く回答したことが印象的だった。

遠見氏: SRHR(性と生殖に関する健康と権利)は国家の権利ではなく、個人の権利です。自分の体のことを自分で決める権利があります。子どもを産むか産まないかを決めるのはその女性自身の権利で尊重されなければいけません。

日本では年間15万件の中絶手術が行われ、それ以外にも医療機関で確認された妊娠のうち15%に自然流産を生じていると言われており、経口中絶薬の認可の行方に影響を受けると思われる女性は決して少なくない。女性が健康と権利を守るための大切な薬、経口中絶薬の正式承認への動きに注目したい。

フジテレビと在京テレビ局などが連携して発信

この春、フジテレビは、NHKおよび民放各局(日本テレビ、テレビ朝日、TBS、テレビ東京、TOKYO MX)と 連携し、国連が定める「国際女性デー」(3月8日)にあわせて、女性の体と心や、生き方について考える情報を 集中して発信する連携キャンペーン「#自分のカラダだから」を展開します。

※期間中に放送・配信する内容は、民放各社およびNHKがそれぞれの責任のもと発信します

岸田花子
岸田花子

フジテレビ ニュース総局メディア・ソリューション部。1995年フジテレビ入社。技術局でカメラ、マスター、システムなどを経て現職。注目する分野は、テクノロジー、働き方、SDGs、教育。