もしも自分の子どもに障害があったら、あなたは今の仕事をそのまま続けられるだろうか。

障害児の親たちにとって仕事を続けるためのハードルになっているものは何か。「障がい児および医療的ケア児を育てる親の会」(以下「親の会」)と「朝日新聞厚生文化事業団」の主催で7月1日に開かれた、当事者や専門家が 実態を語るセミナーを取材した。

第2回は、多くの障害児が一部の福祉・医療サービスを利用できなくなる「18歳の壁」と、障害児を育てるためにかかるお金の話を述べる。

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18歳の壁~支援が薄くなるがその後の人生は長い

保育園や小学校のときの支援も十分とはいえないが、高校を卒業した18歳から支援がさらに薄くなるという課題についても問題提起があった。

工藤さほさん (新聞社勤務、高1の自閉症の娘の母):健常児だったら、「学校ご卒業おめでとう、いよいよ自立ですね」となるが、重度障害児は違う。娘が学校を卒業したあと、暮らしを支えていた大切なサービスがいくつかなくなるので親の負担が増える。学校が終わったあとの居場所である放課後等デイサービスがなくなり、学校から自宅や放課後等デイサービスへのヘルパーさんの移動支援も、週末などの本人の余暇活動の付き添い以外、使えなくなる。卒業後通うと思われる生活介護などの施設は16時までと短く、そのあとの居場所がない。施設の送迎車が巡回するバス停までの送り迎えも移動支援が適用されなくなるため、親がせざるを得ない。学校卒業後の方が娘にとって長い人生となるのに、どうやって仕事と娘の養育を両立していくことができるのか心配で仕方がない。念願のフルタイムに戻ったばかりだが、2年後には短時間勤務を再申請し、もし認められなければ、就労継続の危機を迎える。

工藤さほさん (新聞社勤務、高1の自閉症の娘の母)
工藤さほさん (新聞社勤務、高1の自閉症の娘の母)

河崎智文 さん(産業別労働組合勤務、18歳の発達障害の息子の母):企業の障害者雇用制度で働くのも選択肢のひとつになるのではないか。最近は、重度の障がいがあってもICTを活用することで働くことが、少しずつ広がりつつある。

河崎智文 さん(産業別労働組合勤務、18歳の発達障害の息子の母)
河崎智文 さん(産業別労働組合勤務、18歳の発達障害の息子の母)

求められる当事者以外の理解と連携

障害児を育てながら働くためには、様々な分野の連携が不可欠で、何よりも一般の人の理解が非常に重要だという意見が多くあがった。

池田知世さん(通信社勤務、小3のダウン症の息子の母) :ダウン症の子どもを持つ親から、会社に子の障害のことを言いづらいという声も聞いたことがある。子どもの介護について職場の理解が必要。

池田知世さん(通信社勤務、小3のダウン症の息子の母)
池田知世さん(通信社勤務、小3のダウン症の息子の母)

河崎智文さん:息子が保育園で友達に噛みついてしまったり、遊具の順番を守れないときに、親のしつけがなっていないと怒鳴られることもあり、悩んでいた。小学校では集団生活になじめず、授業が成り立たないので親が付き添ってほしいと言われたりした。親子で追い詰められて体調を崩してしまったが、息子が「ぼく、友達を叩いてしまうから、手をぐるぐる巻きにして」と言われ、息子も悩んでいること、自分がしっかりしなければと我に返った。今は釣りを通した地域の方々とのつながりで、居場所を見つけ成長することができた。

深澤友紀さん(出版社勤務、小3の脳性まひの息子の母) :元気に産んであげられなかった後ろめたさや、仕事をあきらめた方がいいのか悩んだが、両親のサポートを受けて職場復帰した。社内では状況を具体的にオープンにしている。

深澤友紀さん(出版社勤務、小3の脳性まひの息子の母)
深澤友紀さん(出版社勤務、小3の脳性まひの息子の母)

市川亨さん(通信社勤務、20歳のダウン症の娘の父):日本は制度はしっかりしているが、受け入れる側の人手不足や硬直的対応、過剰な心配が壁になっていると思う。声を上げると同時に、「これならどうですか?」とお互い提案し合う建設的対話が大切だと感じる。

市川亨さん(通信社勤務、20歳のダウン症の娘の父)
市川亨さん(通信社勤務、20歳のダウン症の娘の父)

障がい児を育てるためにはお金がかかる~親が働く理由

誰もが生活のために働く必要があるが、障害児を育てる家庭では、公共福祉で賄えないサービス費や器具購入費などのために、さらに収入が必要になる。

深澤友紀さん:脳性まひの子どものための歩行器、車いすといった福祉用具や、車いすで利用できる教室の机などの学用品、自宅の改造費用、必要なケアの費用など、多くの費用がかかるが、経済的なことで子どもの可能性を狭めたくない。

深澤友紀さんより「脳性まひの息子を育てるのにかかっている費用」の一例
深澤友紀さんより「脳性まひの息子を育てるのにかかっている費用」の一例

工藤さほさん:思い切って周囲に、障害児を育てていることを話すと、心優しい人ほど「それは大変、ご家庭に専念して」と気遣いの言葉をかけてくださるが、声を大にして「違う」と言いたい。看護や介護にかかる費用のほか、きょうだいを含めた家族が生きていくためにはお金が必要。

自分の老後の心配だけではなく、将来経済的に自立できないかもしれない我が子の一生分の賃金も稼がないといけないかもしれない。夜、布団の中で、「もし私が死んだら、自分の名前さえ言えないけれど、とても心優しい娘の笑顔をどうやって守ってあげたらいいのだろう」と、涙がこぼれてしまうときがあるが、働くことで多少は不安が和らぐ。何もしないでいたら、おかしくなりそう。私たち障がい児を育てる親にとって、就労の継続は死活問題だということを理解してほしい。

2歳当時の工藤さんの娘 工藤さん「重度の知的な遅れがある自閉症の娘は不器用で、おもちゃで遊ぶことはできませんでしたが、小さい頃から自然が大好きで水族館では何時間でも海の生き物を眺めて過ごしていました」
2歳当時の工藤さんの娘 工藤さん「重度の知的な遅れがある自閉症の娘は不器用で、おもちゃで遊ぶことはできませんでしたが、小さい頃から自然が大好きで水族館では何時間でも海の生き物を眺めて過ごしていました」

佛教大学・田中智子教授:仕事をしていないことは、障がい児の親の低年金の問題にもつながり、親子双方の自立を難しくする。

岸田花子
岸田花子

フジテレビ ニュース総局メディア・ソリューション部。1995年フジテレビ入社。技術局でカメラ、マスター、システムなどを経て現職。注目する分野は、テクノロジー、働き方、SDGs、教育。