災害はいつあるか分からない。災害規模や状況によっては、国や行政の「公助」が間に合わない、対応しきれないことも考えられる。

こうした課題にユニークな方法で備える施設が、長野県小布施町にある。それが、2020年10月に開設した「nuovo」(ノーボ)。日本初だという、防災と農業をテーマにしたアミューズメントパークだ。

ノーボの全体図。テーマは防災と農業
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施設の名前は農業+防災をくっつけた“農防”からきていて、特徴は約4000平方メートルの敷地内に、防災や農業に関連した備えやアトラクションが用意されていること。

施設を上空から見るとこんな感じ

防災エリアは約3000平方メートルで、ここでは災害支援で活躍する、ショベルカーなどの重機や四輪バギーの操縦体験ができる。2日間で重機の操縦資格を取得できるコースもあり、こちらは災害現場を想定した技術を習得してもらうことを目指しているという。

災害現場を想定したトレーニングも行っている

このほか、災害支援の拠点となる災害支援車両、移動式のトレーラーハウス、救援用のヘリコプターが着陸できるヘリポートなども備えている。

災害支援車両などを配備

1年中収穫可能…野菜でも災害に備える

ノーボのもう一つの顔が、農業エリア。こちらは約1000平方メートルの畑で、根菜類を中心に長ねぎ、にんじん、ピーマンなどの野菜を栽培。1年中収穫できる環境を整えている。

なぜ農業?と思われるかもしれないが、ここにも防災が関わってくる。実は災害時に配給される食料は揚げ物の弁当などが中心で、栄養素が偏りがちなのだとか。育てた野菜は、災害支援として炊き出しを行うときに活用したりするという。

野菜の収穫体験も開いている

収穫された野菜は道の駅で販売もしているので、平常時でも無駄になることはない。アトラクションとして、野菜の収穫体験を行うこともあるという。

普段は防災の学び場として活動しつつ、災害時には支援拠点にもなれるのが特徴だ。

実際に開設からの約1年間で、約600人が重機の操縦資格を取得。全国の災害支援活動に参加していて、2020年12月に発生した関越自動車道での積雪による立ち往生、2021年7月に発生した静岡県熱海市の土石流被害にも駆けつけたという。

災害現場での支援にあたっている

ノーボの運営者は一般財団法人「日本笑顔プロジェクト」という組織で、構想を立ち上げた代表の林映寿さんは「浄光寺」という寺の副住職だ。林さんにお話を伺うと、災害現場の実情も見えてきた。

関心がないと防災意識は薄れてしまう

――防災活動に取り組むきっかけとノーボの開設経緯を教えて。

日本笑顔プロジェクト発足のきっかけは2011年の東日本大震災です。地域が笑顔を取り戻し、復興につながればと旗揚げしました。当初の活動は炊き出しや学習支援、写真洗浄などでしたが、災害支援活動も行うようになりました。

日本笑顔プロジェクトのメンバー。代表の林映寿さん(左上)

ノーボの構想は2019年10月の台風19号が影響しています。私の地元・長野県も千曲川が決壊して泥や土砂が流れ込むなどの水害が発生しました。私たちも復旧作業を手伝いましたが、人的支援だけではなかなか進まず、災害現場では小型重機などが活躍していました。

そこで、このような機械を民間でも投入できる環境が必要だと考え、災害支援で必要なものが集まる場所となり、同時に人材育成できる施設を作ろうと思いました。

――民間にこだわる理由は?国や行政が助けてくれるのでは?

災害時の対応は「行政や国がやってくれる」と思いがちなのですが、消防や警察、自衛隊が出動するかどうかの判断は人命被害、行方不明者の有無にも左右されます。加えて、行政や国の復旧作業は幹線道路では行われますが、個人宅や狭い路地までは入りません

台風19号の時は地域が復旧していない状況で、住民とボランティアしか残らないような状況になってしまいました。これからを考えると、民間でも重機などを動かし、災害支援できる人たちを育てていかなければと思いました。

被害を受けた果樹園。人力だけでは復旧も進みにくい

――防災と農業をテーマパークにしたのはなぜ?

人々の災害・防災意識は被災地域でも時間とともに薄れてしまうと感じ、変わったアプローチが必要だと考えました。災害支援で活躍する車両などが集まれば、子どもらをはじめ、幅広い世代の参画につながると思いました。

子どもらが防災支援に参画することも期待している

防災と農業をくっつけた理由は、どちらも社会問題であるためです。今はどの地域でも農家の後継者不足や遊休農地が発生しています。ノーボを作るには広い土地が必要でしたので、野菜をそこで同時に作ることができれば、両方の社会問題も解決できる。一石二鳥だと思いました。

災害現場では求められるスキルが違う

――防災関係ではどのようなことが学べる?

小型重機、四輪バギー、チェーンソーの講習や災害現場を想定したトレーニングが行えます。例えば、重機だと災害現場で使われることの多い、掘削に役立つ「ドラッグショベル」、砂利などを運べる「ホイールローダー」の操作資格を取得できます。

「ホイールローダー」の操作資格も取得できる

参加者が楽しく学べることも目指しています。講習では災害時に機械がどう役立つのかなどを座学で学びますが、プロによるパフォーマンスタイムを用意するなどしています。少し変わったコンセプトですが「ディズニーより楽しく、自衛隊より強く」を目指しています。

女性が重機操縦の資格を取得することも増えているという

――災害現場を想定したトレーニングとは?

例えば、掘削用機械は普段だと穴を掘るために使われますが、災害現場では流れ着いた泥や土砂などの漂流物をどける作業が中心となります。土の掘削はむしろしないで、表面だけをすくいとることが求められるので難しい操作になります。また、災害現場ではがれきなどで急な角度がある場所も乗り越えていかなければなりません。こうしたトレーニングを用意しています。

急斜面での操縦を想定したトレーニングもある

――災害発生時にノーボはどのように役立つ?

災害時には地元行政のサポート役として、自治体の社会福祉協議会が「災害ボランティア」の拠点を立ち上げ、ここに住民の要望が集まります。ここから出動要請があるので、行政と担当の線引きをして災害現場に入り、復旧作業を行います。企業や団体と結んだ災害協定に基づいて、支援活動を行うこともあります。

災害時の支援イメージ

ボランティアできる重機オペレーターなどとは、SNSでつながっていて、災害現場の場所や求める作業を伝えると手を挙げていただけるので、支援にあたっていただきます。重機などは現地状況や必要な作業に応じて、リース企業から借りるなどして手配しています。


――ノーボをどのような存在にしていきたい?

被災地の皆さんは「まさか災害に遭うとは思わなかった」と話されます。防災意識が時間で薄れることを考えると、平時を楽しみながら有事に備える仕組みが必要だと思うのです。ノーボはその先駆けとなれればと考えています。この記事を見た方が些細なことでも、自分ができる備えをしていただく。それでも大きな変化につながると思います。


――防災においての今後の目標は?

全国各地にノーボの仕組みを作っていくことですね。2021年6月には、長野県と千葉県に「nuovo EX」というノーボの体験施設もオープンしました。広範囲の地震など、大規模災害が発生したときなど、復旧支援場所の拠点になれればと思います。

ノーボの体験施設「nuovo EX」

日本笑顔プロジェクトは2024年までに、ノーボを47都道府県に展開させたいという。平常時を楽しみながら、災害に備えられる。そんな場所が皆の地域にやってくるかもしれない。

(画像提供:日本笑顔プロジェクト)

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