FCバルセロナやACミランといった海外のサッカークラブがデジタル上の「トークン」を発行し、クラブ運営に活用する事例が増えている。FCバルセロナは昨年、トークン発行から2時間でおよそ1億4000万円を調達し話題となった。
今年に入り、日本でも同様の事例が増加。いったいデジタル上のトークンとはどのようなサービスなのだろうか? 実際に導入したSHIBUYA CITY FCの山内一樹代表、およびクラブトークンの領域で業界を牽引するスタートアップ、フィナンシェの田中隆一COOに話を聞いた。
――まず始めにクラブトークンとはどのようなものか、導入に至った経緯を含めて教えて頂けますか?
山内:
昨年末にフィナンシェさんと我々のスタッフがお会いする機会があり、そこでクラブトークンという仕組みを教えて頂いて、非常に可能性があるなと感じておりました。それで今シーズンが始まる春先に新規にトークン発行を行ったのです。
クラブトークンは、ファンの方に参画頂いて一緒にクラブを作っていく為の「懸け橋」のような役割を担っています。例えばSHIBUYA CITY FCではYouTuberのマキヒカさんに「SHIBUYA CITY トークンの公認サポーター」に就任頂いているのですが、マキヒカさんも出演するコラボ動画の中で、どんな企画を実施するか、トークンホルダーの方の投票で決めました。どうやったら面白いクラブになるか、皆さんと一緒になって考えています。

――SHIBUYA CITY FC とは、そもそもどんなクラブなのでしょう?
山内:
2014年に社会人サッカークラブとして立ち上げました。渋谷という街にサッカークラブが根付いた時に生まれる可能性、そこに賭けてみようという想いが強くありまして、2019年に「渋谷からJリーグを目指す」事を表明し、法人化しています。
Jリーグを目指すと言ってもピンと来ないかもしれません。例えば浦和レッズさん鹿島アントラーズさんといったチームがJ1ですね。その下にJ2、J3とあり、さらにアマチュアの全国リーグがあります。我々が現在所属する「東京都社会人サッカーリーグ1部」はJ1から数えると7部にあたります。

トークンで価値を可視化
トークンはアプリ「フィナンシェ」上で発行される。ユーザーは事前にポイントを購入し、希望のトークンを購入。J1の湘南ベルマーレやアビスパ福岡なども既にクラブトークンを発行済みだ。
――クラブトークン発行で利用するアプリ「フィナンシェ」ですが、技術的にはどのような特徴がありますか?
田中:
まず、ビットコインと同様に、ブロックチェーンという技術に下支えされているサービスです。暗号資産であるビットコインやイーサリアムのように、売ったり買ったりも出来るのですが、「コミュニティ内でお互いに価値をやり取りする為のデジタルツール」という側面の方が大きく、今後の可能性があると感じています。

――海外の事例も含めて、クラブトークン導入の現状は?
田中:
2018年頃からヨーロッパのクラブを中心にトークン発行の試みが始まっており、FCバルセロナ、ACミランといった、誰もが知るトップチームが既に導入済みです。
ちょうど今月、象徴的な出来事がありました。メッシ選手がバルセロナからパリサンジェルマンに移籍する際に、その契約金の一部をクラブトークンとして受け取ったんです(2021年8月10日)。
これまでは可視化されていなかった「ファンの力」がトークンによって価値として可視化され、選手のインセンティブにもなっている。これからサッカーチームやクラブ経営の新しい仕組みが、どんどん出てくるのではと思っています。

――バルセロナやACミランのトークンは実際にはどのように購入できるのですか?
田中:
グローバルではソシオズドットコムというサービスがあります。基本的にはオープンな仕組みですので、日本からもアプリにアクセスすればトークンを購入できます。トークンの値段は上がったり下がったりしますので、その部分は自己責任となります。
「NFT」が盛り上がる理由
――今年に入って、ブロックチェーンの分野では「NFT」というキーワードもよく目にするようになりました。
田中:
現在、SHIBUYA CITY FCさんが発行しているクラブトークンはNFTではありません。NFT(Non Fungible Token 代替不可能なトークン)とFT(Fungible Token 代替可能なトークン)がありますが、FTの方ですね。
例えば一万円は交換が可能ですので、ファンジブルです。一方で、一点物のアート作品のように置き換えが出来ないものをノンファンジブルと呼んでおり、そのユニーク性をブロックチェーン上で表現しているものがNFTとなります。
――NFTが盛り上がっている理由は?
田中:
海外の事例ですと、サッカー元ブラジル代表ロベルト・カルロス選手のフリーキックの弾道がデータ化されNFTとして流通していたり、特別な試合のゴールやその選手のスタッツ(行動履歴)など、スポーツで達成された記念となる瞬間がデジタル上で取引されていますね。アイデア次第の所がありますし、この流れは今後も続くのではないでしょうか。
――SHIBUYA CITY FCでの可能性という点ではいかがでしょうか?
山内:
ぜひ何かチャレンジをしたいです。ピッチの中でのワンシーンもそうですが、我々の場合ですと、渋谷におけるクラブのヒストリーの中で、価値として切り取ってもらえるような瞬間が出てくると思いますし、クラブ側としてもそのような価値を生み出していく努力が必要だと感じていす。
渋谷の新しい経済圏
――最後に今後の可能性についてお伺いします。渋谷 × サッカー × クラブトークン、この3つの掛け算から生まれる未来とは?

田中:
クラブとサポーターという二者間の関係だけでなく、例えばパートナー企業や地域の商店街の皆さんなども加わって、クラブトークンに新たな価値づけをする事で、新しい渋谷の経済圏といったものを、SHIBUYA CITY FCを発火点として作っていく事が出来るのではないか、と。
山内:
最終的に目指したいものはまさにそうした渋谷の街との掛け合わせです。トークンホルダーの方は、クラブもそうですが、渋谷にもエンゲージメントの高い方だと思います。トークンを持って渋谷に訪れると何か楽しい事がある、お得な事がある、もしくは渋谷でまだ行った事が無かった場所に行くきっかけになる。
サッカークラブがきっかけとなって、渋谷の街とクラブとサポーターの方、パートナーの皆様、この4者が皆で街とクラブを作っていくっていう関係性になれると、サッカークラブの定義というものが、さらに広がっていくのかなと思います。
そしてやはり、渋谷で育った選手が渋谷のクラブに所属しJリーグのピッチに立つというのが、クラブとして実現させたい夢の一つでもあります。
渋谷の一番面白い所は、本当にいろんな人たちがいて、新しいアイデアやコラボだったり価値観が生まれる事。それらが文化となって、これまで様々なアーティストやファッションブランドなどが渋谷から世界に発信していったように、我々も渋谷のサッカークラブとしてサッカーやスポーツのある日常というものを、世界に拡げて行ければと思っています。
(渋谷のラジオ「渋谷社会部」2021年8月31日放送 / 進行 : FNNプライムオンライン編集部 寺 記夫)