大規模な災害が頻発している現在の日本では、防災はもちろん、災害対応も重要な課題となっている。

被災者の捜索を迅速に進めるため、活用が期待されているのがドローンだ。高性能なカメラを搭載したドローンは、現場の状況把握に役立つ可能性が高い。

さらに、ドローンで撮影した写真をもとに、リアルタイムで被災現場の地図の作成を行う組織も出てきている。

その1つが、2021年7月に静岡県熱海市で発生した土石流災害の現場で、実際に地図を作成した中部大学発ベンチャーのテラ・ラボ。

その代表取締役である松浦孝英さんに、熱海の現場での実績やドローン活用の利点、今後の展望について聞いた。

発災後2日で作成。活用された被災現場の地図

7月4日にドローンで撮影した写真(熱海市・土石流現場俯瞰) 画像提供/テラ・ラボ
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2021年7月3日、熱海市伊豆山地区で土石流が発生する。同日夕方頃にはテラ・ラボのメンバーが事務所のある愛知県から熱海市に移動。4日の午前8時頃から現場周辺の調査を開始した。

5日早朝にドローンでの撮影、午後1時頃にはヘリのフライトも行い、午後6時頃にはドローン撮影の写真をもとに作った地図と同地区の住宅地図を重ね合わせた共通状況図を完成させ、防災科学技術研究所、自衛隊、警察、消防、報道機関などに共有した。災害発生から2日後のこと。

共通状況図ベースマップ 画像提供/テラ・ラボ

迅速に動いていたと考えられるが、松浦さんは「反省点もある」と、熱海の現場での動きを振り返る。

「被災者の捜索の肝は初動72時間といわれています。その時間を有意義に使うためには、いち早く現場に入る必要がありました。当時は交通事情により、本社を置く愛知からの移動に時間を要したため調査の初動が遅れ、発災から2日後の共通状況図公開となってしまいました。迅速な意思決定が求められる大規模災害時だからこそ、今後は遅くとも発災翌日には、共有状況図を提供できる体制を整えていく必要があると考えています」

さらなるスピード感が求められるところだが、今回の共通状況図は精度の高さが認められ、すぐに防災科学技術研究所が運営する防災クロスビューでも公開。

捜索活動が行われた熱海の土石流現場

その後も空撮による調査を続け、7月12日には熱海市災害対策本部、内閣府ISUT(災害時情報集約支援チーム)にも提供し、捜索に役立てられた。

「我々としては、被災者の救出の一助となることはもちろんですが、現地に赴く救助隊の安全性を判断する資料の1つになればと考えています。今回のような土石流の現場でまず行うことは、全体像を把握し二次災害の危険性を予測することです。そのためにも、被災前のデータと現況を比較して、危険性の高い場所を見つけることができれば、救助隊の方々も動きやすくなると思うのです」

いち早く地図の作成を進めることが、安全かつ迅速な捜索につながるといえるのだ。

高精細な写真が撮れるドローンだから実現できること

「カメラを搭載した小型ドローンの活用が進んでいるのは、これまで被災現場の空撮を担当してきたヘリコプターにいくつかの課題があったからです。その1つが高度300メートル以上で飛ばなければならず、地上に寄った写真や映像が撮れないこと。一方、ドローンの飛行は高度150メートル以内で、4Kの映像を撮れるものもあるので、より精度の高い写真や映像が残せるのです」

松浦さんによると、ヘリコプターは「振動によって映像がブレる」「雲で映像が霞むことがある」「運用コストが高い」といった課題もあるという。

「ドローンに搭載したカメラには手振れ補正のような機能がついているので、空撮データにほとんどブレがないという特徴があります。また、カメラのレンズを前後左右に動かせるので、広い範囲の撮影も可能です。コストも、ヘリコプターに比べたらかなり抑えられます」

7月5日にヘリコプターから撮影した写真(熱海市・土石流現場) 画像提供/テラ・ラボ

低コストで高精細な写真や映像が撮れるとなれば、ドローンの活用が進むのは当然といえるだろう。ただし、高く飛べないという点がネックになることもあるという。

「現場全体を俯瞰するには、高い位置から撮影しなければいけません。そのためにも、今後はまず衛星写真をもとに広域な災害情報を解析し、ヘリコプターで地域全体の情報を収集した上で、特定した被災現場にドローンを飛ばして詳細な撮影を行うというステップを踏みます。それぞれの特徴、特性を生かした情報収集が重要になると考えています」

そして、撮影した写真や映像をもとに被災現場の地図を作成して、一般公開している。

7月4日にドローンで撮影した写真(熱海市・土石流現場) 画像提供/テラ・ラボ

「4K撮影ができるドローンで撮った写真からは、地上数センチ程度のものも判別できます。また、カメラの画角は80~90度あるので、レンズを前後左右に動かせば非常に広い範囲の情報収集が行えます。これらの特徴を生かして集めた数百から数千枚の写真を解析することで、被災現場の状況を反映した1枚の地図や立体モデルの作成が可能になります。パソコン上で被災現場を再現できるのです」

精度の高い地図や立体モデルと被災前のデータを比較することで、崩壊した場所や被災した住宅、がれきが溜まっている場所などがわかるとのこと。被災者の救出を行う救助者にとって、役立つ情報といえる。こうした役目を担って、熱海市の土石流災害の現場でも、ドローンを用いた地図の作成が行われたのだ。

また、ドローン撮影による地図化は災害直後だけでなく、復興や防災にも役立つという。

「2019年に発生した台風19号によって福島県南相馬市が被災した際にも、我々は土砂災害の現場に赴き、地図化を行いました。また、被災後3カ月ごとに現場の計測を行い、土砂災害が広がる危険性を追う取り組みも進めました。定期的に計測したデータから崩壊の具合や二次災害の危険度などが見えてくるため、非常に有効なデータといえます。近年は地域の3Dモデルなど過去のデータを公開している自治体も増えたので、被災前との比較も行いやすくなっています」

車両型地上支援システム搭載のワークステーション 画像提供/テラ・ラボ

ちなみに、テラ・ラボでは地図の作成作業を愛知県と福島県に設置したワークステーションで行っているとのこと。撮影したデータは高速通信回線で飛ばし、被災地では撮影だけを行う。熱海の現場も約400キロ離れた福島県相馬市に設置している車両型地上支援システム(中継車)搭載のワークステーションで解析が行われた。

「被災地では電気が通らなくなったり、通信が途絶えたりといった状況も想定されるので、すべての作業をその場で行うのは現実的ではありません。データさえ取れれば解析はどこでもできるので、本当にその場でないとできないことかという判断も重要だと考えています」

デジタル化された地図データが活用されにくい現状

熱海の現場でのドローン撮影 画像提供/テラ・ラボ

熱海市のケースでも実際に災害対策本部で活用されたことから、ドローンを活用した地図の作成は今後導入されていきそうだが、「大きな課題がある」と松浦さんは話す。

「現在の日本の災害対策現場で最先端技術がすぐに使えるかというと、難しい部分があります。なぜかというと、災害対策本部に集まる情報の報告様式は文字データで、デジタル化されていないものだからです。災害対策本部には、パソコンではなくホワイトボードが並べられている。デジタル化された地図データは、報告で使える様式ではないということになってしまうのです」

熱海市の土石流災害の現場の共通状況図が7月5日に公開されたものの、災害対策本部に提供されたのは12日。このタイムラグも、現在の仕組みが影響していると考えられる。

7月12日版の共通状況図には住宅がどこに建っていたか印が付けられている 画像提供/テラ・ラボ

「これまで地図データを活用する前提がなかったので、自治体が保有している住宅地図や道路データ、地下水道の位置などのデータも様式がバラバラで、統合されていない現状もあります。先進的な自治体では、あらゆる地図データを集約する『町内GIS(地理情報システム)』という取り組みを進めようとしているので、今後は地図データの有効性も見直されるでしょう。また、デジタル化されたデータが増えれば、共通状況図を作りやすくなるというメリットもあります」

そして、テラ・ラボをはじめとしたドローン撮影を活用した地図作成を行う組織の技術が上がり、素早い地図化が実現すれば、災害対策現場も変わっていくことが期待される。

「発災から1時間後には地図化できるようなシステムができれば、捜索で活用されることは必須と考えられるので、災害対策本部の報告様式が大幅に変わるだろうと予想しています。そうなるためにも、今回の熱海の取り組みを振り返り、作業を前倒しできるように進めていきたいですし、国や自治体にもデジタル化に向けての備えを始めてほしいです」

そして、ドローン活用を検討している自治体にとっても、1つの注意点が挙げられるという。

「ドローンで被災現場の空撮を行う組織はたくさんあるのですが、そこから地図化する組織は多くはありません。そこを見極めて、被災状況を地図に落とし込むスキルのある組織をいち早く現場に投入することが、今後の災害対策では重要になると考えられます」

取材・文=有竹亮介(verb)