ダサいんだよね~
「わかります!」

「イチロー的に言うと‘ルーティン’ですね」
「儀式だよね」
「イチローにルーティン止めさせたら打てなくなっちゃうかもしれないよね」

さてこれは、先日行われたフジテレビのトークイベント『フューチャートーク福祉の未来を描く~知的障がい者の経済的自立~』で、パネリストの皆さんから飛び出した発言の数々です。
私は進行を務めさせていただきましたが、タイトルをご覧いただいても分かるようにとても真面目で、どちらかとういと深刻なトークになるかと覚悟し臨んだのですが・・・え?え?え~?そんなことまで言っちゃっていいの?!と、内心ドキドキしながらの展開に。

しかしパネリストの皆さんは私の小心なんて笑い飛ばすほどの明るさで、予定時間を大幅に延長して大いに盛り上がったのでした(下に控えていたフロアディレクターがぶんぶん腕を回して「次のテーマへ進んでください」を連発していましたが⦅笑⦆)。

そのトークをほんの少しご紹介させていただきます。

パネリストはこちらのお三方。

佐藤典雅さんは知的・発達障がいのある子供たちの放課後デイサービス「I’m(アイム)」を経営。療育プログラムなしのデイサービスが特徴です。重度の自閉症のご子息に合う施設がなかったので自ら作ったのが「I’m」とのこと。冒頭の「ダサい」は佐藤さんのご発言。お話を聞くと‘療育’の現状が見えてきました。ちなみにヤフージャパンでマーケティング、その後東京ガールズコレクションの運営などにも関わったあと、福祉の世界へ。

この記事の画像(11枚)

那部智史さんは、胡蝶蘭栽培で知的障がい者の経済的自立を目指すNPO法人「Alon Alon(アロンアロン)」理事長。同じくご子息に重度の障がいがあったことからこの世界へ入られたそうです。那部さんはAlon Alonを作る前、他の会社を興して10年で取扱高400億円の会社に成長させた超敏腕経営者です。

障がい者の工賃の月額平均は約1万6千円。就職率はなんと1%。そんなので経済的自立なんてできないでしょ、と。確かに。その理由は制度に問題があるとみています。障がい者も稼げるようにする、を実践していらっしゃいます。

そしてソーシャルワークをご専門とする武蔵野大学社会福祉学科教授の木下大生さん。社会学の見地から障がい者福祉の未来についてお話を伺いました。

そんな木下さんが「イチロー」のルーティンに例えたのは、知的障がい者のいわゆる「常同行動(同じ動きを繰り返す行動)」。あまりポジティブに捉えられることがないこの行動ですが、人によっては、作業等の前に決まった行動を行うことで気持ちが落ち着き、より集中できることもあるそうです。「いかに減らすか」ではなく、言ってみればイチローさんが打席に入る前に行うルーティンと同じように捉えれば、と提言してくださいました。

実は白状しますと、そもそも私自身、知的障がい者に関する仕事をしたことがなく、障がいのある方のご家族とどのように話を進めればいいのかもわかりませんでした。ですからそれなりに緊張してこのトークイベントを迎えました。

知的障がいのある方、またはそのご家族などが大変なご苦労をされていることはもちろん理解できるのですが、それゆえにこのようなデリケートなことに無知な私がどこまで踏み込んでいいのか迷うところでした。

そんな気持ちを佐藤さん、那部さんは「あー、わかりますよ」とニコニコと受け止めてくれます。

佐藤さん:
「接していないと分からないですよね。身体的障がいは見た目で分かりやすいのですが、知的障がいは、見た目は普通で、多分、ここが障がいとして理解されにくいところです。ですから、私はなるべく『I‘m』に人を呼ぶようにしています。直に接して、見てもらいたい。」

那部さんは、私見ですが、とおっしゃりつつも、踏み込んで発言してくださいました。

那部さん:
「この世は健常者が、自分たちの住みやすい世の中にしちゃってると思います。しかし障がい者は‘治る’わけではないので、この人たちの存在そのものを健常者に近づけていくって言うのは間違っていて、健常者が障がい者にとって住みやすい環境を作るのは義務だと思いますね」

お二人とも、知的障がい者を受け容れていこうという今の社会の機運は感じているといいます。

佐藤さん:
「身体障がい者への理解について日本は成熟してきました。今後は見えにくい障がい(知的・精神障がい)に対してどうしていくのかがテーマになると思います」

超前向き、時々爆笑

障がい者との距離感…

私も知的障がいのある方に少し距離を感じていたのですが、直に知ってほしいと思われている方も多いと知り、なんだか嬉しく、是非そうしたいという気持ちになりました。

それにしても那部さんの「障がい者が治るわけではないので、健常者に近づけていくのが誤り」という発言は、今回のセッションでの肝でもありました。私も障がいが「治る」とは思ってはいませんでしたが、「社会に適応していけるような教育?や訓練?をされているのでは」という印象でしたが・・・。

佐藤さん:
治そうとすると破綻するんです。療育ってあってもいいけど、日本人はマニュアル信仰が強いから。アンチテーゼです。だって多動の障がい者の小学校1年生に豆を摘まむような訓練を、泣いてでもやらせている。僕に言わせればWiiやってれば座ってるし、パソコンで指の訓練になるじゃんって思ってる。高校生くらいになれば座ってるよ(笑)療育は要らないって僕が言うのもそこです。」

佐藤さんが経営する放課後デイサービス「I'm」

木下さん:
「療育には社会的に見て好ましくない振る舞いをどう減らすかという側面があるのは確かですよね」

佐藤さん:
「でもそれって‘しつけ’の部分ですよね」

木下さん:
「わざわざ療育という言葉を持って来てやる必要はないというお考えですね」

那部さん:
「親は多分安心のよりどころが欲しいんです。今、自分の子供は25歳なんですが、彼がまだ小さいとき周りの子供と比べてどんどん発達が遅くなっていく我が子を、親である自分自身が比べてしまって焦っていました。」

子供の発達が遅れ、療育プログラムを思うようにできない時、親は子供を責めてしまうこともあると木下さんは指摘します。佐藤さんは笑いながら、そんな時はママ友とのランチやめたらいいとおっしゃいます。数年先がよくわかっている先輩ママたちのアドバイスを聞くようにと。

自閉症のガク君、個性ではなく特性

佐藤さんの息子さん(ガク君)は1分も同じ場所に座っていられないほどでした。それが、ある日、岡本太郎美術館に行って同じ絵の前で5分もじっと立っていたということです。それから猛烈に絵を描き始め、今ではNYで個展を開いたり、アパレルメーカーとも仕事をしたりするまでになりました。

島田アナもほれ込んだガク君の絵

佐藤さん:
「自閉症は個性ではなく、特性だと思っています。自閉症の子は明らかに第六感が豊かな子が多い。それを療育で‘治そう’っていうのがおせっかい。その子の特性をつぶさないようにすることが大切だと思うんです」

イチローのルーティンに例えた常同行動を「いい特性」として生かそうとしたことで、ガクくんは絵という言葉を見つけることができたのですね。ガク君の絵、とっても可愛いくて私も部屋に飾りたくなってしまいました!

ビジネスの観点だと「税金の無駄使い」

那部さんは前述したようにビジネスで成功された方。障がいのある息子さんがいるので福祉がどうなっているか調べてみて、びっくりされたそうです。

就労継続支援B型事業所という作業所は全国に1万1千か所あり、当時30万人の障がい者が働いていて、平均月額工賃は1万5千円ほど。計算すると日本中の工賃は年間540億円。片やこの制度のために使われる国家予算は4千億円。「これって、税金の無駄遣いでしょ。福祉の人たちに怒られちゃいますけど」と那部さん。

そして就職率1%にも注目。「本当に就職できない人たちなのか」と調べたら違っていたといいます。

那部さん:
「B型事業所は利用している障がい者の人数で事業者の報酬が決まる。だから利用者が就職して人数が減ってしまうと困るわけですよ」

那部さん:
「テーブル1つをみんなで囲んで内職しているんです。シャーペンの組み立てとか、割り箸の袋詰めとか。延々とやっている」

この作業、10本やっても1円にもならないとか。

佐藤さん:
「戦後の焼け野原でやってるのか、君たちは、みたいな」

・・・確かに・・・。

そこで那部さん、障がいのある方でも稼げるにはと考え、まず設備投資から始めたそうです。
それが胡蝶蘭農園です。過去のビジネスで、事業所を移転するたびに贈られてくる胡蝶蘭にヒントを得て、値崩れしないマーケットと踏みました。すごいアイデアです。テクノロジーをふんだんに導入し、センサーで管理しています。

AlonAlon OrchidGarden

那部さん:
「今、工賃は最高で10万円。入ったばかりの新人くんでも最低5万円

すごい!と、ほかのお二人からも感嘆の声。木下さんはソーシャルワーカーを育成するお立場から「耳が痛い」と反省されます。「今ある生活課題をどう分析するかということには力を入れているが、ビジネスという感覚はゼロです」と。

Alon Alonでは単年度で100%、オープンから4年間のトータルで50%の就職率も達成したとのこと。1年前に入ったこちらの男性は今年ビズリーチに就職。休日には乗馬など、プライベートも充実しているのだとか。

休日は乗馬でリフレッシュ

経営者として那部さんが明確におっしゃった言葉が心に残りました。

那部さん:
「お金は人を幸せにするものではないと思います。でもお金が無い人は100%不幸になると思います。得ることができるなら、生活を充実させてあげたい」

誰一人取り残さない共生社会のために

今回のトークイベント、当事者だからこそのざっくばらんな意見が次々に飛び出しました。現在の日本の知的障がい者が置かれている経済的自立についての課題を考えることは、「誰一人取り残さない」というSDGsの理念を考えることでもあると思います。

多くの障がいのある方々が、一日1000円にも満たない低い賃金で「儲かりようのない」仕事を余儀なくされていること―――恥ずかしながら私は知らな過ぎでした。そして「もっと知りたい、いえ、知らなくては」と今回、思いました。

佐藤さんも那部さんも、現状に問題があるのは福祉の現場で働かれている皆さんのせいではなく、やり方の問題だと指摘しています。

「制度はある。中身をどうする!」という、そんな超前向きな(時々爆笑の)トークセッション、拙い私の文章では書ききれないことがいっぱいです。

同じ日本に生活しているわたしたち。健常者も障がい者も、どうしたら共生社会を実現できるのか。ぜひ動画でご覧ください!きっと、もっと知りたいと思っていただけると思います。

(関連記事:「この子はどうなるの?」障がい者が胡蝶蘭で親亡き後も自立できる社会を…

(関連記事:“療育”ではなく“好き”を伸ばす!発達障害の子どもたちの背中を押す放課後デイサービス

【動画:THE ODAIBA 2021:未来を変えるFUTURE TALK-フジテレビ

【執筆:フジテレビ アナウンサー 島田彩夏】