連日熱戦が続く東京オリンピック。世界中のアスリートやメディア関係者からはコロナ禍で奮闘する大会関係者への感謝や賛辞が寄せられているが、お隣韓国では相変わらず言いがかりのような報道が続いている。

その中で、異色といえるコラムが、韓国の大手紙「中央日報」に掲載された。放射能問題で日本を揶揄する韓国側の姿勢を批判する内容だが、さらに取材を進めると日韓の根深い価値観の違いが見えてきた。

食材の放射線測定をしたのは韓国だけ

韓国が運営する給食支援センターでは日本産食材に放射線測定器をかざす「検査」が行われている
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東京オリンピックを巡る日韓の火種の一つになっているのが、韓国のオリンピック委員会に当たる大韓体育会が選手村近郊に設置した給食支援センターだ。1日400個ほどの弁当を作って選手に支給しているが、日本産の食材を使う際にはこれ見よがしに放射線測定器を使い、韓国メディアがこぞって「福島産を避けるため」と報じている。放射能問題で苦しむ被災地、引いては日本の復興努力そのものを踏みにじるような行為であり、日本政府は韓国政府に対応を要請した。

要請に先立ち、韓国の黄熙(ファン・ヒ)文化体育観光相は「韓国政府は福島産食材を避けるような指示はしていない」と説明し、日本側の批判に「誤解だ」と否定している。韓国メディアも「アメリカも独自に選手に食糧を提供している」「アメリカには何も言わずに韓国にだけ文句を言うのはダブルスタンダードだ」などと逆に批判の声をあげた。

8月5日、こうした韓国側の姿勢とは一線を画すコラムが中央日報に掲載された。

執筆者は元中央日報東京総局長で、日本の討論番組にも出演した事のある「日本通」のキム・ヒョンギ氏だ。コラムでは「韓国の給食支援センターは福島と周辺8県の食材を排除し、他の日本産食材も放射線測定器で検査をした。韓国が唯一だった。さらにそうした事実を『自慢』のように全世界に広く知らしめた。大韓体育会は出国前の会見で憚ること無くそのように意味を付与した。科学的根拠の提示は無かった」と指摘。その上で「日本国民はそんな韓国を思い切りが良いとうらやむだろうか、(東京五輪に)水を差したと考えるだろうか」と問いかけた。そして「給食支援センターが本当に必要だったなら設置した上で、『世界がひとつになる』という五輪精神を考えてでもアメリカのように、ただ『コンディション維持のための献立調節』とクールに話せば良かった」と、大韓体育会や韓国メディアの姿勢を批判したのだ。

韓国のダブルスタンダード

キム氏はさらに、「韓国にだけ文句を言うのはダブルスタンダード」と書いた韓国メディアも痛烈に批判した。韓国のテレビ局MBCは、サッカー男子グループステージの韓国対ルーマニア戦で、マリウス・マリン選手がオウンゴールしたことについて、「ありがとうマリン」とのテロップを流し、韓国世論の集中砲火を浴びている。相手への敬意を欠いているというのが理由だ。だがキム氏は2008年北京オリンピックでのあるエピソードを紹介し、韓国メディアのダブルスタンダードを痛烈に皮肉ったのだ。

北京オリンピックの野球準決勝は日韓戦だった。故星野仙一監督率いる日本は奮闘したが、6対2で韓国に敗れ4位に終わった。この韓国戦に左翼手として出場し、勝負の分かれ目となった失策を犯したのがG.G.佐藤選手だった。この失策により、佐藤選手が激しいバッシングを受けた事を憶えている人も多いだろう。この佐藤選手の失策について、韓国のテレビ局は当時「ありがとう佐藤!」と実況したのだ。

東京オリンピックでの「ありがとうマリン」と全く同じ構図だが、コラムによると日韓戦の「ありがとう佐藤」は「名解説」として韓国で持て囃されているという。確かに当時の記事を調べてみると、「メディアが選ぶ名実況」という企画のベスト5に入っていた。キム氏は「嘲弄の表現も日本がその対象になれば『名解説』になる。まさにこういうものを私たちはダブルスタンダードと呼ばなければならない」と批判している。

韓国紙記者「韓国チームで『ありがとう』と言いたいのは誰?」

この記事を書くにあたり、G.G.佐藤さんの写真を使用したいと思い連絡を取ったところ、仰天する話が出てきた。8月4日、東京オリンピックの野球準決勝で日本が韓国を破ったあと、ある大手韓国紙がG.G.佐藤さんを取材しに来たという。

準決勝で韓国と対戦した野球の侍ジャパン。同点の8回、2アウト満塁のチャンスで山田哲人選手が左中間に勝ち越しタイムリー

韓国紙の記者は、「韓国で佐藤さんはイチローさんよりも有名ですよ」と、皮肉とも取れる挨拶のあと、こう質問したという。

「韓国チームは日本に負けてしまいましたが、韓国チームのメンバーで『ありがとう●●』と言いたい選手は誰ですか?」

佐藤さんは、韓国で「ありがとう佐藤」と報じられた事を知っていた。その場に居合わせたマネージャーによると、佐藤さんはあまりの質問に驚きつつも「日本にはそのような(敗者を嘲笑するような)文化はありませんので、答えられません。出場を辞退する国もあるなかで、東京オリンピックに参加してくれた韓国には感謝したいです」と回答したという。韓国紙の記者は不思議そうな様子だったそうだ。なぜ答えないのか、理解出来なかったのだろう。

ルーマニア選手に関する侮辱騒動があった直後に、大手紙の記者がこのような質問をするというのは驚きだ。このエピソードから見えてくるのは、根深い日韓の価値観の違いであり、「日本相手なら何でもアリ」という韓国の“常識”だ。「ありがとう佐藤」実況への称賛と合わせて考えると、日本と韓国が相対する時には侮辱でも何でもアリという“常識”は変わっていないのだろう。

オリンピックは平和の祭典であるはずだ。日韓を巡っては、柔道男子100キロ級決勝で、ウルフ・アロン選手に敗れた韓国のチョ・グハム選手が、ウルフ選手の手を掲げて称え、潔く負けを認めたシーンが韓国で称賛されている。だが日韓をめぐる良いエピソードはそれくらいで、放射能問題など韓国側の様々な振る舞いにより、むしろ日韓の乖離は広がっているように見える。

なお、前述のキム氏のコラムには「正しい指摘」「両国は未来志向的関係を築かなければいけない」というコメントも少数寄せられているが、「日本で被爆して脳がおかしくなったからこんな記事を書くのだ」などの罵詈雑言が多数寄せられている。

【執筆:FNNソウル支局長 渡邊康弘】