住み慣れた自宅で過ごしたいという高齢の患者の希望に応える在宅診療所が、岩手県一関市に開設された。元プロボクサーという異色の医師が奮闘している。

大学在学中にボクサーとしてプロデビュー

7月7日、87歳の女性が住む一関市内の家を医師や看護師が訪ねた。

川島実さん(46)は、4月に一関に開設された「やまと在宅診療所」で院長を務めている。

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やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
患者さんに家にいてもらって、そこを個別に回るのは、まさにステイホーム時代の業務形態かなと

やまと在宅診療所は、宮城県登米市に本部を持つ医療法人社団が運営していて、一関が6カ所目の拠点となる。常勤の医師は川島さんを含め2人。ほかに非常勤の医師もいて、24時間体制で在宅診療にあたる。

現在46歳の川島さんは、かつてプロボクサーだったという異色の経歴の持ち主だ。

川島さんは奈良県出身で、京都大学医学部在学中にボクサーとしてプロデビュー。2000年には西日本新人王にも輝いた。

プロボクサーとして活躍した川島実医師
プロボクサーとして活躍した川島実医師

やまと在宅診療所 一関 川島実院長(当時のインタビュー):
京大医学部ってすごいじゃないですか。僕には、入ることには意味があったけど、入ってからのビジョンがなくて。いろいろやってみたけど、ボクシングが一番面白かった

「震災復興は10年で終わるものではない」と岩手へ

29歳で引退したあと、医師として和歌山や山形などで働いていたが、転機となったのが東日本大震災だった。

津波で被災し、医師が不在となった宮城県気仙沼市の病院で院長を引き受けた。

気仙沼でも在宅診療に力を入れていた川島さん。2014年に奈良に戻ったあとは、フリーの医師として全国を渡り歩いたが、気仙沼時代の知り合いが始めた在宅診療所で、共に働きたいと岩手にやってきた。

フリーの医師として全国を回ったあと岩手へ
フリーの医師として全国を回ったあと岩手へ

やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
宮城や岩手に関わるようになったきっかけは、やっぱり震災なので。復興というのは、5年とか10年で終わるものではないと思うので

やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
(岩手でも)在宅診療の提供者として、地域に求められているというか、待たれていたような実感はあります

震災で被災した病院付近(宮城・気仙沼市 2011年)
震災で被災した病院付近(宮城・気仙沼市 2011年)

患者との会話を重視し、あらゆる症状に対応

一関での診療所開設から3カ月。川島さんは現在、40人ほどの患者を診ている。

新型コロワクチン接種のため、患者宅を訪問する川島院長と看護師
新型コロワクチン接種のため、患者宅を訪問する川島院長と看護師

7月2日、川島さんは83歳の女性の自宅を訪ね、新型コロナウイルスのワクチンの接種を行った。

やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
2回目の方が、1回目より具合悪くなる人が多いみたいです。でも免疫がつく正しい反応なので、2~3日様子を見てください

川島さんは、あらゆる症状に対応する「総合診療医」だ。会話を重視していて、生い立ちや家庭環境などを深く知るよう心がけている。

「大事な情報交換」と語る川島実医師
「大事な情報交換」と語る川島実医師

やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
この患者さんが、どんな暮らしをしているのか分からないと、自分が何を求められているか分からないので。雑談に聞こえるかもしれないけど、大事な情報交換だと思っています

石川キクさん(83):
ワクチン接種も本当に早く(家に)いながらにしていただいたし、助かっている。安心して診ていただいています

広い一関市内をくまなくまわる日々。ランチはコンビニで済ませることも少なくない。

やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
どこにコンビニがあるか、結構重要です。これはキャベツです。普段肉ばかり食べているので、中和しないと

続いて川島さんが訪ねたのは、93歳の女性の自宅だった。

やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
背中が痛くて、ご飯が食べきれないところもあるかもしれないですね

山口マシコさんの介護にあたるのは、ともに持病がある70歳の息子と68歳の妻。いわゆる“老老介護”を続けてきた2人にとっても、川島さんは大きな存在だ。

山口洋子さん(68):
車いすだから車で(病院)に連れていくのも大変だし、乗せたり降ろしたり。病院に行けば(時間が)長いしね

――気持ちは違いますか?

山口マシコさんの息子・山口正行さん(70):
違います。本当に楽になって、うれしい限りです

「川島さんは大きな存在」という男性
「川島さんは大きな存在」という男性

「在宅診療をもっと身近に」

医療もボクシングも、人に元気になってもらうという意味では同じだと川島さんは語る。

やまと在宅診療所 一関 川島実院長:
社会に出た時がプロボクサーだったので、患者さんにはすっきりしてもらいたい。笑顔になってもらったらうれしいな。街でお年寄りとか、障害のある人が暮らし続けられる、生活を支えるような仕事がしたい

高齢化が進む街で、在宅診療をもっと身近に感じてもらいたい。
異色の医師の新たな挑戦が始まっている。

(岩手めんこいテレビ)

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