常夏の島・ハワイは記録的な旅行ブームに沸いていた
7月6日、レストランも高級ブランド店も、どこへ行っても大行列。観光の中心、ワイキキビーチは午後にもなると歩く隙間もないほど人でいっぱいで、子供たちのはしゃぐ声が響いている。まるで新型コロナウイルスなどなかったかのよう。それが今のハワイの光景だ。
感染拡大後の2020年5月には訪問者が前年比99%減と壊滅的だった観光地ハワイ。それが2021年5月には60万人以上が訪れるまでに回復。そのほぼ全てがアメリカ国内からの観光客だ。決め手となったのは、やはりワクチンだった。
この記事の画像(25枚)“ワクチンパスポート”でより身近になったハワイ
ハワイに行くにはこれまで、出発前72時間以内に受けた陰性の検査結果を提出するか、到着後に10日間の隔離が必要だった。私が今回、現地入りする際には、出発地のロサンゼルス空港の検査場で、予約をしていたのにも関わらず1時間以上並んだ上、費用も100ドル以上かかり、手軽とは言い難いものだった。
しかしその後7月8日から、アメリカ国内からの訪問者は、ワクチン接種を終えていれば検査も隔離も不要になった。このいわゆる“ワクチンパスポート”の導入で、今後益々、国内からの旅行者増加が予想される。
観光客が増えすぎてレンタカー料金が倍以上に
観光客の急増で慌てたのがレンタカー業界だ。ハワイのレンタカー各社は観光客がほとんどいなかった2020年、車を売却したり、保管場所に困ってアメリカ本土へ送ってしまったりしたという。そこへ一気に観光客が戻ってきたため在庫が足りず、予約が取りづらいうえに値段も高騰。
7月になって状況は改善傾向だがそれでも、取材したレンタカー業者では通常の倍以上の値段となっていて、借りるのを諦めてとぼとぼと去っていく観光客の姿があった。
「レンタカーがない?それならウチの車をお貸しします!」
そこで今、観光客に大人気なのが「カーシェアリングアプリ」だ。私も以前、日本のカーシェアをよく利用していたが、それは大手レンタカー会社の駐車場にある車を予約して使うタイプだった。しかし、今ハワイで流行っているのは一言でいえば「他人の家の車を借りる」サービスだ。
地元の住民で「しばらく出張に行くから自分の車は使わない」とか「2台あって1台はあまり使わないから」などの事情があれば、このサービスに「車の貸し手」として登録。ハワイに来る旅行者は、使いたい日時や車種などから好きな車を探して予約する。あとは両者の都合のいい場所で車を受け渡すだけ。日本でも利用者の多い民泊仲介サイトの「車版」といったところだ。
ハワイ在住の希代江プロットさんも、2021年5月からこのサービスに車の貸し手として登録したところ、予約が殺到し、家には常に車がない状態だと話す。
アプリで自分の車を貸し出しているハワイ在住・希代江プロットさん:
「車を買い替えた時にディーラーに勧められて始めました。『こんな面白いものがありますよ』って。車の支払いの足しになるなら、と気軽な感じで始めてみたらすごく予約が入るようになったんです。7月まではほぼ毎日家に車がない状態です。幸い家の近くにスーパーもあるし車がなくても生活に問題はありませんでした」
取材した日も、予約した利用者が泊まるホテルの玄関まで車を持って行き、その場で受け渡していた。
アプリを使って車を借りた観光客:
「ハワイはレンタカーが高いし『いい方法があるよ』って友人に勧められたので使ってみました。手続きもすごく簡単だしとても便利ですね」
値段は大手レンタカー会社より安く設定することで利用者からは大好評。保険もアプリを通じて加入するため安心ということだが、自分の車を見知らぬ人に貸すことに抵抗はないのだろうか。
アプリで自分の車を貸し出しているハワイ在住・希代江プロットさん:
「最初は抵抗もありましたよ。車の扱いが雑だったら嫌だなって。確かに車内がきれいな状態で返ってくることは少ないので掃除も必要です(笑)。でもそこは割り切ってやっています。観光バブルは今だけかなと思いますし、需要があるうちは。あとは楽しい旅行の思い出作りのお手伝いが出来ればいいかなと思っています」
「頑張れハワイ!」 5ドルのチラシ寿司で地元客の心をつかんだ老舗寿司店
観光客の増加によってどこの飲食店も大賑わいで、繁華街ではコーヒーショップやコンビニエンスストアまで大行列だった。高級ホテルの中に店を構える寿司店を訪れてみると、ここも満席となっていて、既に数カ月先まで予約がいっぱいだという。
元々、東京・四谷で人気を博したこの店では、ハワイ出店後も客のほとんどが日本から来る人たちで、予約の取れない名店として知られていた。しかし、感染拡大で日本からの客は完全に途絶え、窮地に立たされてしまったという。
すし匠 中澤圭二さん:
「今はどこの飲食店もお客さんでいっぱいなんですが、去年のことを忘れてはいけないんです。日本の人がいないハワイは初めてでした。本当にどこからも来なかったんですから・・」
店を閉めることも覚悟したと話す中澤さん。改めて感じたのは「地元客の大切さ」だったという。通常1人300ドルからのお任せでやっているこの店ではコロナ禍で初めて、価格を抑えた持ち帰りの営業を始めた。
さらに地元の人たちに喜んでもらいたいと「頑張れハワイ バラちらし」という限定メニューを5ドルで提供したことも好評で、何とかここまで乗り切ってこられたと振り返る。
すし匠 中澤圭二さん:
「勉強になりましたね・・。すごくありがたいです。職人でいられる意味を考えるチャンスを頂いたと思っています。ハワイでやる以上は地元の人ともきちっと向き合うのを忘れてはいけない。江戸前という技法をアメリカの人たちに伝えるのが私の使命ですから、今のバブル的なものに流されないように、我々もパワーアップしてお客さんに喜んでもらう仕事をしないといけないなと思います」
「ハワイの準備は整った」 日本人カップルを待つウェディング業界は今
私は数年前、友人の結婚式でハワイを訪れたことがある。美しい海をバックにした非日常の空間で、家族や少人数の友人たちと祝うハワイ挙式は忘れられない素晴らしい思い出となっている。取材した日は、カリフォルニア州から来たカップルがダイヤモンドヘッドをバックに式を挙げていた。しかし、以前は1日に何組も目にした日本人カップルの姿はなかった。
「17カ月仕事が出来ていないんですよ」と苦笑いを浮かべたのはハワイ在住ウェディングプランナーのコマコ・ロペスさん。完全オーダーメードの邸宅ウェディングを手掛け、コロナ前には年間10組ほどの日本人カップルの挙式をプロデュースしてきた。
しかし、2020年2月の挙式を最後にハワイはロックダウンへ突入。その時点で9組の予約が入っていたが一旦全て白紙に。その後何度も延期を繰り返し、現在ほとんどのカップルが2022年の挙式に望みを託している。
カマアオレウェディング コマコ・ロペスさん:
「本当に厳しかったですね・・。日本からの問い合わせが全く来なくなったから『私のメールアドレスが間違ってるんじゃないか』、『ホームページの不具合なんじゃないか』と疑ったくらいです」
ハワイの多くの同業者が日本へ帰国してしまう中、コマコ・ロペスさんは国からの支援金や地元の人たちからのサポートを受け、踏みとどまることが出来たという。
ハワイ観光が復活しつつある今、取り組んでいるのは、日本人観光客にも人気の飲食店とタッグを組んだ「コロナ後の新しい料理」の開発だ。これまで手掛けた結婚式では費用の問題もあってビュッフェ形式の食事が主流だったが、今後は衛生面などに配慮して、一人一皿の料理を提供しようと考えている。
料理の開発を手掛けるディーン&デルーカ ハワイ 高橋陽平社長:
「お皿を額縁に見立てた絵画のような料理を考えています。人の往来が少ない形で衛生面に配慮し、なおかつ見ても食べても楽しめるしムダも出ない、未来を見据えた素敵な形だと思います」
カマアオレウェディング コマコ・ロペスさん:
「この料理が提供できるのはいつになるかまだはっきり分かりませんが、早く日本人カップルの方に楽しんでもらいたいですね。ハワイはもう環境が整いつつあるので、あとは日本側の状況が良くなるのを待っています」
新型コロナがハワイ観光に与えた影響は大きい。閉店してしまった店、たたんでしまったビジネスも少なくない。しかし今、確実に息を吹き返している。私が泊まったホテルの日本人スタッフの方は最高の笑顔でこう言った。「コロナ後に日本人のお客さんに会ったのは初めてです。嬉しいです!」
日本からの訪問者を、ハワイは待っている。
【執筆:FNNロサンゼルス支局長 益野智行】