戸建であれマンションであれ、できるだけ避けたいご近所トラブル。その原因の1つとなる「騒音」は、住宅の性能や生活の工夫で軽減できるもの。これからマイホームを購入する予定のある人は、遮音性能に関しても気を配るといい。

では、どのような住宅が遮音性に優れているのか。『マンションの「音のトラブル」を解決する本』(あさ出版)の著者である一級建築士・井上勝夫さんに家を建てる時・選ぶ時にチェックするべき項目について教えてもらった。

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戸建の騒音トラブル防止のカギは「窓」と「室外機」

「戸建では、隣の家の音が聞こえてきてしまうという問題は結構あります。その多くが、空気を振動させて伝わる『空気音』が原因になっていると考えられます。例えば、隣の家のカラオケの音やエアコンの室外機の音、車の走行音などです」

空気音による騒音トラブルは外壁、特に窓や換気口といった開口部が関係しているそう。

「窓、換気口といった開口部の大きさや位置は、住宅の遮音性能に大きく影響します。窓が大きいほど、家から漏れる音も、家に入ってくる音も大きくなります。つまり、隣の家に面する壁に大きな窓を設置すると、お隣さんに音が漏れやすくなるのです」

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騒音の加害者にならないためには、隣家に面していない壁に掃き出し窓を設置することが音の漏れを防ぐことにつながる。一方で、騒音の被害者にならないための工夫も必要になる。

「道路に面した壁に大きな窓をつけると、夜中でも車の走行音が家の中に響いてしまうことがあります。その対策としては、窓の位置を変えるか、窓そのものを工夫しましょう。最近はサッシの召し合わせの隙間を極限まで減らして気密性を高め、遮音性能を向上させた窓があります。製品によって遮音性能が大きく異なるので、注意して選びましょう。住み始めてから騒音に気づいた場合は、二重窓にするのもいいでしょう。インナーサッシは後からでも簡単に設置できて、遮音性能が高まります」

二重窓にする場合は、2つの窓の間を10~15cmほど開けることで、遮音性能が上がるとのこと。間が数cm程度だと、かえって性能が落ちてしまうこともあるという。

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「もう1つ、戸建の騒音対策で注意したいものが、エアコンの室外機。環境省が定める環境基準では、騒音に係る基準があり、敷地境界線上で守るべき音の大きさが定められています。一般的な住宅地であれば、下表の『A及びB』に該当するでしょう。室外機を隣家に近い場所に設置すると、この基準を超えてしまう場合があるのです」

「隣の家に面する場所にしか室外機を置けないのであれば、防音塀を設置したり防音用のボックスを被せたりするなどの工夫が必要です。ただ、物理的に遮音すると放熱しにくくなり、エアコンの性能が落ちることがあるので、メーカーや家電量販店に相談しながら、対策法を決めましょう」

共同住宅を選ぶ時には「住宅性能表示制度」を参考に

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「マンションや団地などの共同住宅を買ったり借りたりする場合や、建売住宅や中古住宅を買う場合は、国土交通省が定める『住宅性能表示制度』が参考になります。この中には『遮音対策(音環境)』という項目があり、床や壁、窓の遮音性に関する評価が等級で示されているのです」

等級の数字が大きいほど、遮音性が優れていると判断できる。ただし、「住宅性能表示制度」を取り入れていない住宅メーカーもあるそう。

「残念ながら住宅性能表示は義務ではないので、表示を行っていない共同住宅はたくさんあります。もし表示がない場合は、モデルルームなどで『住宅性能表示制度』の基準に即した質問をしてみるといいでしょう。音に関して聞くべきは、以下の2点です」

●モデルルームで聞いた方がいいこと
(1)隣戸との壁(界壁)の厚さ、または遮音性能
(2)上下階の境のコンクリートの厚さ(スラブ厚)、または床衝撃音遮音性能(重量床衝撃音・軽量床衝撃音の両方)

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「壁の厚さは、隣の住戸の話し声やテレビの音と関係します。一般的に、隣戸からの音が気にならない壁の厚さは通常のコンクリートで180mm以上といわれていますが、高層の建物の上階になると、軽量化のために壁自体は薄く作られ、壁体の中間に空気層を挟む構造にして遮音性能を向上させていることがあります。単純に厚さだけでは判断できないので、建築基準法などに基づいて質問してみましょう」

建築に関する知識がなくても、「建築基準法の値をどれほど上回っていますか?」「国土交通大臣の特別認定を受けた界壁ですか?」「住宅性能表示でいう何等級に相当しますか?」などと聞くことで、遮音性能に関する情報を得られる。

「床衝撃音遮音性能は、人の足音などの重量床衝撃音、軽いものを落とした時の音などの軽量床衝撃音の両方について聞くことが大切です。重量床衝撃音は『LH値』、軽量床衝撃音は『LL値』で遮音性能が表され、目標値は日本建築学会が推奨している『LH-50』『LL-45』。ただ、いくら遮音性能が高くても、ドタバタ歩けば下の住戸に音が響くので、日々の生活での気遣いは忘れずに」

住み始めてから後悔しないため「周辺環境」もチェック

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周囲の住戸の生活スタイルも、マイホームを考える上では重要な判断材料になる。

「郊外型のマンションであれば、ファミリーが多いと予測できます。その中で独身の人が深夜に帰宅して、シャワーを浴びたり洗濯機を回したりすれば、寝静まっている周囲の住戸にとっては迷惑です。逆に、歓楽街に近いマンションは飲食店で働いている人が多い可能性があります。深夜に生活音が響くこともあるため、昼間出勤している人が住むと寝つきにくくなるかもしれません。事前に周辺のリサーチも行った方がいいでしょう」

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周辺のリサーチという点では、住む予定の土地や物件そのものを見ることも大切だ。

「音の問題は住んでみないとわからないことだからこそ、土地や物件に何度か赴き、そこでの生活を疑似体験することが大事。平日の昼間だけでなく、夜間や土日にも行ってみましょう。周囲のエアコンの室外機の音を確かめるため、夏場または冬場にも行けるとベスト。満足度の高い生活を送るには、そこに住む人が納得する性能の住宅でなければいけません。未来の生活をより良いものにするため、住宅メーカーと連携しながら、マイホームの計画を立てましょう」

「分譲マンションなどの区分所有の物件では、音のトラブルの発生状況がマンション全体の価値につながる」と、井上さん。居住者全員が音を響かせない工夫をすることが、マンションの価値や評判を高め、全居住者の利益につながると考えられるのだ。

あらかじめトラブルを回避することで、自分も周囲も快適に暮らせるようになる。将来的に笑って楽しく過ごすためにも、納得のいく遮音性能を追求しよう。

【#2】マンション住まいで騒音のクレーム受けたらどうすれば?ケース別対処法

『マンションの「音のトラブル」を解決する本』(あさ出版)
『マンションの「音のトラブル」を解決する本』(あさ出版)

井上勝夫
日本大学名誉教授、工学博士、一級建築士。専門は建築環境工学の音・振動環境学。重量衝撃源に対する床衝撃音の予測法と低減方法に関する研究で1989年日本建築学会奨励賞、住宅床の床衝撃音と歩行感に関する一連の研究で2000年日本建築学会賞を受賞。住宅関連の音・振動環境の対策や研究の第一人者として、テレビ出演や新聞、雑誌の執筆も多数行う。

取材・文=有竹亮介(verb)
図表=さいとうひさし

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。