ご近所トラブルの1つとして、問題になることの多い「騒音」。特にマンションや団地などの共同住宅では、上下左右の住戸の音が気になることもあるだろう。

逆に、自分や家族が出した音が、周囲の住人を困惑させていることもないとは言い切れない。騒音が原因で近隣住民とトラブルになってしまうこともあり得る。

もし、「うるさいんですけど」というクレームを受けてしまったら、近隣に響いてしまう音をどのように抑えればいいだろうか。#1では“トラブルを生まない家”の条件について解説してもらったが、今回も『マンションの「音のトラブル」を解決する本』(あさ出版)の著者である一級建築士・井上勝夫さんに具体的な対応策を伺った。

【#1】カギは「窓」と「室外機」知っておきたい“騒音トラブルを生まない家”の条件

『マンションの「音のトラブル」を解決する本』(あさ出版)
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まず行うべきは「音源」の特定

「人が生活をしている以上、生活音はつきものです。そのため、特に共同住宅では誰でも音の加害者になる可能性があります。もしクレームを受けたら、まずは音の発生源を特定しましょう。音源がわからないことには対処もできません」

音源を把握するためには、騒音の被害者となっている住人の協力が必要となる。

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●音源特定のため確認すること
・どんな音?…「カン」「ボン」「ブーン」といった音の種類
・いつごろ?…朝、昼、夜、音が発生する時間帯
・どこから?…リビング、廊下、風呂場、寝室など

「いつ、どこで、どのような音が聞こえるのか、できるだけ具体的に聞き、自分や家族の生活パターンと照らし合わせてみましょう。音源が特定できない場合は、『音を特定して対処したいので、音がしたらすぐに連絡してください』と、相手に連絡先を伝えておくといいでしょう」

音源の特定を行うと、音の発生源が異なる住戸だったり、複数の住戸の音が重なっていたりすることもあるそう。

「過去の事例で、下の住戸から『子どもの騒ぐ音がうるさい』というクレームを受けた人がいました。ある時、子どもを実家に預けていたタイミングで、『子どもの走る音がうるさい』と言われたそうです。このように、クレームを受けた人の家庭だけでなく、ほかの住戸からの音も原因になることがあります。相手の言い分に対して、誠意をもって受け止めたうえで、音源を突き止めましょう」

「音の種類」によって遮音の方法は異なる

自分の家が音の発生源であることがわかったら、その程度によっては近隣の住戸に音を響かせないための対策が必要になる。音の伝わり方を知ると、対策の方法が見えてくるという。

「共同住宅内の伝搬音は、『空気音(空気伝搬音)』と『固体音(固体伝搬音)』の2つに分けられます。空気音は、空気中を直接伝わる音。固体音は力や振動が床や壁、天井などに入って振動として伝わり、離れた住戸の空間に放射される音のことを指します」

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●空気音の例:
赤ちゃんの泣き声、テレビ・ステレオの音、話し声、外の道路を走る車の音など
●固体音の例:
床にものを落とした時の音、人が走った時の足音、ドアを勢いよく閉めた時の音、風呂場で水を流した音、トイレの給排水音、エレベーターの音など

「空気音は空気の振動によって伝わるため、空間を壁などで遮れば伝わりにくくなります。例えば、テレビの発生音も、ドアを閉めれば漏れ聞こえる音は小さくなりますよね。一方、固体音は振動が共同住宅のコンクリートなどの構造体の中を伝わって伝搬するので、振動を遮断する工夫が必要です。

固体音は建物の構造にも関係するので完全に遮ることは難しいのですが、床に加わる衝撃についてはカーペットを敷いて歩く時の衝撃を吸収するといった工夫で、多少は音を軽減できるでしょう。ただし、その効果はカーペットの種類と音源の特性に関係するので、専門的に検討することが必要です」

ここからは具体的な音に合わせてできる対策を井上さんに教えてもらった。

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●子どもが騒ぐ声や足音
「声は空気音なので、ドアや窓を閉めることでかなり遮音はできますが、共同住宅に住んでいる意識を持ち、子どもに大声を出さないよう教えることがもっとも大切です。一方、子どもが走り回ったり飛び跳ねたりする音は固体音で、重量があり、比較的柔らかい衝撃源のため『重量床衝撃音』と分類され、衝撃力が大きくなることから、床仕上げ材だけでは衝撃力を吸収することができません。

そのため、飛び跳ねないようにすることが対策の基本となります。子どもが遊ぶ時に発生する遊具や軽量物の落下音に対しては、緩衝材のついた厚手のカーペットを敷くなどの工夫で、衝撃を吸収する効果が期待できます」

●ドアやカーテンの開閉音
「ドアやカーテンの開閉の音は固体音ですから、壁にぶつけない、またはぶつける衝撃を低下させることが効果的な対策です。ドアは戸当たりを見ながらゆっくりと閉め、バンと音を立てないようにしましょう。

どうしてもドアを閉める音がしてしまう場合は、戸当たりにクッションシートを貼りつけ、衝撃を吸収させましょう。カーテンも勢いよく閉めず、カーテンレールの辺りを見ながら静かに閉めるだけでも、かなり発生振動を軽減できます」

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●冷蔵庫や洗濯機など家電製品の音
「冷蔵庫や洗濯機の稼働音は近くにいると気になりませんが、壁や床を伝わる固体音となって、ほかの住戸に響いていることがあります。マッサージ器も同様の音が響く場合があるので要注意。

家電製品による固体音の対策を行うには、設置部(脚部)にゴム系の防振材を敷くといいでしょう。ただし、防振材の材質によっては音が大きくなることもあるので、材質や個数などは販売店や音の専門家に相談して決めることをおすすめします」

●テレビの音
「テレビの音は空気音なので、ドアや窓を閉めれば対策できますが、高齢者がいる家庭は注意が必要。高齢になると高音域が聞こえにくくなるため、つい音量を上げてしまいがちです。

その音が周囲の住戸に響く場合は、窓が少なく、静かな部屋にテレビを設置しましょう。空気音は窓などの開口部から漏れやすいので、窓の面積が狭い方が遮音性能は高くなります」

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●ピアノなどの楽器の音
「奏でる音は空気音と固体音が対象となります。空気音はドアや窓である程度遮ることはできますが、発生音が大きいため、演奏の時間帯については住んでいる共同住宅のルールに従うことが必要です。

また、ピアノは脚部から発生する固体音の問題もあるので、家電製品と同様に、防振材を敷いて振動を遮断しましょう。特にピアノの場合は固体音の発生音も大きいので、対策方法は専門家との相談も必要となります」

●お風呂やトイレの給排水音
「給排水の音は住宅の設計・施工上の問題が大きく、個人でできることは限られますが、できる工夫はあります。例えば、周りが寝静まっている深夜や早朝はなるべく使わない、浴室内の床に緩衝用のマットを敷くなどの方法で、振動の遮断に努めましょう」

「日々のコミュニケーション」が騒音トラブルの予防に

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共同住宅で騒音の加害者にならないためには、「“共同住宅に住んでいる意識”を持つことが、もっとも大事」と井上さんは話す。

「できる対策はもちろんした方がいいですが、まずは発生音を低減させることを考えるべきです。隣や上の住戸から聞こえてくる音は、同じように自分の家から隣接住戸に伝わっている可能性があるので、参考にしましょう。音源の種類にもよりますが、どうしても音を立ててしまうのであれば、1階の角部屋のように、ほかの住戸への影響が少ない部屋を選ぶことも対処法の1つといえます」

また、近隣の住民とのコミュニケーションが、騒音トラブルの防止につながることもあるとのこと。

「共同住宅でお互いに気持ちよく過ごすためには、良好な人間関係を築くことが大切です。普段から挨拶する間柄の人が発する音であれば、『今日は上の子ども達元気だなぁ』と受け入れやすくなる場合もありますし、音が多少大きくても『昨日はちょっとにぎやかでしたね』と伝えやすくなります。廊下やエレベーターで近隣住戸の居住者と会ったら挨拶をして、良好な関係を築きましょう」

同じマンションに住む人達と積極的にコミュニケーションを取りつつ、なるべく音を発生させないように努めることが、騒音の加害者にならない秘訣といえそうだ。

【#1】カギは「窓」と「室外機」知っておきたい“騒音トラブルを生まない家”の条件

井上勝夫
日本大学名誉教授、工学博士、一級建築士。専門は建築環境工学の音・振動環境学。重量衝撃源に対する床衝撃音の予測法と低減方法に関する研究で1989年日本建築学会奨励賞、住宅床の床衝撃音と歩行感に関する一連の研究で2000年日本建築学会賞を受賞。住宅関連の音・振動環境の対策や研究の第一人者として、テレビ出演や新聞、雑誌の執筆も多数行う。

取材・文=有竹亮介(verb)