子どもへの体罰禁止の法律「内容知っている」2割

児童相談所の児童虐待の相談対応件数は2019年度、19万3780 件と過去最多(厚労省による調査)となった。中では、“しつけ”の名のもとに行われる、体罰が徐々にエスカレートし、深刻な虐待に繋がる事例も多く見受けられるという。

こうした状況を踏まえ、2019年6月、「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」が成立し、2020年4月に施行。親がしつけにあたって、子どもに体罰を加えることが禁止された。

しかし、施行から1年以上経った今年4月12日に公表された厚生労働省の調査研究で、周知されていないことが分かった。

現在は法律で体罰を禁止している(画像はイメージ)
現在は法律で体罰を禁止している(画像はイメージ)
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厚生労働省の調査研究において、調査会社キャンサースキャンが昨年11月25日から12月1日にかけて実施した「体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査」によると、対象となった全国の15歳から79歳の男女5000人のうち、子どもへの体罰を禁止した法律を「内容まで知っている」人は20.2%にとどまっている。

「聞いたことはあるが詳しい内容は知らない」は60.2%、「知らない」は19.6%だった。

「内容まで知っている」20.2%(体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査)
「内容まで知っている」20.2%(体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査)

「6カ月以内に子どもに体罰」3割

またこの調査では、18歳以下の子どもを養育する5000人を対象とした質問もあり、「過去6か月以内に、子どもに正しい行動を教えたり、なんらかの問題に対処するためのしつけとして、子どもに体罰を与えたことがあるか」に対して、「あった」と答えたのは33.5%と、3人に1人に上っている

男性よりも女性、また、10代〜30 代の若い年代で体罰の頻度が高い傾向が見られた。

しつけとして行われた具体的な行為としては、「お尻や手の甲をたたくなど物理的な罰を与えること」が28.4%、「怒鳴りつけたり、『だめな子だ』など子どもが傷つく言葉をいうなど、子どもを否定的な言葉で心理的に追い詰めること」が28.1%、「自室やベランダ、押入れに閉じ込めるなど、子どもの自由を大きく制限すること」が9.6%だった。

しつけとして行われた具体的な行為(体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査)
しつけとして行われた具体的な行為(体罰等によらない子育ての推進に向けた実態把握に関する調査)

一方、子どもに体罰を与えた後、「しなければよかった」と後悔した経験があると答えた人は88.7%に上った。

約8割が「詳しい内容を知らない」と回答した、この法律(児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律)はどのような内容なのか?

厚生労働省の担当者に、この法律の“おさえておくべきポイント”を聞いた。

体罰は子どもの権利の侵害であり、成長に悪影響を与えるもの

――体罰を禁止した法律を「内容まで知っている」と回答したのは20.2%、この結果はどのように受け止めている?

調査時点が法改正の施行から約半年後であることを考えれば、一定の認知が得られていると考えています。ただ、引き続きの周知啓発が必要であると考えています。


――約8割が「内容を知らない」と回答。この法律で何が変わったのか、”おさえておくべきポイント”は?

体罰に関する改正としては、児童の親権を行う者が、児童のしつけに際して、体罰を加えてはならないことを明確化する改正を行いました。

「児童虐待防止対策の強化を図るための児童福祉法等の一部を改正する法律」では、体罰の禁止等を通じた児童の権利の擁護に加え、児童相談所の体制強化や関係機関間の連携強化等を盛り込み、児童虐待防止対策の強化を図っております。


――この法律のどのようなことを知ってほしい?

体罰は子どもの権利の侵害であり、また、子どもの成長に悪影響を与えるものであること、子育ての悩みを相談できる行政の相談窓口があることなどを周知していきたいと考えています。

体罰等によらない子育てのために(厚生労働省HP)
体罰等によらない子育てのために(厚生労働省HP)

――この法律の周知のためには、どのような取り組みが必要だと思う?

ポスターやパンフレットを用いた広報のほか、昨年度はインターネット上や電車内に動画広告を掲載するなどの広報を行っています。

社会全体での認知が進むよう、引き続き多様な広報を進めていく必要があると考えています。

「体罰等によらない子育て」7つの工夫ポイント

――「半年以内の子どもに1回でも体罰をしたことがあった」と答えた養育者は33.5%。この結果はどのように受け止めている?

体罰を行使した養育者の88.7%は、体罰を与えた後に「しなければよかった」と後悔した経験があることが調査によって明らかになっており、養育者は体罰を行使せざるを得ない状況に追い込まれていることも考えられます。

体罰等によらない子育ての理念の啓発と合わせて、子育て環境の整備などを通じて養育者の負担を軽減していく必要があると考えております。


――調査の報告書には「養育者が、少しでもストレスやプレッシャー、不安等を感じることなく子育てに向き合うことができ、“(体罰を)してしまう”状況になり難い環境を整えることが重要である」と書いてある。このためには、どのような支援が必要だと思う?

今回の調査の報告書においては、「子育ての環境整備(子どもを預ける場所の確保や経済的な支援等)」「体罰等によらない子育てに関するノウハウを学ぶ場の提供」などが挙げられています。

調査の結果も踏まえ、有識者のご意見も伺いながら、今後の支援の充実策を検討していきたいと考えています。
また、「体罰等によらない子育て」のポスター及びパンフレットは、厚生労働省のHPに掲載していますので、ご参照ください。

<参考:体罰等によらない子育てのために~みんなで育児を支える社会に~

厚生労働省は「体罰等によらない子育てのための工夫」として、7つのポイントを示している。

<1>子どもの気持ちや考えに耳を傾けましょう
<2>「言うことを聞かない」にもいろいろあります
<3>子どもの成長・発達によっても異なることがあります
<4>子どもの状況に応じて、身の周りの環境を整えてみましょう
<5>注意の方向を変えたり、子どものやる気に働きかけてみましょう
<6>肯定文でわかりやすく、時には一緒に、お手本に
<7>良いこと、できていることを具体的に褒めましょう

体罰等によらない子育てのための工夫のポイント(厚生労働省HP)
体罰等によらない子育てのための工夫のポイント(厚生労働省HP)

また、「保護者自身のポイント」も示していて、それが「否定的な感情が生じたときは、それは子どものどんな言動が原因なのか、自分自身の体調の悪さや忙しさ、孤独感など、自分自身のことが関係しているのかを振り返ってみましょう」ということだ。

昨年4月に施行された改正法、そして、厚生労働省が示している「体罰等によらない子育てのための工夫」を周知していくことなどが、子どもへの体罰をなくすことにつながっていくのだろう。
 

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プライムオンライン編集部
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