新生児が捨てられてしまう“遺棄”事件が相次いでいる。その背景には、予期せぬ妊娠や経済的な困窮から母親が病院を受診できず、孤立してしまうケースが多いといわれている。

悲しい事件を生まないために、京都の病院と東京のNPO法人が手を組み孤立する妊婦を支える「無料産院」を始めることが分かった。

全国初「無料」の産院がスタートへ 新生児の遺棄事件を防げるか

妊婦検診:
ここ顔が見えていますね、あー、コレ。ほらあくびした!(中略)きれいやね、特に問題はないね、また口が開いてる。よう口を開ける子やね~

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京都にある第二足立病院。年間200件近くのお産を扱い行き届いたケアが評判で、「ここで産みたい」とやってくる人が絶えない人気の産院だ。

足立病院・永井利枝看護師長:
こちらが相談室です

Q.いつもこちらで?

足立病院・永井利枝看護師長:
お母さんが安心して話して頂けるように配慮しながら、お母さんがSOSを出せる場が増えると良いと思っています

第二足立病院は、31日に発足したプロジェクト「無料産院」の受け入れ病院として手を挙げた。

この「無料産院」とは、経済的に困窮し医療機関を受診できない妊婦に対し、NPO法人が健診や出産費用を代わりに支払う。この取り組みの一番の狙いというのが、妊婦さんの“未受診”を防ぐことだ。

認定NPO法人「フローレンス」石原綾乃さん:
生後0日の虐待死ケースの87%の方々が、病院に行っていないっていう厚労省の検証結果があります。経済的なハードルに加えて、予期せぬ妊娠を相談したり、助けてくれる人がいない孤立した妊婦さんっていうのが多いので、赤ちゃん遺棄の問題が解決しないのだと

27日、静岡県沼津市の海岸で焼けた赤ちゃんの遺体が見つかった事件。警察の調べによると、赤ちゃんは生後間もない女の子だった。  

また、2022年9月には和歌山県白浜町のホテルで出産後、赤ちゃんの遺体が遺棄された事件では、母親が生活費を稼ぐための「パパ活」からの妊娠で、遺棄に至った。こうした痛ましい事件に至らないために立ち上げた「無料産院」では、出産後、自分で育てることが難しい人には、NPO法人が特別養子縁組の手続きもサポートする。

妊婦さん:
赤ちゃんには罪はないですし、やっぱり親の責任ではあると思うんですけども、色んな事情があると思うので(中略)そういうところがある事が、未受診の妊婦さんにも知れたらいいなと思います

第二足立病院・大坪一夫名誉院長:
本当はお産って楽しいものですから。(お産って楽しくて)子育てって本当に楽しいものなので、そういう環境を作ってあげるために、土台作りをしてあげたらいいと思います

赤ちゃんとお母さんが、安心して出産の日を迎えられるよう、そして新生児の遺棄事件がなくなるように、新たな支援が始まる。

「無料産院」は困っている妊婦さんに安心感を与える仕組み

6月1日から始まる新たな支援「無料産院」。さまざまな理由があって悩みを抱える妊婦さんのひとつの選択肢になり得ると思うが、この支援について現場を取材した加藤デスクに聞く。今回、無料産院について考えていく中で、「173件」という数字が大きく関係する。

関西テレビ 加藤さゆりデスク:
0歳0か月0日の生まれてすぐの赤ちゃんが、虐待・遺棄によって亡くなったケースですね。それが、これまでに173件も報告されているということなんです。その多くが19歳以下であったりとか、病院を1度も受診していない方がいらっしゃるということなんですね。無料産院というのは、こういうケースをどんどん無くしていきたいということで始められる制度なんです

では、実際にどのような悩みを持つ方のために無料産院が始まるのか。

関西テレビ 加藤さゆりデスク:
例えば、お金がなくて出産や検査の費用が払えないとか、親から虐待を受けていて誰にも相談できない…。そういった様々なケースがありまして、いろんな事情を抱えた妊婦さんが、このNPO法人フローレンスにLINEや電話で相談すると、「提携している病院がありますので、そこに行ってくださいね」と促して、「その費用は掛かりません」とお伝えして、困っている妊婦さんに安心感を与える仕組みです

関西テレビ 加藤さゆりデスク:
フローレンスさんも今後、連携する病院を10カ所まで増やす予定です。ただ、間違えてはいけないのが、無料産院はあくまでも“最後の砦”だということです。これがあるから妊娠してもいい…ではなく、本当に困った人のためにこういう支援があるということを知っていただきたいです

無料産院は1日からスタートする。

無料産院が、経済的に困窮していたり、孤立している妊婦の方にとって、悩みを相談するキッカケになるといいが、今後の課題は何か。

関西テレビ 加藤さゆりデスク:
無料産院で出産したとしても、今後は子どもを“育てること”を考えていかないといけません。育てられない人は、特別養子縁組っていう制度もありますし、私が過去に取材したところでは“マタニティホーム”みたいな形で産んだ後、その方が育てられないケースであっても、就労支援をするとか。その女性が自立して、経済的に自立していけるための支援をされてる方もいらっしゃるんです。さまざまな支援の形があっていいと思います

これ以上、悲しい事件を生まないために何ができるのか。今後も社会全体で考えていく必要がある。1日から始まる新しい制度「無料産院」が、ひとつの予防策になればと思う。 

(関西テレビ「newsランナー」5月31日放送)

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