全国の児童相談所が対応した虐待の件数は、ここ30年で増え続け、2020年度は過去最多の20万5000件余りにのぼっている。
子どもたちをどう保護するか、対策が喫緊の課題となる中、富山県在住のノンフィクション作家がアメリカの先進事例をもとに、日本の児童救済への提言をまとめた書籍を出版した。県内の現状と本の執筆に込めた思いを取材した。
「児童虐待」への答えとは…“世界最先端”児童保護の仕組み
この記事の画像(11枚)「どこにも安全な居場所がない。誰にも愛してもらえない。出口がいっさい見えない、真っ黒な絶望と孤独……。そんな状況に耐えている子供の苦しみを、あなたは想像したことがあるだろうか」
児童虐待をテーマに扱った書籍「チャイルドヘルプと歩んで」は、冒頭、そんな疑問を読者に投げかけている。
この本の著者で、富山市在住のノンフィクション作家・廣川まさきさん。
社会の陰に隠れ、時として悲惨な事件へと発展してきた児童虐待に目を向け、児童保護の先進事例であるアメリカの民間組織での取材経験を1冊の本にまとめた。
ノンフィクション作家 廣川まさきさん:
これまでも、小説とかドラマで児童虐待、貧困にあえいでいる子どもたちのことを知る機会はありました。けれど、小説もドラマも答えはあまり教えてくれなかった。投げかけはあります。社会はどうしたらいいんだろう。この子どもたちはどうしたらいいんだろう、という投げかけはあるんです。でも、答えはなかなか示してくれない。なので、これを探さなくちゃいけないと思いました
廣川さんが取り上げたのは、全米最大の民間児童救済機関「チャイルドヘルプ」。2016年から複数回にわたって現地を訪れ、世界最先端とも言われる児童保護の仕組みを取材し、その内容を伝えている。
例えば施設の一つ、チルドレンズ・アドヴォカシー・センターでは、警察や検察、病院の医療チームや心理療法チーム。
さらには日本の児童相談所にあたる組織などが集まり、児童保護の初動対応に必要な措置がスピーディーに提供されていることが紹介されている。
ノンフィクション作家 廣川まさきさん:
アドヴォカシー・センターの中には、警察、検察、児童福祉の職員たち、子どもたちの心のケアをする心理療法士さんたち、みんなが集まっています。みんなが集まって、1人の子どもの擁護をする。全てを一つの場所で、ワンストップショップで出来るところを作るということが、日本もあってもいいと思います
「社会全体で対策を」日本の児童保護の課題
実際、日本の児童保護にはどのような問題点があるのか。児童家庭福祉を専門としている富山国際大学の宮田徹教授は次のように指摘する。
富山国際大学 子ども育成学部・宮田徹教授:
深刻な子どもさんが亡くなる事例、事件が起きていますけれども、その背景には関係機関の連携不足であったりといったことが指摘されている。色んな施設や団体での取り組みが、バラバラではなくちゃんとつながっていること。ちゃんとつながっていることをする専門性がすごく大事で、専門性を育てることが課題なんだと
2020年度、富山県内の児童相談所に寄せられた児童虐待の相談件数は、過去2番目に多い1035件。児童相談所、市町村、警察などの連携強化や、専門的な人材の育成が急務となっている。
著者の廣川さんは、この本の出版を通し、児童虐待を家庭だけの問題として片づけるのではなく、社会全体で対策を考える必要があると訴えている。
ノンフィクション作家 廣川まさきさん:
児童虐待の問題は、あまりにも心がつらくなるから、なかなか見ようとしない。見たくない部分でもあると思うんです。難しい問題ですけどね、しっかり見る。その子たちの存在をしっかり認識するっていう、その勇気を持ちたいなと思います
児童虐待の相談件数が増えることは、虐待の認識が社会で広まっているという捉え方もできるが、一方で、それだけ児童相談所の業務がひっ迫しているという側面もある。
専門家だけに頼るのではなく、地域で子どもたちを見守っていく意識を持つことが、今後ますます必要と言えるのかもしれない。
(富山テレビ)