「あと1人職員がいたら…」1人で20人の子供を見る施設も

東京・北区にある「星美ホーム」。ここでは3歳から19歳の98人の子ども達が暮らしている。

「星美ホーム」の子どもたち(東京・北区)
この記事の画像(11枚)

この日は雨だったので室内で楽しそうに遊ぶ子ども達の姿があった。映画を見たり、ブロックを組み立てたり…。

2020年度の虐待相談対応件数は20万5029件と、2019年度から約1万件増え、過去最多を更新した。

虐待、育児放棄、親の病気、死別など、さまざまな理由で家族と離れて生活している子どもがいる。子どもたちの生活の場となり、自立を助けるのが児童養護施設だ。全国に612カ所あり、約2万4000人が生活している(2020年3月末時点/厚労省)。

施設では「ケアワーカー」という、子どもの心のケアや生活の支援をする職員が24時間体制で子ども達と生活をする。ケアワーカーは子どもたちにとって、施設での生活を共にするだけでなく、退所した後の人生にも大きな影響を与える存在だ。

しかし、全国の施設は職員不足という課題を抱えている。採用に人が集まらず、採用後の離職率も高い。

ケアワーカー3年目の松本恵梨子さん(25)は「あと1人職員が増えて、2人体制で子ども達を見ることができる時間帯ができれば、子どもたちの要望に応えられる範囲がだいぶ変わる」と話す。

ケアワーカー3年目の松本恵梨子さん

星美ホームでは6人の子どもを1人の職員で見る体制を、3人のシフト制でまわしている。他の施設と比べても、職員が確保できている環境だという。

施設によっては20人の子どもを1人の職員で見ざるを得ないところもある。特に地方では、自治体の助成金の少なさ、大学などとの接点の少なさから職員採用のハードルは高い。

ケアワーカー松本恵梨子さん:
「買い物や通院。行くとしたら、平日だと夕方になりますが、(職員)一人だとご飯作りながら子どもたちも見て、というと、通院が先延ばしになってしまうことがある」

重篤な状況でない限り、子どもを病院に連れていくのが先送りになってしまうのは“施設あるある”だそうだ。

料理・掃除などケアワーカーの仕事は多岐に渡る

コロナ禍で大量に離職者も…

新型コロナの感染拡大で子どもたちの外出機会も減り、子ども達の精神的なケアもより必要になった。施設内を消毒するなど仕事も増え、職員の精神的・体力的な負担も増加。一部の施設では大量に離職者が出た。

星美ホームでも、子どもの中に濃厚接触者が出ると、部屋を閉鎖して同じ職員が4,5泊連続で泊まり勤務をこなした。その時、改めて人手不足を実感したという。

閉ざされていた児童養護施設に“デジタル化”を

児童養護施設などの職員の確保と定着をサポートする、日本で唯一のNPO法人「チャイボラ」の代表、大山遥さん(36)は「本当は、子ども達ひとりひとりと十分に向き合って愛着形成をしていくべきで、職員もそうしたいという想いは持っていますが、時間が十分にとれない現状があります」と話す。

施設担当者にヒアリングする「チャイボラ」代表の大山遥さん(左)

2016年、教材大手のベネッセコーポーレーションで働いていた大山さん。破棄される教材を届けるため児童養護施設に問い合わせをしたところ、返ってきたのは「欲しいのはモノではなく人なんだよ」という言葉だった。「1人で8人以上の子どもたちを見る時間帯がほとんどで、進研ゼミに取り組める状況ではないんだ…」

その1週間後、大山さんはベネッセに辞表を提出。

「迷いはなかった」「それくらい衝撃だった」と振り返る。子どもに関わる仕事をしてきたが領域が狭かったと痛感した。現在は非常勤の施設職員として働きながら、このチャイボラを運営している。

児童養護施設の運営は、国と自治体からの「措置費」でまかなわれている。しかしそこには施設を知ってもらうための「広報費」は含まれない。さらに、多くの施設は人材確保のノウハウもない。ホームページが適切に運営されていない施設も多かった。

施設は職員を求めているのに採用に人が集まらない。一方で、児童養護施設の仕事に興味がある人は施設の情報に簡単にアクセスできない。そんな状況を打破するため、大山さんは、保育士資格を目指すために通っていた学校の仲間達と2018年に「チャイボラ」を立ち上げた。

情報サイト「チャボナビ」で職員採用を支援

「チャイボラ」では、情報サイト「チャボナビ」を作り、各児童養護施設にかけ合って、採用や見学会の情報にサイト経由で簡単にアクセスできるようにした。現在は東京都にある児童養護施設の約9割が「チャボナビ」を導入し、人材確保へ動いている。星美ホームでは2021年に採用情報を載せ、オンラインでも説明会を開催。前年に比べ、説明会参加者は43人から83人に増えた。2022年採用の職員内定者15人のうち12人がチャボナビ経由だ。

「チャボナビ」:エリアや採用条件ごとなどで施設が検索できる

チャボナビで2021年4月に星美ホームに就職した宮尾友理さん(23)は「まとまっているサイトがなかなかない中で助かりました」「エリアごとで検索できるし雰囲気がわかるので」と話す。

「チャボナビ」経由で就職したケアワーカー1年目の宮尾友理さん(右)

チャイボラでは、オンラインで職員の研修を月に2,3回行い、コロナで減ってしまった“つながり”の機会を作っている。さらに、2021年1月には、施設で働く職員のための無料相談窓口アプリを開設。今後AIを使い、チャットの文言を解析し、より多くの相談者への対応ができるようにしていく予定だ。「辛くても話す相手がいない…」そんな職員たちの受け皿を“デジタル化”で拡充する。

アプリ「社会的養護施設職員のための相談窓口」:無料で専門家にチャット形式で相談ができる

「この人だけはわたしを見捨てない」という心のつながり

「保育園や幼稚園は6時間ぐらいしか見られなくて家庭に帰っていくけれど、『ここの子はここがおうち』で、その子の人生そのもの。一からサポートをできる素敵な仕事」

ケアワーカーの松本さんは、先輩からこう言われ、そういった子供を支える仕事がしてみたいと思ったのがきっかけだったという。

ケアワーカー松本恵梨子さん:
「日常生活、子どもと過ごしているときが今は幸せ。幸せというか楽しくて。テレビ見たりとかごはんを食べているときに会話したりとか、ほんとささやかなんですけど」

思春期の子ども達との対話がうまくいかず、課題を抱えることも多いというが、子どもひとりひとりの成長を見守ることができることはやりがいがあると、笑顔で話す。

人は、人から大切にしてもらうことで自分の存在を確認できる。

子どもたちが「この人だけはわたしを見捨てない」という心のよりどころを作るためには、まずは施設で働く職員の確保と定着が必要だ。

子供たちが願いを書いた風船。「大好きな人が幸せでありますように」「コロナ収束!」などが書かれていた

「チャイボラ」のHP

※「チャイボラ」のHP:https://chaibora.org/