パソコンを長時間見ていて、前傾姿勢になったり、同じ姿勢が続いたりして体がこることがあるだろう。そんな時、首を曲げたり回したりすると、ポキポキと音がすることはないだろうか。

また、手持ち無沙汰の時などに、指の関節をポキポキと鳴らして、その音を聞くとスッキリするので、頻繁に鳴らすことが癖になってしまったという人もいると思う。

しかし、この音を鳴らす行為が実は体にダメージを与えていると、ネット上で話題になったのだ。

首からポキッという音が…(画像はイメージ)
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そこで今回は、首や指をポキポキ鳴らすことは本当に体に悪影響があるのか?そもそも、この音はどうして鳴るのか?
昭和大学医学部・整形外科学講座客員教授で、成城リハケア病院長の平泉裕さんに教えてもらった。

狭くなった関節腔が離開する時の音

ーー首や指がポキポキと音が鳴る現象のメカニズムを教えて。

首(頸椎)や指の関節構造を簡単に説明します。関節面は滑動性のよい軟骨で被覆されており、関節を袋状に包んでいるのが滑膜と関節包です。滑膜からは関節液(滑液)といって粘調性があり関節面の摩擦係数をほぼゼロにする潤滑剤が産生されます。

関節の外側には骨同士を連結する靭帯があり関節の安定性を保持します。また、筋・腱が付着しており関節の運動性と可動性を与えています。

関節の構造(提供:平泉裕)

さて、しばらく関節を動かさずにいると、筋肉・腱・靭帯の張力によって関節腔(※上図の黒い部分)は徐々に詰まって狭くなり、この部分の滑液量が減るので関節面の滑動性が低下します。このような状態で関節を強制的に動かそうとすると、関節面の滑りが悪くなっているため詰まったような抵抗感として感じます。

この状態でさらに強い力で関節を動かそうとしたとき、狭くなった関節腔が瞬間的に離開(セパレーション)する結果、関節腔内に強い陰圧が生じて関節液に溶け込んでいる気体が蒸散して気泡を形成します。この現象は、最近のMRIによる研究で実証されており、このとき発生するポキポキ音は狭くなった関節腔が離開(セパレーション)する瞬間に発生することが判明しました。
ポキポキ音は気泡がつぶれる際に発生するとする説もありましたが、この研究によって否定されています。

音が鳴る前後のMRI画像(提供:平泉裕)

ーー首や指がポキポキなることに対しての名称はあるの?

クラッキング(cracking)と呼ばれています。


ーー音を鳴らして気持ちいい、スッキリすると思うのはどうして?

関節腔が狭くなり滑動性が低下した関節を無理に動かそうとすると詰まったような圧迫感を感じますし、どうにかしてこの詰まった感覚を解消させたいと思うはずです。

この状態でさらに強い力で関節を動かしたとき、狭くなった関節腔が瞬間的に離開(セパレーション)してポキっと音が鳴ると同時に、関節腔が開大するため圧迫感から解放され気持ちいいと感じます

圧迫感から解放され気持ちいいと感じる(画像はイメージ)

首を鳴らす行為は危険な場合がある

ーークラッキングすること​は本当に危険なの?

指を鳴らし続けることでは、関節が太くなって将来的に変形性関節症を発症するリスクがある以外に大きな障害はありません。

一方、首(頸椎)には特殊な解剖学的特徴があり、音を鳴らそうと頸椎を急に動かすことで危険な場合があります

1)頸椎は中央に脊柱管といって脊髄を保護しているスペースがあります。日本人は西洋人と比較して脊柱管が狭い傾向があり、音を鳴らそうと首を大きく後屈させたときに脊髄を損傷することがあります

2)頸椎には椎間関節とルシュカ関節があり、この両者で囲まれた部分に椎間孔があります。椎間孔には脊髄から分枝した神経根が走行します。椎間関節の音を鳴らすとき、首を大きく側屈させますが、この動作によって椎間孔が狭くなり神経根が損傷を受けることがあります

3)頸椎では椎骨に沿って椎骨動脈が脳に向かって上行します。音を鳴らそうと首を大きく振ると椎骨動脈の内膜損傷を起こして解離性動脈瘤や血栓による脳梗塞を引き起こすリスクがあります。


ーー危険ならば、どういった症状となって現れたりするの?

1)脊髄症状:手足のしびれ、筋力低下、感覚鈍麻、上肢の巧緻障害(書字・箸などの精密動作)、体幹バランス障害、歩行障害など
2)神経根症状:首~手指にかけて放散する痛み、手指のしびれ、上肢の筋力低下など
3)椎骨動脈症状:めまい、失神、一過性脳虚血発作、脳梗塞など

急に動かすことで危険な場合が…(画像はイメージ)

ーーこういった危険な症状というのは、どれくらいの頻度で出てくるもの?

首の音ですが、ゆっくり首を回す体操などで自然に鳴るのは安全です。
故意に鳴らすために力を入れると、離開する際の衝撃が大きくなるため、軟骨や靭帯が損傷しやすくなり、長期間何度も繰り返すと変形性関節症へと進みます。

一方、頚椎特有の解剖による障害ですが、上記と同様で強い力で衝撃が入ると脊髄、神経根、椎骨動脈への損傷リスクがあります。

頻度は難しいです。無症状で変形性頚椎症がある方は年齢が上がるにつれ増えます。このような人は一回でも発症するので気をつけてください。頚椎症や脊柱管狭窄症がない人は繰り返しても機械的炎症の痛みが誘発されるだけで、重症にはなりません。
 

ーー整体の時などに鳴らしたりしていますが、それと自分で鳴らすのとは異なるの?

正しい教育と資格(米国ではカイロプラクティックの教育課程と資格制度が存在)を持った整体師であれば、強制的に強い力で関節を動かす操作は危険なため行わないはずです。

安全で正しい操作は、硬直した筋肉と靭帯をゆっくりと適度な力で緩めるようにストレッチしながら、同時に関節面に正しい滑走を加えながら動かします。このような過程で音が鳴るのは安全で問題ありません。あくまでも音を鳴らすのが目的ではないということです。

首や肩がこる=音が鳴りやすい状態

ーー1度音が鳴ってから、また音が鳴るまでどれくらいの時間があくの?

何度も鳴らせる人と一度も鳴らせない人がいますね。何度も鳴らせる人の傾向としては、癖になって繰り返し鳴らしているうちに関節軟骨が摩耗したり、骨棘ができてる人があります。これらの人たちは関節腔が狭くなっていますので簡単に何度でも鳴らすことができます。逆にこの癖をなくしてもらうと鳴らなくなったりします。


ーー指を鳴らすと太くなるという話を耳にしたことがあるけど本当?

関節腔が詰まった状態から強い力で関節を動かす際に離開(セパレーション)が発生して音がなります。これを繰り返しますと、離開する際の衝撃によって関節軟骨が損傷し、関節安定性に寄与する靭帯も損傷して慢性関節炎の状態に移行していきます。長年の経過で関節靭帯が肥厚し、関節軟骨の摩耗と骨棘形成が起こって指が太くなります。

指が太くなる可能性がある!?(画像はイメージ)

ーー音が鳴ることと首や肩がこることには関係性はあるの?

首や肩がこっていると、首を支える僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋といった筋肉の伸縮性が低下し、筋が硬直した状態で血流が悪くなっています。このような状況では首の椎間関節においても関節腔が詰まって関節面の滑動性が低下し、音が鳴りやすい状態になっています。
 

音が鳴りやすい状態を少しでも解消する方法は?

ーーでは首こり・肩こりをしなくなるようには、どのようなことに気を付けていればいい?

頭の重量は体重の1/10(約5キロ)あり、頭を支えているのは頸椎と後方筋肉群(僧帽筋、菱形筋、肩甲挙筋など)です。

首の後方筋肉群を疲労させないためには、
1)デスクワークやスマホ操作等で長時間の首の前屈姿勢をとらない
2)30分~60分に一回、5分間の作業中断を入れ、立ち上がって遠くの景色を眺めることで、眼精疲労ならびに緊張した首周囲の筋肉のリラクゼーションを行う
3)就業中でも可能であれば肩甲骨を動かす動作(肩の上げ下げ運動、バンザイ体操など)を行うことで首周囲の筋肉が硬直しないよう努める

首周囲の筋肉が硬直しないようするのが大事(画像はイメージ)

ーー既に首こり・肩こりの人の解消方法を教えて。

慢性的な首コリ・肩こりの人は、
1)環境要因(長時間のデスクワーク、自宅引きこもりでテレワーク、長時間のスマホ使用など)が考えられる人は、上述した注意点を取り入れてください。
2)姿勢不良(亀くび、ストレートネック、猫背など)が基礎にある人は、疲れにくい姿勢を覚えていただくためにも整形外科を受診して検査をお勧めします。
3)首を支える筋肉群の緊張緩和と筋力増強練習を行います。整形外科を受診して運動器リハビリテーションを受けるのが確実ですが、「40秒首ほぐしストレッチ」などの首や肩の周囲の筋肉を無理しない程度にストレッチしたりするのもよいかと思います。

<40秒首ほぐしストレッチ>
右手を頭の上から左側の耳や頬を触り、息を吐きながら手の重みを使って右側にゆっくりと頭を倒して10秒。
左手で左側に首を傾けて10秒。
背筋を伸ばし頭の後ろで両手を組み、息を吐きながら手の重みで頭を下げ、アゴを胸に近づけて10秒。
息を吸いながらアゴをゆっくりと上げ、息を吐きながら首を後ろへ倒して10秒。

筋肉を無理しない程度にストレッチさせるとよい(画像はイメージ)

クラッキングと呼ばれる首や指がポキポキ音が鳴る行為は、体に悪影響を与える可能性があることが分かった。

特に首は、音を鳴らそうと頸椎を急に動かすことで危険な場合があるので、鳴らすことが癖になってしまっている人は意識的に減らす努力から始めるのがいいかもしれない。そして適度な運動、姿勢を意識するなどして、日々の生活で首や肩がこらないように気を付けることも大事だろう。
 

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