シリーズ「いのちを守る」。今回は、新型コロナウイルスの重症患者の治療に使用されている、人工心肺装置「ECMO(エクモ)」について。
取り扱いが難しく、事前の研修が欠かせない「ECMO」。宮城県内では、研修に必要な機材が足りていないという現状がある。

コロナ禍で「究極の対症療法」「最後の切り札」といわれるECMO

2021年2月2日午後、仙台市青葉区で東北大学が開いた記者会見。
県内でより多くの医療従事者がECMOを取り扱えるよう、研修用機器の購入資金を募るクラウドファンディングの立ち上げを発表した。

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東北大学大学院医学系研究科 八重樫伸生 科長:
所有しているシミュレーターでは、最新の医療に対応できない、十分な機能を発揮できなくなっている。最新の医療を学ぶためのシミュレーター・医療機器を購入したい

ECMOとは人間の肺の機能の代わりとなる装置で、人工呼吸器だけでは生命の維持が難しい重症患者に使用される。

肺機能が低下し、酸素が不足した患者の血液を一度、体の外に取り出し、装置の中で血液に酸素を与えて再び体に戻す作業を連続して行う。そうすることでECMOを使用している間、患者は自分の肺をほとんど使わずに済むため、肺を休めることができ、肺機能の改善につながる。

これは、2021年1月、東北大学病院が撮影したICU・集中治療室の様子。
この患者は新型コロナウイルスに感染し、肺機能が低下する重症となり、ECMOによる治療を受けることになった。

全国の専門医が参加し、ECMO治療に関するデータをまとめている「ECMOnet(エクモネット)」によると、2020年2月以降、命の危険がある重篤な新型コロナ患者にECMOを使用した結果、約67%の患者が一命をとりとめた。
「究極の対症療法」「最後の切り札」ともいわれるECMO。
しかし、一方で、様々な合併症を引き起こす恐れがあるなど、管理が難しく、実際に扱える医療従事者は少ないのが現状だ。

東北大学病院 集中治療部 斎​藤浩二 部長:
ECMOを使う際、一番大事なのが血液が固まらないようにすることです。

血液というのは異物、体の中と違うものに触れると固まってしまうので、それを固まらなくするように薬を使って血液をサラサラにするわけです。

それで体の外を、機械を使って血液を回すことが可能になるわけですけれども、薬を使うことで一般的に出てくる懸念が「出血」です。管を入れたところであったり胃とか腸であったり、頭とかそういうところに出血をしてしまう。

血液を固まらなくさせる薬を出血が怖いからといって減らしてしまうと、今度は血の塊ができてしまう。送るところに血栓ができてしまうと肺に詰まってしまいます。そういった心配もある。

機械さえあれば誰でもできるものでもありませんので、導入する場合には必ず研修など、学習が医療従事者には必要になってくると思います

クラウドファンディングでECMOの研修を強化したい

最前線に立つ医師もその必要性を語る、ECMOの研修。
東北大学は、2020年12月から宮城県内の医療従事者などに対し、新型コロナウイルスへの対応を教えるセミナーを開講。今後、ECMOの研修も行っていく予定だ。

しかし、大学が所有する研修に必要なシミュレーターは、10年前と7年前に購入した2台のみ。終息の見通しが立たない今、ECMOを使用できる医療従事者を一人でも多く養成するため、シミュレーターの増強が急務となっているという。シミュレーターは1台約1500万円と高額だが、国や自治体の補助はない。

東北大学大学院医学系研究科 八重樫伸生 科長:
ECMOのような、高度医療を担える医者・看護師はあちこちにいない。そういう人たちが疲弊してダウンしてしまう前に、次々とチームを用意しておかないと持続しない。今の医療体制を持続するためには、次から次へと若手、新しい方をトレーニングして、チームに入れていかないと、医療が最終的に崩壊する。助けられる人が助けられなくなる

新型コロナウイルスからいのちを守るために。未来も見据えた備えが問われている。

東北大学大学院医学系研究科 八重樫伸生 科長:
今だったら間に合う。1年後にこれを言っていても難しいかもしれない。このタイミングで、ECMO研修にぜひ投資していただく。将来・自分・周りの方のために、ぜひ考えていただきたい

東北大学の斎藤医師も新型コロナの感染が広がるまで、ECMOの治療経験は「数えるほどしかなかった」という。ECMO研修のクラウドファンディングは、2021年4月末まで「東北大学クリニカル・スキルスラボ」のホームページから参加できる。

(仙台放送)

仙台放送
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