テレビ東京のニュース番組「ワールドビジネスサテライト(以下WBS)」でキャスターがマスクを着用していることが話題になっている。テレビ東京によると視聴者から寄せられた声の8割が賛同の意見だが、一方で聴覚障がい者はどうみているのか。取材した。

キャスターのマスク着用に賛同8割

テレビ東京のWBSでは1月18日の放送から、キャスター同士がトークをする際などにマスクを着用することにした。この対応について番組のHPでは、視聴者からの反響について次のようなコメントを掲載している。

番組のSNSや視聴者センターには賛否に関して合計で1012件のご意見を頂き(1月26日時点)、80.0%が賛同のご意見でしたが、「そこまでやらなくてもいいのではないか」「表情が見えない」「(聴覚障害者の方から)口元が読み取れなくなって困る。字幕をつけてほしい」といったご指摘も頂戴いたしました。

そしてWBSでは今後の対応として「マスクの着用は継続させていただきますが、字幕に関しては早急に対応をしていきたいと考えています」とした。

「マスク着用では何も伝わらなかった」

ではキャスターのマスク着用を聴覚障がい者はどうみているのか?

聴覚に障がいのあるユニバーサルデザインアドバイザーの松森果林さん。ダイアログ・イン・サイレンス(※)のアテンドスタッフのほか、コロナ禍の子どもたちに伝えることの大切さを教える小学校への出張授業も行っている。

(※)音の無い世界を通じて聴覚に障がいのある人の日常を体験するエンタテインメント

松森さんは番組をみていて「番組は字幕放送の対象ではないので、マスクを着けていると何も伝わってこなかった」という。

そしてこれを機に他局も“右へ倣え”と始まることを危惧するという松森さんは、「そうではなくまずそれが本当によいのかどうか“対話のきっかけ”にしてほしいです」と訴える。

松森果林さん「マスク着用が本当によいのかどうか“対話”してほしい」
この記事の画像(4枚)

「視聴者の反応は『安心感がある』、『他局もやるべき』、『表情が見えない』などさまざまだと思いますが、それを対話のきっかけとして、聴覚に障がいのある人もわかるような代替方法、たとえば手話通訳や字幕を考えてみてはどうでしょう。それこそ番組の中で“マスク”をテーマに対話してみれば、もっと良いアイデアがでるかもしれません。正解はないので対話のきっかけのひとつにできたらいいなと思います」(松森さん)

字幕・手話通訳にマスクの下の表情を

WBSでは今後字幕対応を急ぐという。

松森さんは「字幕や手話通訳のほか、キャスターが表情や身体で伝える力を持てるとよいのでしょうね」と語る。

「ニュース番組のキャスターは感情をあまり面に出さないようにしているそうですが、ダイアログ・イン・サイレンスのアテンド達は『こちらは』と案内するとき指先まで気持ちを込めて『こちらは』とご案内します。私たちは指先一本でだれかを案内することができるし、表情一つで話題が変わったことを伝えられます」

松森さんはマスクの下の表情が大切だという。

「外国のニュースをみていると、言葉は分からなくても顔の表情で伝わることもあります。“想いを言葉に乗せる”という言葉がありますが、マスクに隠れていても想いを表情で見せてほしいですね」

「マスクの下の表情が大切」だと松森さんは語る

国会の字幕放送は中継開始から66年後

コロナ禍のいま政府や各自治体の会見には、手話通訳や字幕が付与されるようになってきた。

松森さんも「聴覚に障がいがある私たちも国民の1人として情報を享受でき、社会参加の一つにつながったと感じる」とこの対応を評価する。

衆議院によると国会のテレビ中継は1952年11月から始まった。初めて字幕が付与されたのはその66年後、2018年10月24日の臨時国会の首相の所信表明演説だった。しかしこれは事前の原稿があるから対応できたことなので、予算審議などには基本的に字幕は付与されない。(NHKによると、新型コロナウイルス関連の委員会の場合は字幕を付与する場合があるとのこと)

一方インターネット中継では、今年1月18日、参議院における姿勢方針演説、所信表明演説、各会派の代表質問の際に手話通訳がついた。

聴覚障がい者の間では高く評価する声がある一方、手話を理解できない人からは「字幕も必要だ」との声も上がっているという。

誰も置いてきぼりにしない記者会見とは

ダイアログ・イン・サイレンスを開催しているダイアローグ・ジャパン・ソサエティ理事の志村真介氏はこう語る。

「記者会見がテレビに映る場合は手話通訳士が一緒に映らないことが多いです。ですから今後もし許されるのであれば、会見者と一緒に画面の中に入れて中継して頂ければ、わざわざ手話通訳をワイプを切って入れなくてもいいと思うのです」

ダイアローグでは記者会見をリアルとオンラインの両方で行っており、今月2日に厚生労働省内で行った会見では聴覚障がい者の情報保障として、手話通訳と音声を文字化するアプリを使用していた。当日会見者の中に松森さんがいたが、そのように聴覚障がい者が会見にいる際はもう1人の手話通訳士が控え、会見者に通訳を行うことにしている。

厚労省で行われたダイアローグの“誰も置いてきぼりにしない”記者会見 手話通訳士が2人いる(2月2日筆者撮影)

こうしたかたちの会見をダイアローグでは、「聞こえない人たちが望む“誰も置いてきぼりにしない”記者会見」だという。

松森さんは「手話や字幕がついても伝わってこない話もある」という。

「会見の中ではマスクをしてずっと下を見て話す方もいて、その場合は言葉から想いが伝わってきませんね」

マスク着用が義務づけられる世界では、リアルでもテレビやネットでもマスクの下の表情を意識することが大切なのだ。

筆者からテレビ東京広報には「WBSの字幕対応はいつから開始する予定ですか」「WBSでは手話通訳対応を行う予定はありますか」「WBSではキャスターのマスク着用をいつまでつづける予定ですか」との質問をメールしたが、「現在HPに掲載している通りとなります」との回答だった。

(関連記事:「マスクの下の表情をさぼらないで!」聴覚障がい者が訴える緊急事態宣言の今こそ必要な5つの提案

【執筆:フジテレビ 解説委員 鈴木款】