食パンにのせて焼くだけで簡単に”小倉バタートースト”を作れる和菓子「スライスようかん」。この製造工程で「まさか手作業だったとは」と驚いてしまう様子を収めた動画が、Twitterに投稿され、注目を集めている。
それがこちら。
絶賛スライス中。#スライスようかんCACAO pic.twitter.com/FLskYzTIlz
— 亀屋良長 吉村良和 (@yoshimura0303) January 16, 2021
絶賛スライス中。
#スライスようかんCACAO
投稿したのは、創業1803年の京都の和菓子店「亀屋良長」の店主・吉村良和さん(@yoshimura0303)。
このコメントと共に投稿された動画に映っているのは、ブロック状のようかんを手作業でスライスしていく様子だ。厚さを揃えるために両横に薄い金属を重ね、画像の手前から奥へとピアノ線を引くといった、同じ動作を何度も繰り返している。

この1枚1枚を手作業でスライスする動画に、Twitterユーザーからは「感動です」「次から心して食します」「高級品だと思ってましたが、手作業のお値段でしたか…」といった感動のコメントが寄せられていた。

「スライスようかん」とは、薄いシート状にしたようかんの上にバターとケシの実を乗せた和菓子商品。食パンにのせて焼くだけで、簡単に”小倉バタートースト”が出来上がる。
亀屋良長本店、亀屋良長のオンラインショップ、京都の百貨店など(緊急事態宣言中、京都以外の一部の百貨店でも販売)で、1袋2枚入り540円(税込み)で購入することができる。

ちなみに、投稿された動画でスライスされているようかんをよく見ると、2色に分かれていることに気付いただろうか?
実は、こちらは期間限定の「スライスようかん CACAO」で、小豆の粒あんようかんとカカオようかんを半分ずつに合わせた商品なのだ。1月~3月末までの販売予定で、594円(税込み)となっている。

新しい形の和菓子商品「スライスようかん」だが、まさか手作業で1枚1枚スライスされていたとは…手間がとてもかかっている。
しかし機械技術が発達した今、なぜ手作業でスライスをしているのだろうか? 亀屋良長の女将・吉村由依⼦さんに話を聞いてみた。
朝食時の面倒な作業から誕生
ーーそもそも「スライスようかん」はどのような経緯で誕生した?
きっかけは、2人の息子(当時13歳、7歳)の朝食用にパンを焼いていたところ、辛党の長男はスライスチーズを、甘党の次男にはあんこを塗って欲しいと言われました。冷めたあんこは固くて、なかなか上手く塗れず、正直「めんどくさいなあ」と感じていました。
かたや、長男のスライスチーズはのせて焼くだけで、「考えた人すごいなぁ」と思いました。「スライスチーズのように簡単なあんこができないかな」と思ったのが最初です。
ーーどうやって「スライスようかん」は作っているの?
「スライスようかん(小倉バター)」は、ようかんを炊いて、型に入れて固めて、あとはピアノ線で一枚ずつスライスしています。
「スライスようかん CACAO」も基本的には同じように作られていますが、こちらはようかんを2層にして型に流しています。1層目を流して少し固まってきたところに、2層目をそっと流すことで2層がくっつきます(和菓子ではよく使う技法です)。あとは、同じように固まってからスライスしていきます。

ーーこだわりの部分は?
あんこには、風味の良い丹波大納言小豆を使っています。丹波大納言小豆は大粒で、主に粒の形をしっかり残す粒あんに使われます。
「スライスようかん」は、薄くスライスするため炊いた粒餡をミルにかけて潰してしまうので、正直もったいないです。しかし、他の小豆でも試作をしたのですが、やはり丹波大納言小豆がおいしかったので使っています。上にのっているバターも、バターようかんになっており、沖縄の塩をきかせ、味のアクセントになっています。
また「スライスようかん CACAO」で使用しているカカオは、ダンデライオンチョコレートのインド産カカオを使っています。インド産のカカオ豆は酸味が強く、フルーティーなのが特徴です。濃厚なカカオの香りがありつつ、爽やかな酸味でパンに合うカカオようかんができました。

機械も何度か試作したが、結局手作業になった
ーースライスする厚さはどれくらい?
1枚の厚さは2.5ミリです。ひとかたまりのようかんで100枚でき、日によりますが1日大体400〜600枚程度スライスしています。
2ミリ、2.5ミリ、3.1ミリで試作したのですが、2ミリでは薄くて小豆の味がしない。3.1ミリでは分厚くて、溶けきらずパンと密着しないため、間の2.5ミリがちょうどよかったです。
ーーなぜ手作業でスライスしているの?
機械も何度か試作したのですが、想像していたようにはうまくいかず、結局、手作業ということになりました。

ーー機械でうまくいかなかった理由は?
うまくいかなかったのは、1ブロックを一気に15枚位切れるよう、ワイヤーを並べたスライサー器具を作ったのですが、ようかんは重量があるためかワイヤーが伸びたり、切れたりで、平行に引けませんでした。ワイヤーの素材を変えてみたりしましたが、同じ感じでした。また、器具の掃除がかなり大変で、衛生面からも厳しいとなりました。
ーーしかし手作業だと大変だと思うが…?
作業を覚えていくと、身体が勝手に動くようになります。そうなると楽しくなってきます(職人談)。
従来のようかんの500倍の売上
ーー現在の「スライスようかん」の反響は?
販売から2年4カ月ほどになります。累計販売数は12万袋となり、従来のようかんの500倍くらいの売上になっています。
お客様からは、美味しかったからとリピーターになってくださる方や、京都に来たら買ってくるよう頼まれた、とたくさん買って帰ってくださる方など嬉しいお声を聞いています。

ーー反響に対してはどう感じている?
本当にびっくりしています。最初は半分冗談のような気持ちで販売し始めたので、こんなに売れるとは思っていませんでした。今までは、和菓子好きの方へしかアプローチできていなかったのが、この商品で、パン好きの方や主婦の方など、より広い方に触れていただくことができたのがよかったです。
ーーおすすめの食べ方を教えて。
食パンにのせて、一緒にトースターで焼いてください。パンが狐色になり、ようかんが溶けて少しクツクツするくらいがおすすめです。焼き立ては非常に熱いので、やけどにはご注意くださいませ。他には、イチゴやバナナなど、フレッシュフルーツと合わせてもおいしいです。

機械でできないかと試行錯誤したそうだが、こだわりの薄さにスライスするためには、手作業が一番という結論になったとのことだ。
素人からすると大変そうに思えるが、繊細な和菓子を常に作っている職人からすると楽しい作業となるようだ。
1枚1枚手作業で作られた繊細な「スライスようかん」。その薄さの中に職人のこだわりを殊更に感じられることだろう。
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