12月特集は「こんなはずじゃなかった…コロナの1年」。新型コロナウイルスの感染拡大でさまざまな業界が打撃を受けているが、特に心配されるのが飲食業界への影響だろう。

外出自粛などで客の数は減っていると思われ、さらに客や従業員が感染しようものなら、店のイメージダウンは避けられない。帝国データバンクの調査では、2020年度上半期(4月~9月)の飲食店事業者の倒産は392件で、上半期ベースだと過去最多の倒産件数だという。

飲食店の倒産推移(提供:帝国データバンク)
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今回は、開業の準備がたまたまこのタイミングにあたってしまい、様々なことに翻弄されながらも、前を向いて開業した飲食店があることをご紹介したい。

身動きできない…コロナ禍が開業準備を直撃

それが、群馬・藤岡市にある「IL MONDO」(イルモンド)。イタリアの都市・ベネチアの酒場をイメージした飲食店で、地元出身の店主・山口昂良さん、妻・優希さんが夫婦で切り盛りして、イタリアンや世界の酒などを提供している。

群馬・藤岡市に店を構えるIL MONDO(提供:昂良さん)
IL MONDOの店内(提供:昂良さん)

オープンしたのは2020年7月9日だが、実は当初の開業予定は5月初頭。コロナ禍の影響で内装工事や厨房設備などが整備できず、身動きできない状況が約2カ月も続いた。さらに、開業して間もないという理由から、政府による事業者の支援制度はすべて対象外となったという。

内装工事途中の店内(提供:昂良さん)

ここで助けとなったのが、人々の善意だった。昂良さんは「IL MONDO」の開業にクラウドファンディングサイトの「READYFOR」を活用していて、開業資金約800万円のうち、150万円を寄付として集めることができていた。

このサイトでは目標金額を達成すると、条件付きで次の目標金額を設定できることから、昂良さんは難しいと思いつつも実情をつづったところ、追加で約100万円の寄付が寄せられたという。

クラウドファンディングのページ。写真は昂良さん(左)と優希さん

こうした支えで営業できているというが、コロナ禍での開業には予期せぬ苦労も多かったはずだ。昂良さんにお話を伺った。

メニューも決められず「こんなはずじゃ…」

ーー「IL MONDO」を開業した経緯を教えて

2017年から2018年にかけて、妻との新婚旅行で世界一周をしたとき、ベネチアを訪れたのがきっかけです。ベネチアでは人々が酒場で交流する「バーカロ」という食文化があります。私は地元に貢献したいという思いで、教員を目指していたのですが、この文化を地元に作りたい思いが芽生えて、飲食店の開業を目指すことにしました。

ベネチアのバーカロ(提供:昂良さん)

ーーなぜコロナ禍のタイミングで開業した?

実は開業を決めたときは、新型コロナが広がる前でした。働いて開業資金を貯め、2019年11月には物件選びなどの準備をしました。お店は賃貸契約で、2020年2月から家賃が発生するので、早期開店のために退職もしたのですが、年明けから急にコロナが騒がれはじめて…。

緊急事態宣言などで外出も難しくなり、内装工事もできなければ、食材の仕入れの相談もできず、メニューも決められない状況でした。お店は本当にオープンできるか分かりませんし、家賃は毎月出ていきます。本当にこんなはずじゃなかった…という感じでした。

IL MONDOの店内(提供:昂良さん)

ーー特につらかったこと、悩んだことは?

7月にオープンできましたが、当時は感染者数も増え始め、収束に数年かかるという話もあったので、そもそも飲食店を開いていいのかすごく悩みました。クラウドファンディングでも「このご時世でやるのか」などのご意見をいただき、心にグサッとくることもありました。

お金の面だと、政府の支援事業の対象外となったことはつらかったですね。自分たちも目に見えない形でコロナの損害を受けているのに…と思ってしまいました。
 

ーー開業までの支えになったことは?

応援してくれる人たちの励ましです。それがなかったら心が折れていた
と思います。クラウドファンディングでも応援をいただきましたし、内装工事が進まないことを知り、お店の開店準備を手伝いに来てくれた人もいました。この期待に応えなければいけない、コロナに負けちゃいけないと思ったんです。私たち夫婦ではどうにもならない状況を、色んな人が支えてくれました。

コロナ禍で店舗の内装工事にも苦労(提供:昂良さん)

オープンしても1~2カ月は客が全然来ない日々…

ーーコロナ禍での営業はどんな感じ?

覚悟はしていましたが、オープンして1~2カ月は人が全然来ませんでした、多くても1日2人程度が続いた時期もあり、このままで大丈夫なのかと不安に押しつぶされそうでした。ただ、11月ごろから少しずつ人が来てくれるようになりました。現状、最悪の事態になってはいません。
 

アニメ「ルパン三世」に出てくるスパゲティをイメージした料理は人気メニュー(提供:昂良さん)

ーーコロナ禍の営業で工夫していることは?

感染予防対策を徹底しつつ、お客さんが楽しめる場所にすることですね。密にならないよう、座席は通常の半分(約11席)にしていますし、アルコール消毒、換気なども徹底しています。お客さんも少人数で楽しんでくれる人が多いです。バーカロのように人同士が仲良くなれる空間を作りたいので、感染予防対策をを徹底した上で、交流できる場所にできればと考えています。


ーー営業の助けとなったことはある?

世界一周の最中、群馬県のマスコットキャラクター「ぐんまちゃん」が世界旅行をしているような形で、インスタグラムで情報発信していたのですが、それを見ていた人が来てくれたり、旅をお店のコンセプトにしていることをネットで調べて、来てくれる人もいました。

グルメサイトのGoToイートキャンペーンに登録していたのですが、そちらにも助けられました。コロナ禍でそもそも開業を知らなかった人も多かったのですが、口コミで存在が広がり、リピーターになってくれる人もいました。

昂良さんのインスタグラムより

当たり前のことが幸せと気付いた

ーーコロナ禍を経験して変化はあった?

世界中が大変な思いをしていますが、コロナ禍では人と居られる時間が制限されたり、会える機会が少なくなったと感じています。僕個人の勝手な意見ですが、これまで当たり前だった、外食でご飯を食べたり、仲のいい人と話せることが幸せなことだったんだなと。それができることに感謝の気持ちを持たなければいけないと、実感した年でした。


ーーお店の今後の目標は?

楽しかったことやうれしかったことを共有できる、心のよりどころ、ぬくもりのある場所にしていきたいですね。地元に貢献したい思いでお店を開いたので、飲食できるだけではなく、お客さんの人生を豊かにしたいと思います。それは、多くの人たちに支援をいただいた、僕の義務でもあると思います。地元の方々に愛されるお店を目指したいですね。

外食できることが幸せなことだったと気づいたという(提供:昂良さん)

現在はまた感染者数が増え、飲食店への時短要請をする地域も出ている。「IL MONDO」でも今後の状況次第では、テイクアウトを始めるなどの対応も検討しているとのことだ。

コロナ禍が開業を直撃し、座席数を半分にするなど今なお想定と違う状況は続いているが、山口さん夫婦は、同時に外食できること、他の人と語り合えることのありがたみを再認識したとも語る。飲食業界は厳しい状況が続くだろうが、感染が早く収束して、以前のようなにぎわいを取り戻すことを願いたい。
 

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