中国当局が人権派弁護士らに外出制限

12月9日、中国当局は人権派弁護士らに対し、ある厳しい措置を取った。それは外出を制限し、自宅で事実上の軟禁状態に置くものだ。

人権派弁護士として活動してきた人たちの家族のSNS 上には当局関係者が自宅を訪れ、外出を制限する様子を撮影した映像が相次いで投稿された。

当局によるこうした措置を受けた1人が人権派弁護士として活動してきた王全璋さんだ。王さんの妻・李文足さんがSNSに投稿した映像には、住宅に押しかけ外出するのをふさぐように立つ男性らの姿が生々しく映し出されていた。

住人が「あなたたちは何者ですか」と尋ねても、「あなたと話すことはありません」と自分たちの身元は明らかにしない。

外出を制限する当局関係者ら(2020年12月9日朝、李文足さんのSNSより)
外出を制限する当局関係者ら(2020年12月9日朝、李文足さんのSNSより)
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別の映像では、住宅に上がり込み、家族に外出の制限を告げている当局関係者の姿も見られた。

防犯カメラにテープが貼られる直前の様子(2020年12月9日朝、李文足さんのSNSより)
防犯カメラにテープが貼られる直前の様子(2020年12月9日朝、李文足さんのSNSより)

また、住人が設置した防犯カメラの映像には、撮影を妨害するため、事前にカメラのレンズにテープを貼る人物の姿も確認できる。

防犯カメラにテープが貼られる様子(2020年12月9日朝、李文足さんのSNSより)
防犯カメラにテープが貼られる様子(2020年12月9日朝、李文足さんのSNSより)

王さんは2015年7月以降、中国当局に一斉拘束された300人以上の人権派弁護士の1人だ。裁判が開かれないまま3年以上も拘束され、家族は安否も知らされないままだった。王さんは取り調べで拷問を受けたり、罪を認めるよう強要されたという。

FNNの取材に応じる王全璋さん(2020年12月9日)
FNNの取材に応じる王全璋さん(2020年12月9日)

王さんの妻・李文足さんは王さんに対する長期拘束に抗議し、頭を丸刈りにして釈放を訴えた。

王さんの妻・李文足さん(2019年1月)
王さんの妻・李文足さん(2019年1月)

しかし、王さんは国家政権転覆罪で懲役4年6カ月の実刑判決を受けて山東省の刑務所で服役。2020年4月に出所した後も、新型コロナウイルス対策を理由に、すぐには家族が待つ北京に戻ることは許されず当局の監視下に置かれた。その後、家族と約5年ぶりに再会した王さんは、現在北京の自宅で妻と7歳の息子ら家族と共に生活している。

また、取り調べの際に受けた拷問などをめぐり、担当した警察官らに対する告訴状を検察に送るなど訴えを起こしている。王さんはFNNの取材に対し、当局による外出制限の実態について語った。 

「2~3日外出できない」制限の実態

「私が知っている限り友人の3~4人が同様の状況に置かれている。その中には2人の弁護士が含まれる」

外出制限が複数の友人にも及んでいると話す王さん。自宅で異変があったのは9日朝6時頃のことだ。呼び鈴が鳴りドアを開けるとそこには見知らぬ数人の集団が立っていた。外に出られないように立ちふさがり、王さんに対し、一方的に手振りで家の中に入るように促した。「何をしているのですか」と尋ねても、答えは一切返ってこなかった。

王さんは、別の警察官に電話をかけて、「何が起きているのですか」と尋ねた。以前、監視下に置かれていた山東省から北京の自宅に戻る際、車で王さんを送った人物だ。しばらくすると自宅にその警察官が現れ、「きょうは外出してはいけない。この2~3日は外出できない」と告げられた。

王全璋さんと妻子(2020年4月、北京市内の自宅にて)
王全璋さんと妻子(2020年4月、北京市内の自宅にて)

王さんには小学校に通う息子がいる。また、義理の父親は検査のため病院に通院している。

王さんはこの警察官に対し、息子の登校や肉親の通院の際には外出をさせてほしいと抗議。すると「上司に伝える」と言われ、その後ようやく一時的な外出許可が下りた。しかし、外出の際には必ず当局の関係者が後ろからついてきて目を光らせていたという。

「世界人権デー」に合わせた発信を警戒か

今回、王さんが外出制限の理由を尋ねても、「理由はあなたが知っているだろう」と言われるばかりだった。王さんは、「彼らは私が世界人権デーの関連イベントに参加すると思ったのだろう。それで事前に阻止したのだと思う」と話す。

実は外出制限が始まった翌日の12月10日は国連が定めた「世界人権デー」にあたっていた。

この日は中国でも各国の大使館などで、様々な関連イベントが開催される。中国は新疆ウイグル自治区での人権抑圧などをめぐって、アメリカなど国際社会から批判を受けている。こうした中で、海外メディアにも注目される人権派弁護士らがイベントに参加し、政権批判をしたり、人権擁護などのメッセージを発信することを警戒したものとみられる。

ヨーロッパ各国の大使館が集まる地区の警備の様子(2020年12月10日、北京市内にて)
ヨーロッパ各国の大使館が集まる地区の警備の様子(2020年12月10日、北京市内にて)

実は王さんは「世界人権デー」以外の日にも、外出を妨げられたことがあるという。その日はアメリカの憲法記念日である9月17日で、20人以上もの警察官が自宅を取り巻いた。当時、外出を妨げた警察官は王さんに対し、「あなたとあまり関係がないことは知っている。でも外出してはいけない」と命じたという。

「世界人権デー」当日10日の会見で、中国外務省は国内での人権状況に関して、「中国政府は人権の促進と保護を高度に重視している」と主張。

さらに、「我々は14億人の衣食の問題を解決し、8億5000万人以上の貧困人口を減らし、7億7000万人に雇用を提供し、2億5000万人の高齢者、8500万人の障害者と4300万人以上の都市と農村の最低保障制度の人口に基本的な保障を提供し、世界最大規模の中間所得層を持ち、世界最大規模の教育システム、社会保障システム、医療システム、末端組織の民主選挙システムを構築した」などと自賛した。

中国外務省の会見(2020年12月10日)
中国外務省の会見(2020年12月10日)

一方、外出制限を受けた王さんは、「警察が権力を乱用し、勝手に国民の行動の自由を制限することがますます一般的になっている」と指摘し、「中国国民の行動の自由を制限するのは違法行為であり、非難すべきである」と訴える。

14日現在、「自宅前から当局関係者は去った」と言うが、王さんが中国当局の警戒対象であることに変わりはない。行動の自由を制限される懸念がなくなることを願って、王さんの訴えは今後も続く。

【執筆:FNN北京支局 木村大久】

木村 大久
木村 大久

フジテレビ政治部(防衛省担当)元FNN北京支局