例えば、「宿題を先に終わらせてから遊ぶ」「ゲームをやめて寝る準備をする」「難しい問題でも途中で投げ出さない」といった行動は、実行機能が働いている例です。
これも繰り返しになりますが、私たちの研究(※3)では、幼児期に実行機能が高かった子どもは、小学1年生、3年生、6年生における国語と算数のテストの成績が高い傾向が見られました。
実際に、ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンさんが、幼少期にハイスコープカリキュラムを受けた子どもを55歳まで追跡調査した研究(※4)では、実行機能を測る課題の成績が高い傾向が示されました。
ちなみにヘックマンさんの研究を紹介した文章などでは「非認知能力」という言葉を使われることが多くあります。多くの研究者の間では、非認知能力という広い概念の中でも、特にその土台となる能力が実行機能であると考えられています。
大事なのは子どもの自発性と主体性
ここまで読んで、「ハイスコープカリキュラムでもナーサリースクールでも実行機能が育まれるのであれば、とりあえず教員主導のダイレクトインストラクションのような先取り教育を避けさえすればいい」。
さらに言えば、「費用の面などを考えるとナーサリースクールのような保育園に預ければ、それで事足りる」と考える人もいるでしょう。
確かに前出の研究でも「ハイスコープカリキュラムと伝統的なナーサリースクールの長期的な効果について、一貫してどちらが優れているとは言えない」と書かれています。大事なことは「どれくらい、子どもが自発的・主体的に活動できるか」という点です。
実際、我々の日本での調査(※5)でも、保育者が「子ども中心の関わり」をしているほど、子どもの社会情動的スキルが高いことが分かっています。幼稚園・保育園といった施設の形態に関わらず「その園が子どもの自発性・主体性を大事にしているかどうか」ということは押さえておいてもよいかもしれません。
中道圭人
千葉大学大学院教育学研究院 教授
主な共著書に『幼児の演繹推論とその発達的変化』(風間書房)、『教育職・心理職のための発達心理学』(ナカニシヤ出版)、『よくわかる教育心理学』(ミネルヴァ書房)など多数。
※1)Schweinhart, L. J., (2005). The High/Scope Perry preschool study through age40.High/Scope Press.
※2)Schweinhart, L. J., Weikart, D. P., & Larner, M. B.(1986). Consequences of three
preschool curriculum models through age 15. Early Childhood Research
Quarterly, 1, 15-45.
※3)中道直子・中道圭人・中澤 潤 (2023). 幼児期の実行機能が児童期の学業達成に及ぼす影響. 保育学研究, 61 (2), 7-17
※4)Heckman, J. J., & Karapakula, G. (2019). The Perry preschoolers at late midlife: A study in design-specific inference (Working papers(www.nber.org) No. 25888).National Bureau of Economic Research.
※5)Nakamichi, K., Takahashi, M., Sunagami, F., & Iwata, M. (2022). The relationship between child-centered teaching attitudes in childcare centers and the socio-emotional development of Japanese toddlers. Early Childhood Research Quarterly, 59, 162-171.

