新米が、去年よりも大幅に安い価格で店頭に並べられている。消費者は歓迎するが、農家の事情はまったく逆だ。JAから農家に前払いされる内金は去年から大幅に下落し、国が示す生産コストの指標を大きく下回る水準に落ち込んでいる。コメ価格の乱高下は、生産現場にどのような影響を与えているのか。2年前、コメ価格の上昇を機に1500万円のコンバインを購入した農家を取材した。
店頭価格が下がり消費者は歓迎も…農家は苦悩
8月下旬。黄金色に実った福井県産米「シャインパール」を、コンバインが刈り取っていく。福井市東部の田園地帯、岡保地区では今年も稲刈りの時期を迎えていた。
一方その頃、コメ売り場では新米の価格に明確な変化が起きていた。福井市内のスーパーでは、早生のハナエチゼンの新米が10キロ5480円と、去年から約3割、額にして2400円値を下げていたのだ。
物価高が続く中、家計にとっては助かるコメの値下がりが、農家にとっては苦境となっている。
集荷の際にJAが農家に前払いするハナエチゼンの今年の「内金」は、60キロあたり1万6000円。去年よりも1万2000円下落した。一方で、国の制度に基づいて公表された今年の生産コスト指標は60キロあたり2万535円と、内金を大幅に上回っている。
内金は最終的な手取りではないが、農家が経営計画を立てる上で重要な数字だ。
岡保地区の農事組合法人「こうすい」の吉田優一郎さんは「国は、生産コスト指標を出すのなら、所得補償をするなどちゃんと担保しないと。コメの生産費は2万535円だといいながら、あとは何もしない」と憤る。
「財源ができた」ようやく機械を更新
広い田んぼでのコメ作りには大型機械が欠かせない。しかし機械は高価で、その更新には安定した収入の見通しが不可欠だ。
2年前、いわゆる「令和の米騒動」とも呼ばれたコメ不足を背景に、農家への支払い価格は急上昇した。しかし当時、吉田さんは「コメの売り上げ金は15、16年ずっと変わらない中で、生産費、資材費が2割から3割上がり経営が圧迫されていた」と手放しでは喜べない状況を語っていた。
生産コストが上がり、売り上げが増えない中、長年にわたって老朽化した機械を修理しながら使い続けていたが「大事に使っていても不具合が出て、修理しながらだと作業できない日が結構あった」という。
こうした中で、2年前にようやくコメ価格が上がり収入が増えたことで、長年先送りにしてきた機械の更新が実現したのだ。
「財源ができるわけだから、これはありがたいということで」吉田さんは1500万円のコンバインを購入した。
次の投資を阻むコメ価格の乱高下
現在、吉田さんはコンバインを2台所有している。このうち、2年前に更新していない“古株”は8年目を迎えた。

「10年経っても全然更新できなかったし、10年たってようやく中古を買っていた。これはもう8年使っているので、あと2年ぐらいで入れ替えて、気持ちよく作業したいが…」
次の買い替えまであと2年。その判断材料となるのが、今後の所得の見通しだ。
しかし今年、農家に提示されたのは内金の大幅値下げ。毎年のように価格が乱高下すれば、設備投資の計画も立たず、農業を継続していく可能性も揺らぐことになる。
「計画、予定が立てられる経営状況を願っている。JA(農協)の存在は大きいんですよ。価格形成のリーダーシップを取って欲しい」(吉田さん)
担い手不足の問題もある中で、田んぼを引き受けていくには機械は欠かせない。コメの価格は、そうした農業を続ける土台ともなることを考えなければならない。

