「令和の米騒動」から3度目の夏。去年は集荷競争で高騰したコメの内金(概算金)が、一転して大幅下落した。JA福井県が示した2026年産の内金は、60キロあたりハナエチゼン1万6000円、コシヒカリ1万7000円。前年から実に1万2000円の下落だ。
背景にあるのは全国的な「コメ余り」。生産コストを大きく下回る価格に、農家からは「赤字どころか廃業も考える」との声が上がる一方、消費者には値下がりへの期待も広がる。農家は今後の経営を見通せないまま新米の収穫を始めている。
乱高下するコメの内金、今年は大幅下落
JA福井県は8月13日に臨時理事会を開き、2026年産米を集荷する際に農家に前払いする「内金(概算金)」を発表した。60キロあたりの金額は、すでに収穫が始まっている早生品種・ハナエチゼンが1万6000円(前年から1万2000円減)、コシヒカリが1万7000円(前年から1万2000円減)、いちほまれが1万8000円(前年から1万2400円減)と決定した。
ここ数年の内金の推移をみると、その落差がよく分かる。コシヒカリとハナエチゼンはともに2022年に1万円前後の水準にあったが、その後じわじわと上昇。「令和の米騒動」とも呼ばれコメ不足の影響が直撃した2025年には、ハナエチゼンが2万8000円、コシヒカリが2万9000円にまで跳ね上がった。それが今年は一気に反転。わずか1年で1万2000円もの急落となった。
値下げ幅の大きさについて記者から問われたJA福井県農業戦略部の斉藤史憲部長は、「去年は値上げ幅が大きかったから、今年の値下げ幅が大きい。ただそれだけ」とした。
ただ、生産コストが上昇する中で、この内金の大幅な下落が農家に与える衝撃は小さくない。
在庫の3分の1が引き渡し前のまま「コメ余り」の実態
内金が急落した背景にあるのは、全国的な「コメ余り」だ。JA福井県によると、2025年産米の在庫がいまなお積み上がっており、約3分の1が卸売業者への引き渡し前の状態で倉庫に残っているという。多くは販売先こそ決まっているものの、市場が飽和状態で引き渡しのタイミングが例年より遅れている状況だ。
斉藤部長は「民間備蓄がかなりあるということで、厳しい状況と判断して内金を設定した。(農家への)追加払いも視野に、対応していく」と説明した。
去年のコメ不足で販売価格が上昇したことで需要が落ち、流通業者が在庫を抱えるようになったのが現状だ。
「早くやめたほうがいい」農家の本音
内金の急落を受け、農家からは苦悩の声が漏れる。福井市の大規模農家、白井清志さんは「ハナエチゼンの生産コストは2万3000円以上かかっている。この原価を考えた場合に、1万6000円という内金は、農家にしてみれば大変な赤字」
白井さんはさらに踏み込んで言葉を続ける。「現状では、おそらくもう(コメ作りを)やめたほうがいい。早くやめたほうが勝ちや…来年こういう状況になれば、すぐやめます、私は」
生産コストが2万3000円を超える中で、受け取る内金が1万6000円では、作れば作るほど損失が積み上がることになる。肥料や燃料などの費用が上昇傾向にある中、受け取る価格だけが大きく下がるという逆風が、農家の経営を直撃している。
内金が下がることは、農家にとっては厳しい局面だが、消費者の立場になれば店頭価格への反映に期待が高まる。
Aコープみゆき店の山上剛店長は「去年よりは明らかに安くなると思う」としたうえで「生産者がおいしいお米を作ってくれたのを精一杯販売していきたい」とした。
現在、店頭では福井県産の2025年産いちほまれ(10キロ)が税込み6458円で販売されていた。ある消費者は「10キロで5000円になれば手に取れるぐらいの価格」と語った。去年のコメ不足で高騰した店頭価格が、今年はどこまで戻るか。消費者は注目している。
農家が減れば将来の食卓に影響
家計にとってコメの値下がりは歓迎すべきことかもしれない。しかし、その先にあるのは、農家の経営を圧迫するという現実。
農家の経営が成り立たなくなれば、稲作をやめる農家が増えかねない。白井さんのような声が現実のものとなれば、今後のコメの生産量に直接的な影響が出る。去年のコメ不足が記憶に新しい中、生産基盤が弱体化すれば、再び同じことが繰り返される懸念がある。
県内トップを切ってハナエチゼンの新米が出荷されるのは8月19日。「令和の米騒動」から3度目の夏を迎えている。

