「彼は大統領の仕事をしたくないのだ。自分の宴会場を造り、ナタリーと一緒に旅行したいだけだ」
民主党のジョン・オソフ上院議員(ジョージア州)が16日の選挙集会で放ったこの一言が、ワシントンで思わぬ波紋を広げている。
「ナタリー」とは、トランプ大統領の側近で大統領付き上級秘書を務めるナタリー・ハープ氏(35)のことだ。金髪に、膝上丈のスカートにピンヒールが目立ち、80歳の大統領のすぐ後ろに控える若い女性である。大統領執務室でも外遊先でも、トランプ氏のすぐそばにいる姿がしばしば写真に収められている。
これにホワイトハウスは敏感に反応した。広報部長はオソフ氏を下品な言葉で罵倒し、トランプ氏自身も、オソフ氏の容姿を米国のコメディー・キャラクターになぞらえ、「ピーウィー・ハーマン」とあざ笑った。
トランプ大統領との“異例な近さ”
なぜ「ナタリー」という一言が、これほど政権の神経を逆なでしたのか。
米ハフポストは、この騒動には「スキャンダルの匂い(Smells Of A Scandal)がする」と伝え、デイリー・ビーストは「ゴシップ」と表現している。
もちろん、トランプ氏とハープ氏に男女関係があることを示す証拠はない。トランプ氏を長年取材してきた評伝作家マイケル・ウォルフ氏も、周辺では性的関係があるとは考えられていないとしている。
それでも2人の関係は、通常の大統領と秘書のそれとはかなり違って見える。
ハープ氏はカリフォルニア出身で、保守系テレビ局OANNの元司会者。骨がんを患った経験があり、トランプ氏が署名した「Right to Try Act(治験薬使用権法)」によって自分の命が救われたとして、2019年ごろからトランプ氏への強い敬愛を公言するようになった。
その後トランプ陣営に入り、第2次政権では大統領の側近となった。トランプ氏が喜びそうなニュース記事などを携帯プリンターで印刷して本人に届けることから、周囲では「Human Printer(人間プリンター)」とも呼ばれている。
しかし、仕事はそれだけではない。議員や政府関係者から大統領への連絡を取り次ぎ、逆にトランプ氏が議員に読ませたい記事やメッセージを送る。SNSのトゥルース・ソーシャルへの投稿にも関与し、いまや大統領に誰を会わせ、どんな情報を見せるかにもかかわる特異な存在になっているという。
その距離の近さを象徴する出来事が、最近のトルコ訪問からの帰国時にあった。
イランによる攻撃の危険があるとして、シークレットサービスはトランプ氏を通常のエアフォース・ワンから秘密裏に別の米空軍機へ乗り換えさせた。国家元首の安全を守るための異例の極秘移動だった。
その際、大統領への同行を許された側近は数人。その一人がハープ氏だった。ルビオ国務長官やベッセント財務長官ら主要閣僚らが別行動となる中、35歳のハープ氏は大統領と行動をともにしたのである。彼女が単なる「秘書」ではないことを物語るエピソードだろう。
ニューヨーク・タイムズのマギー・ハバーマン、ジョナサン・スワン両記者によれば、ハープ氏はトランプ氏に一連の献身的な手紙を書き、「私にとって大切なのは、あなただけです」「あなたに喜びをもたらしたい」「この人生における私の守護者であり、保護者」などと記しているという。
一方のトランプ氏もスタッフに、ハープ氏について「妻や子供たちと同じくらい私を愛している唯一の人だ」と語り、「君たちはいずれ去って金儲けをするだろう。だが彼女は絶対に私を離れない」と話したとされる。
ここにファーストレディー(大統領夫人)のメラニア夫人も登場する。ウォルフ氏によれば、2024年の大統領選挙中、メラニア夫人はハープ氏がいる場には姿を見せたがらなかったという。「ハープ氏はいつもいた。だからメラニア夫人はいなかった」とウォルフ氏は書いている。
もっとも、これはウォルフ氏の取材に基づく主張であり、ホワイトハウスは同氏を「常習的な嘘つき」と呼ぶなど、その信頼性を激しく否定している。
ハープ氏が大統領に捧げる献身
では、なぜハープ氏はここまでトランプ氏に心酔しているのか。そのヒントを語ったのが、現在は妹と疎遠になっている兄プレストン・ハープ氏である。
兄によれば、兄妹は保守的なキリスト教家庭で育てられ、「アメリカ例外主義こそ正しい」「米国は世界のリーダーだ」という価値観を母親から教えられた。
妹がトランプ氏に「心酔」しているのは肉体的な魅力ではなく、トランプ氏が母親から教えられた世界観を体現しているからではないか、と兄はCNNに語っている。
だとすれば、これは恋愛というより「信仰」に近いのかもしれない。ウォルフ氏に語ったトランプ側近の一人も、2人の関係を「キリスト教的な献身関係」と表現している。
しかし問題は、単なる男女のゴシップではない。大統領のそばにほぼ常時一人の人物がいて、記事を選んで渡し、政治家との連絡を取り次ぎ、SNSにも関与し、国家的な緊急避難にまで同行する。そして、その人物が大統領にほとんど無条件の敬愛を抱いている。

恋愛なのかと問えば、その証拠はない。信仰に近い献身なのか、それとも大統領と側近の特殊な依存関係なのか。それも外からは分からない。
ただ、異例なほど密接な2人の関係に加え、「ナタリー」という名前を出された途端に見せたホワイトハウスの過敏な反応をみれば、オソフ氏が政権のあまり触れられたくない場所に手を触れた可能性はある。
スキャンダルと断定するにはまだ早い。だが、何かが「匂う」のである。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

