太平洋に「ゴジラ」が出現したらしい。
といっても映画の話ではない。「ゴジラ・エルニーニョ(Godzilla El Niño)」と呼ばれる巨大な気候現象が、赤道太平洋で急速に発達しているのである。
「異常気象の危険地帯」国連事務総長も警告
世界気象機関(WMO)は3日、2026年春に発生したエルニーニョが今後さらに発達し、年末には「非常に強い」規模に達するとの異例の警告を発した。2027年2月まで続く確率は「ほぼ100%」だという。
赤道太平洋中東部の海面水温はすでに平年を大幅に上回り、一部の海中では平年より8度以上も高い水温が観測された。
国連のグテーレス事務総長も、「エルニーニョがわれわれの目の前で巨大化している。地球は未知の海域に入り、世界は異常気象の危険地帯に入った」と警告した。
そして21日、ハーバード大学の気候・持続可能性研究拠点Salata Instituteも「A super El Niño is starting(スーパー・エルニーニョが始まっている)」と題する分析記事を掲載した。
同大学地球惑星科学科のピーター・ハイバース教授は、今回の現象について「高温化のトレンドの上に異常なエルニーニョが乗る」と指摘し、2027年は「奇妙な年(a weird year)」になる可能性があるという。
そもそもエルニーニョとは、赤道太平洋中部から東部の海面水温が平年より高くなる自然現象で、通常2~7年おきに発生する。
ところが今回は規模が違う。
WMOによれば、広く使われる「Niño3.4」という海域の水温偏差は7月にプラス2.0度、その後一時プラス2.2~2.6度に達した。
WMOの季節予測では、さらに発達すると予想されている。
欧米メディアが使い始めた物騒な名前
こうした極端に強いエルニーニョは「スーパー・エルニーニョ」と俗称される。
さらに欧米メディアが使い始めたのが、もっと物騒な名前だった。
「ゴジラ・エルニーニョ」
ニューヨーク・タイムズも9日、「スーパー・ゴジラ・モンスター・エルニーニョについて聞いたことがありますか?」という刺激的な見出しで今回の現象を取り上げた。
1954年公開の映画『ゴジラ』の怪獣は、水爆実験の影響によって太古の眠りから目覚め、海から現れて東京を襲ったという設定だった。
太平洋の水爆実験を背景に生まれた怪獣なのである。
その太平洋で今度は、海水の異常な高温をエネルギーとして「気候のゴジラ」が巨大化しているというわけだ。
しかも今回のゴジラは、「1000年に一度」の怪物になるかもしれない。
21日付の英紙Guardianは、太平洋のエルニーニョ中心海域の水温偏差が3.05度に達し、2015年の記録をすでに上回ったと報じた。
複数の気候モデルでは、年末に向けてさらに強まると予測されている。
同紙は、今回のエルニーニョが少なくとも過去1000年間で最大規模になる可能性があると伝えている。
もちろん「1000年に一度」とは、1000年ごとに発生するという意味ではない。サンゴなどから復元された過去の気候記録と比べても、それほど異例の規模になる可能性があるということだ。
そこで心配されているのが、世界規模の「大気候災害」である。
エルニーニョは世界の大気循環を変え、ある地域には干ばつを、別の地域には豪雨や洪水をもたらす。そこへ人為的な地球温暖化による高温が重なる。
ハーバード大学の研究者が強調するように、エルニーニョ自体は自然現象だが、今回は「すでに暖められた地球」の上で発生している点が問題なのである。
「気候のゴジラ」が日本に及ぼす影響
日本にとって特に気になるのは台風だろう。
気象庁の1951~2021年の統計では、エルニーニョ発生時には台風の発生位置が通常より南東へずれる傾向があり、夏には台風の寿命が長くなり、最も発達した時の中心気圧も平常時より低くなる傾向が確認されている。
つまり、より南東の海上で生まれた台風が、暖かい海の上を長時間進みながら発達する可能性があるわけだ。
気象庁は9日、エルニーニョが冬まで続く確率を100%とし、監視海域の水温は、これまで最盛期の値が最も高かった1997年12月のプラス3.6度に匹敵するとの予測を発表した。
ただし、エルニーニョが強ければ、日本のどこでいつ豪雨や台風、暖冬が起きるかまで自動的に決まるわけではない。
1000年に一度ともいわれる「気候のゴジラ」は、まだ成長の途中にある。
それが日本列島に何をもたらすのか。
これから発表される気象庁の台風情報や季節予報から、目が離せなくなりそうだ。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

