飼育している犬や猫が過剰な繁殖を繰り返すことで増えすぎ、飼いきれなくなる「多頭飼育崩壊」。
増えすぎた動物が劣悪な環境で生活せざるを得なくなり、悪臭や騒音など周辺にも悪影響を及ぼすなど、社会的な問題となっていて、日本では年間2000件ほどの苦情が寄せられている。

多頭飼育崩壊はなぜ起きるのか?
動物の保護について先進的な取り組みを行っているイギリスの事例を取材すると、従来指摘されてきた「飼い主の高齢化」や「孤立」だけではない、「物価高騰」という新たな要因が背景にあることが分かった。
1軒の家に264匹の犬
私たちはイギリス東部のノーフォークにある一軒家を訪ねた。
そこでは80代の夫婦とともに、1匹の犬が暮らしていた。プードル系の雑種のグレイシー13歳、人間でいえば90歳の老犬だ。

グレイシーは老夫婦と共に、静かな住宅街で幸せそうに暮らしているが、かつては壮絶な環境で生活していたという。
飼い主であるモーリーンさんは、グレイシーがかつて暮らした家の様子について、「見るたびに涙が出ます。彼女が何に耐えてきたのか、どんなふうに暮らしてきたのかを考えると…」と声を詰まらせた。

グレイシーがかつて住んでいた家はイギリス東部にある。
動物愛護団体の専門官がその家に立ち入った際の写真には、1つの部屋のありとあらゆる場所に犬がいる様子が映っていた。その数40匹。身を縮めて暖炉の中に入った犬もいた。

この住宅からは合わせて264匹が助け出され、グレイシーもそのうちの1匹だった。

薄暗い部屋で身を寄せ合うおびただしい数の犬の写真はイギリスで報じられ、あまりの光景に「AIで作られた画像ではないのか」という声が上がったほどだった。
スタッフ全員が涙
これらの現場で保護を行ったのは、「王立」の称号を持つイギリスの慈善団体、RSPCA・英国王立動物虐待防止協会だ。
世界でも先進的な仕組みを持つとされ、通報があると、警察や自治体と連携し、動物の保護や、悪質なケースの起訴につなげているという。

264匹の犬が保護された現場に立ち会ったRSPCAのカール・ソーンダーズ氏は「本当に胸が痛むものでした。動物たちがそこから出てくるのを見て、スタッフ全員が涙を流しました」と振り返った。

飼い主が高齢だったため世話ができなくなり、部屋の中で繁殖を繰り返した結果、多頭飼育崩壊に至ったのだという。
RSPCAの統計によると、同じ場所から100匹以上を保護した事案は、2025年の1年間で75件に上る。10匹以上の保護は5年前の約2500件から4300件と1.7倍に急増している。
なぜ、いま多頭飼育の崩壊が増えているのか。

