1986年、福井市内で女子中学生が殺害された事件で、殺人罪で服役した前川彰司さんは事件から39年後の2025年に再審で無罪を勝ち取った。それから1年、いまだ事件の真相は明らかになっていない。えん罪被害者、被害者遺族、それぞれが真犯人が裁かれる日を待ち続けている。

還暦を迎えた男性が40年間背負わされたもの

福井市に住む前川彰司さん(61)は、40年前に同市内で女子中学生が殺害された事件で、容疑者として逮捕された。

女子中学生が殺害された福井市内の集合住宅(1986年)
女子中学生が殺害された福井市内の集合住宅(1986年)
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一審・福井地裁は無罪を言い渡したが、検察が控訴。名古屋高裁金沢支部が懲役7年の逆転有罪判決を下し、最高裁も棄却。前川さんは服役することに。出所後も、前川さんは一貫して無罪を訴え続けた。

福井県警は前川彰司さんを容疑者として逮捕した
福井県警は前川彰司さんを容疑者として逮捕した

事態が動いたのは2024年10月。第2次再審請求を受け、名古屋高裁金沢支部が再審開始を決定。決め手は、2022年の再審請求後に新たに開示された287点もの証拠だった。弁護団の吉村悟弁護士は「それだけのものを警察・検察が隠していた」と断じた。

287点もの証拠が新たに開示された
287点もの証拠が新たに開示された

開示された証拠には、前川さんと行動していたとされる関係者が当初は事件への関与を否定していたこと、関係者が事件当日に見たと証言したテレビ番組のシーンが実際には放送されていなかったことなどが含まれていた。

物的証拠が乏しい中、約10人の青少年の供述が有罪認定の根拠となっていただけに、吉村弁護士は「開示証拠はその全てを弾劾するものだった」と言及した。

「失望を禁じ得ない」再審で裁判長が検察に宛てた言葉

2025年7月18日、再審の判決が下された。増田啓祐裁判長は「本件、控訴を棄却する」とし、一審の無罪判決を支持。「うその供述に沿う主要関係者の供述が形成された合理的疑いが払拭できない」と、捜査機関が関係者に不当に働きかけ供述を変遷させた疑いが残るとして「失望を禁じ得ない」と検察を強く非難した。

再審無罪を勝ち取った前川彰司さん
再審無罪を勝ち取った前川彰司さん

そして前川さんに対し「39年もの間、たいへんな苦労をかけてしまいました。申し訳なく思っています。事件にかかわった一裁判官として取り返しのつかないことになり、重く受け止めています。前川さんのこれからの人生に幸多からんことをお祈りしています」と述べた。

同年8月1日、名古屋高等検察庁は上告権を放棄し、前川さんの無罪が確定。吉村弁護士は「本来起訴すべき事件ではなかった。検察が作り上げた冤罪事件」と強く断じた。

 離れて暮らしていた姉「なんで妹なの…」

この事件を巡っては、えん罪被害を受けた前川さんだけでなく、もう一人苦しんでいる人物がいる。事件で被害にあった高橋智子さんの実の姉、大橋宏子さん(58)だ。

殺害された妹に語り掛ける大橋宏子さん
殺害された妹に語り掛ける大橋宏子さん

大橋さんは毎日、仏壇に手を合わせ智子さんに語り掛ける。

「お姉ちゃん、ちゃんとついてるで。安らかに寝てくださいね」

仏壇に置かれた智子さんの遺骨
仏壇に置かれた智子さんの遺骨

大橋さんの元には、智子さんの遺骨がある。「自分の側に置いておいた方が妹も寂しくないし喜ぶと思うから…」

当時、両親はすでに離婚していて大橋さんは父と暮らしていたが、定期的に母や智子さんと会っていた。

殺害現場となった集合住宅には大橋さんの母親と妹が住んでいた
殺害現場となった集合住宅には大橋さんの母親と妹が住んでいた

そんな中、事件は突然起きた。大橋さんは智子さんの死を、テレビのニュースで知ることになる。

「なんで妹がこんな目にあわないとあかんのか。なんで妹なの…」
いまも悲しみだけが残る。

涙を浮かべて話をする大橋さん
涙を浮かべて話をする大橋さん

かつて大橋さんは、犯人とされた前川さんに対して恨みの念を抱いていた時期もあった。しかし、再審で戦い続ける前川さんの姿をみていくうちに、その思いは大きく変わったという。

前川さんと支援者
前川さんと支援者

「犯人っていう目線で言われて辛かったと思うし、いまとなっては前川さんが無罪っていうのはすごく嬉しいこと。堂々と生きていってほしい」

 “検証をやらないでおこう”「暗黙の了解が警察にある」

前川さんが無罪となったことで、真犯人は別にいることが明らかになった。しかし、その正体はいまだ明らかにされていない。

真相解明を被害者遺族は訴えている
真相解明を被害者遺族は訴えている

大橋さんは「どうして妹を殺したのか、犯人の口からも聞きたい。犯人には早く自首して欲しい」と訴える。

さらに、真犯人を逃した警察に対しても不満を口にする。

「警察もちょっとおかしいんじゃないのと思う。弱い人の味方のはずなのに、前川さんを犯人に仕立てて…何でそんなことするんやて、私はそう思う」

ジャーナリストの大谷昭宏氏
ジャーナリストの大谷昭宏氏

福井事件を長年取材してきたジャーナリストの大谷昭宏氏も、当時の捜査を強く非難する。
「被害者の無念さや、やりきれなさ、ご遺族の持っていき場のない怒りはそっちのけで“容疑者が誰であろうと構わない”というのは、被害者の無念を晴らそうという気はなかったと言われても仕方がない」

2026年5月には名古屋高等検察庁が事件の検証を行うと発表し、裁判などに関わった検察官への聞きとり調査を行うことになった。しかし大谷氏は、検察より警察の検証こそが必要だと指摘する。

事件当時の福井県警察の会見
事件当時の福井県警察の会見

「きっちりとした検証を警察がしない限り、検察独自の検証は非常に無意味なものになってしまう。これだけの事件には相当な数の警察官が携わっていて、ご健在なのだから証言できるはず。私は『検証をやらないでおこう』という暗黙の了解が警察の中にあると思う」

「この事件は終わっていない」

殺人罪で7年間服役し、事件から39年後にようやく再審無罪を勝ち取った前川さんは「えん罪が晴れて良しとしたいところはあるが、福井事件がそもそもどういった事件だったか分かっていない中での投獄だった。そういう意味では釈然としない」と訴える。

「釈然としない」と語る前川さん
「釈然としない」と語る前川さん

そして大橋さんも「犯人が分からないままでは、やっぱりこの事件は終わっていない」と訴える。40年が経ったいまも、被害者遺族をはじめ、事件に関係した人たちの無念は晴らされていない。

福井テレビ
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