日本では昔から死をタブー視する傾向がある。
「死について話すなんて縁起でもない」と、人生の最期に考えることを躊躇する人も多い。しかし、どんな命も必ず終わりがある。
自分はどういう最期を迎えたいか
いつ来るかわからない死のために準備をする「終活」が、今ブームになりつつある。
毎年4月に渋谷で開催されているDeathフェスというイベントに、今年は5000人を超える人が訪れた。
死にまつわる様々な体験ブースや展示のほか、多数のトークセッションが人気を集めている。初回の来場者は2000人程度だったが年々増えている。若い人も多く、みんな楽しそうに棺に入ったり、エンディングドレスを試着したりしている。
どんな葬儀にしたいか、終末期医療はどうするのか、メールやサブスクなど、インターネット上の個人情報はどうしたらいいのか、死にまつわるさまざまな選択肢について知ることができる。臓器提供もそのひとつだ。
自分が脳死または心停止になったとき、臓器を提供する意思があるか、ないか。
2025年の世論調査では、意思表示をしている人は19.9%。記載した上で家族とも話している人は、9.7%にすぎない(※移植医療に関する世論調査 2025年7月調査より)。
自分はどうしたいのか生前に意思を伝えておかないと、最終判断は家族が行う。意思を記載するだけではなく、家族と話し合っておくことも大切だ。
600人に聞いた「臓器提供の意思表示してますか?」
Deathフェス内にブースを設け、来場者に「あなたは臓器提供の意思表示をしていますか?していませんか?」と聞いてみた。
606人に聞いたところ232人が運転免許証などに意思表示をしていると答えた。これは全体の38%だ。

死に関心がある人が来ているためか、世論調査の2倍という結果がでた。実は昨年も同じ調査をしており、全く同じ数字だった。
2025年のドナーは移植先進国の50分の1
では実際、日本の年間の臓器提供者数はどのくらいなのか。
2025年の1年間のドナーの数は146人と過去最高となった。1997年の臓器移植法施行当初から比べると大幅に増えている。ただ、この数はスペインやアメリカの50分の1だ。
2024年のデータでは、人口100万人あたりの臓器提供者数は、スペインは53.93人であるのに対し、日本は1.13人だった。

一方で移植以外に助かる見込みがなく、ドナーを待っている患者数は1万7000人以上もいる。ドナー数が少ないため、週に9人ペースで亡くなっているというのが現状だ。
移植医療においては4つの権利がある。
それは、「臓器を提供する・しない権利」「移植をうける・うけない権利」であり、どれも等しく尊重されるべきだ。
ただ、600人に聞いたアンケート結果からも見てとれるように、提供したい人が潜在的にはかなりいるにもかかわらず、なぜこんなにもドナー少ないのか。
提供が少ない理由は?
その理由の一つが、死を目前した終末期医療の現場にあった。
臓器提供のはじまりは終末期医療の現場なのだが、医師に聞くと、臓器提供の意思を拾い上げるための共通のしくみが無いというのだ。
病院ですべての患者に意思表示の有無を確認しているかというと、今はそうではない。
さっきまで救命をしていたのに、突然臓器提供の話を持ち出しにくいというのも理解できるが、詳しい説明は仲介役のコーディネーターが行う。
全ての死亡症例で意思確認(ルーティンリファーラル)をすることで、臓器提供は確実に増えるという調査結果もある。

移植に至るまでのプロセスにはたくさんの人が関わる。
脳死判定や臓器摘出、輸送、移植手術は休日や夜間に行われることも多い。医師不足や働き方改革で、負担が大きいという話をよく聞く。でも、「提供したい権利」もきちんと尊重されるべきだ。
経験値をもった病院もまだまだ少ないため、厚労省は現在拠点病院を整備したり、移植手術の診療報酬を約5倍に引き上げたりするなど、医療現場におけるシステムづくりを進めている。
必要な情報が足りていない
このほか、そもそも制度についての理解が進んでいない。
ヒアリングの際、一般の方から質問されたトップ3は以下である。
①何歳まで臓器提供できるの?
「自分はもう60代だし…」とか、「不摂生しているから提供できない」と思い込んでいる人が多い。年齢制限は臓器ごとに一応あるにはあるが、個人差があるため、その都度専門の医師が判断する。

ちなみに角膜の提供は年齢制限がなく100歳を超えても、また、心停止後でも提供できる。
年齢でダメと決めつけなくてもいいと伝えると、驚いていた。
②どうやって提供され提供後どうなるか
脳死とは脳の機能がすべて失われ二度と戻らないということ。そして、この状態から臓器提供をすると1人から最大11人を助けることができる。摘出手術は約3~5時間。通夜や葬儀も通常通り行えるが、このことも理解していない人が多かった。
また移植を受けた患者さんが見違えるほど元気になり、移植後30年以上経っている人を見て「よかったですね」と涙ぐむ人もいた。
③意思表示の方法がわからない
運転免許証、マイナンバーカードに意思表示覧があるのはご存じだろうか。なんとなく見たことがあるという人がいるが、記載していないケースがほとんどだ。
イベント会場でも、免許証の裏を見ると書いていたつもりが空欄だった人が多くいた。
免許証を更新するたびに記載が白紙にもどるため、再度記載する必要がある。
さらに、高齢者などが免許証を返納すると記載欄自体がなくなってしまうということも初めて知った。
会場で出会ったあるアメリカ人は、I am a donor(臓器提供をする人)といって誇らしげに免許証を見せてくれた。プラスチック製のカードには「DONOR♥」と印字されていた。
免許証を発行する際にドナーになる意思があるかどうかを聞かれるそうで、YESと答えると、運転免許証にこのように印字されてくるという(州によって異なる)。
これならば、わかりやすいし、消えたりもしない。
必要なのは丁寧な説明
このように、ドナーが少ない理由は色々考えられるが、移植医療そのものについて、まだまだ正しく理解していない人が多いことが肌感覚でわかった。
日本で脳死からの臓器提供が可能になってから来年で30年になる。
世論調査によると臓器移植について関心があると答えている人は63.2%もいる。その声に応えるべく、もっと丁寧なコミュニケーションの機会を増やすべきだと改めて感じた。
【執筆:フジ・メディア・ホールディングス サステナビリティ推進局局次長・日本循環器協会理事 木幡美子】

