長崎県南島原市にある古民家カフェが、県の内外から多くの客を集めている。
お目当ては地元特産の「手延べそうめん」。しかし、ただのそうめんではない。乾燥させる前の生のそうめんだ。一杯に込められた店主の思いと、衰退が進む地場産業の現実に迫った。
産地でしか食べられない特別な一品
南島原市にある「古民家 Café Ryu龍」。
2025年7月にオープンして以来、口コミなどで客足が増え、店内は平日もにぎわっている。
注文が相次ぐのは、地元名物の手延べそうめんを使ったランチだ。
使っているのは乾燥させる前の“生”のそうめんで、産地でしかなかなか手に入らない特別な一品である。店主の内田繁治さん(63)は、冷蔵庫の中で3〜4日間保存してから提供しているという。
内田さんは「裁断してすぐの生そうめんを出すよりも、日にちが経った方がすごくおいしい」と話す。
麺には歯応えと弾力があり、普段食べるそうめんとはひと味違う。
熊本市から訪れた客は「アイデアでちゃんと今風のおしゃれになっている」と話し、島原市からの客も「生と聞いていたので食べてみたいと思って来た。すごくおいしかった」と笑顔を見せた。
定年退職後、故郷への恩返しとして
店主の内田さんは2024年に市役所を定年退職し、第二の人生として妻の恵美さんと共にカフェを始めた。
築140年の古民家を改築した店は、明治時代の趣を今に伝えている。
開業を決めた理由は明確だった。内田さんは「うどん屋やそば屋などは全国各地に専門店があるが、そうめんの専門店ってあまり聞いたことがない。産地だからあってもいいんじゃないかということで」と語る。
内田さんは生そうめんを受け取るために、毎日のように製麺所に通っている。
昔なじみの職人が力を貸してくれ、「協力してもらえるそうめん屋がないと、生そうめんはもらえない。ここでしか生そうめんは食べられないと思う」と語る。
高齢化と物価高で揺れる製麺の里
南島原市は日本有数の手延べそうめんのまちで、生産量は年間約1万2000トンと全国2位を誇る。
しかし、その伝統は失われつつある。最盛期には約450の製麺所が軒を連ねていたが、高齢化と後継者不足で今では半分以下の約220軒にまで減少してしまった。
さらに、中東情勢の緊迫化などによる物価高が経営環境に追い打ちをかけている。
2026年で創業53年目を迎える上村製麺の上村新一社長は、「ここ4〜5年の間に原料の小麦価格が1000円以上上がっている感覚。すごい死活問題だ」と厳しい表情で語る。
内田さんの実家も製麺所を営んでいるが、後継者がいない。
内田さんは「兄が74歳になって高齢で毎日麺を作っていない。だから安定供給ができないので、知り合いの先輩に協力してもらい、そうめんを供給してもらっている」と語る。
決して遠くない将来に廃業することも覚悟している。これが南島原の現状でもある。
一杯のそうめんに込めた故郷への思い
生そうめんという他では食べられない特別な味を求めて、毎月約1000人が店を訪れている。
製麵所の上村社長も「特産品を使った食材でそうめん専門店をしているのは、僕らにとってもうれしいし、ありがたい」と内田さんの取り組みを歓迎する。
内田さんは「最近全国から訪れる人がいるので、南島原のそうめんをもっとPRできたら。恩返しじゃないけど、この南島原市が元気になればいいかなと思っている」と、今後の展望を語る。
一杯の生そうめんに込めた故郷への思い。内田さんの人生の第二幕は、始まったばかりだ。
(テレビ長崎)

